思い出
その日、キョウは第三身分の子どもたちに剣指導をしていた。
ルウ族には三つの身分がある。
第一身分は神の化身ともされる人たち。ルウの地中央にある大きな泉の真ん中に小さな島があってそこに住んでると言われている。ほんの数名しかおらず、最高位とも呼ばれる。
第二身分は、いわゆる兵隊である。主にレファイ家とラテーシア家がそれにあたる。ファウは第二身分だ。
第三身分はいわゆる平民だ。
キョウは第三身分だった。
なので、こうして同じ第三身分の子どもたちに剣指導や勉強をを教えることもある。
この時のキョウは髪を一本に束ねていた。
指導が一息ついたところで、「キョウ兄ちゃん、邪魔ならそんな髪切りなよ」
子どものうち一人がそう言った。
キョウは前髪を引っ張ってみながら、うーんと唸る。
確かに邪魔といえば邪魔な髪なのだが。
「切っちゃえば?」
「うん、切りなよー」
子どもたちがみんな切るのに賛成のようだ。
そうは言うものの、キョウは髪を切ることには抵抗があった。
――髪を切るかどうかで悩むなんて、女じゃあるまいし。
キョウが悩む理由は、まだ幼いころのこと。
ファウがすごくキョウの髪を褒めたことがった。
ままごとの延長のような遊びだった。同性の遊び相手がいないファウにしてみれば、髪の長いキョウはうってつけの遊び相手だったのだろう。
「きれいな髪ね」
なんて言いながら、櫛でキョウの髪を梳かしていた。
キョウはすごくそれが嬉しかった。
それから、自分流にきれいな髪を維持する努力もしていた。
当のファウ本人は忘れてしまっているようだったが。