1-9 ギルドに叱られました!
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ある休日、奴隷購入のために資金を稼ぐために、ギルドに来ていたニゴールの魔術師は、受付に、依頼の請負を申請したところ、受付の担当者から忠告を受けた。
「エインツ=タカオ様、あなた様がこれまでに遂行なさった任務について、その全てが、棚卸や商品管理、引っ越しの手伝いを中心とした雑務系となっております」
タカオは、その言葉に相槌を打った。
「ところで、エインツ=タカオ様は、当ギルドの名称はご存じでしょうか?」
タカオは、それに対して答える。
「冒険者ギルドでございます」
受付担当者は、その返答を聞き、言葉を続けた。
「その通りです。つまり、その言葉が意味するところは、冒険をする者です。エインツ=タカオ様は、冒険をするご予定はおありでしょうか? ハルバーツ学園の講師をしている関係上、遠出を避けていることはわかりますが、この大ニゴラスの地は、マジャール神領の首都であり、依頼も豊富です。当然、大ニゴラス近郊での冒険に関する業務もあります。『マシル三国の外憂』を解決なさったエインツ=タカオ様であれば、近郊に出てくる魔物くらいは簡単に倒すことができると考えられます。どうして、討伐系の依頼を受けていただけないのでしょうか?」
タカオは、その言葉に反論をしない。その沈黙に、受付担当者が更に言った。
「そもそも、冒険者ギルドの本義は、その冒険者たる精神にあります。エインツ=タカオ様は『黒衣の魔術師』『ニゴールの魔術師』ということでございます。どのように、戸籍回復のために王の勅命を賜ったのか、はわかりませんが、その名前があなたの真実であるのならば、あなたには、その実力がなければなりません」
タカオは、感情を動かさずに、その発言を聞いていた。タカオは、ギルドに対して、確かに、戸籍の写しと戸籍回復に関する勅書の写し、その他の必要書類を提出した。それゆえに、冒険者ギルドは、タカオの新規登録を受け入れたのであったが、いまいち、タカオのことを信じ切れずにいた。
「そこで、討伐依頼を一つ受けていただきたいのです」
受付の担当者がタカオに告げた。そこで、タカオは、初めて、質問をした。
「どのような魔物の討伐でしょうか?」
受付担当者が更に答える。
「はい、エインツ=タカオ様は、冒険者登録から日も浅く、ギルドランクが最低ランクから上昇しておりません。故に、それに見合った魔物を相手にしていただきます。大ニゴラスを出て、北に向かった所に、森があります。そこに棲むレッズを一体で構いません。討伐してきてください。こちらがギルドからの討伐依頼書です。ご確認ください」
担当者は、机上のファイルから、一枚の紙を取り出してタカオに渡した。レッズとは、その通り、赤い色をした魔物であり、丁度、陸亀の姿をしている。動きは極めて遅いが、その口から、火を噴くことがある。それが、時折、山火事の原因となるために、討伐対象の魔物と認定されている。しかし、実質的な戦闘能力は皆無に近かった。前方に向けて、若干の距離、火を放つ能力など、攻撃力と呼べるだろうか。俊敏に回頭できれば、また違うのだろうが、そんなことができるレッズはレッズではない。黒衣の魔術師もそれは知っていた。また、その確保の簡便さから報酬額も極めて低かった。とはいえ、棚卸などの誰でもできる依頼に比べれば、一応、魔物討伐であり、僅かに高い。
「その依頼をお受けします」
仕方なく、タカオは、その依頼を受けることにした。受付担当は、若干の思慮の後に、言葉を紡ぐ。
「では、討伐依頼は、初めて、ということですので、説明を受けますか?」
討伐依頼を完遂するためには、その魔物を、真実、倒したことを証明する必要がある。そのギルドのシステムは、百年前から変わっていなかった。
ギルドで説明を受けた後、黒衣の魔術師は、森を歩きながら、そのことを、非常に残念に感じていた。レッズを探して、森を彷徨うこと一時間。既に、何体かのレッズを発見している。しかし、それらは、突いても、殴っても、甲羅の中に頭を隠しており、討伐は不可能な状態であった。その甲羅は非常に堅く、タカオが使うナイフ剣では、傷を付けることがギリギリであった。
「レッズが重くなければ、そのまま持って帰るのでございますが……」
とタカオは一人途方に暮れていた。レッズを討伐したと証明するためには、その頭を切り取り、ギルドに提出しなければならない。そのためには、頭が出ている状態のレッズを討つ必要がある。
「頭を出しているレッズ、なかなかいないものでございますね」
そうして、更に、レッズを探すこと、三時間、ついに、タカオは、頭を出しているレッズを発見した。タカオは、それを目視すると、静寂を意識して、接近を試みる。
数歩近づく、レッズはまだタカオに気がついていない。タカオは、ナイフ剣を鞘から取り出した。しかし、それが手に着かず、ナイフ剣が地面にぶつかる音が鈍く響いた。タカオは慌てて、そのナイフ剣を拾った。その音が聞こえたようで、レッズは、その頭の方向に、火を噴いた。それは、外敵に対する防衛を意識した攻撃であったが、タカオのいる方向とは、まるで見当違いの方向だった。
タカオは、気づかれた、と判断して、レッズに向けて、一目散に駆け寄る。レッズは、いまだ、火を噴き続けている。レッズの火炎は、その放射方向が限定される。恐るるに足らず。タカオは、その火を噴いている頭に向けて、ナイフ剣を振り下ろした。しかし、その一撃は、頭に当たらず、レッズの甲羅に当たり、タカオは、そのナイフ剣を弾かれた。この段になって、レッズは、攻撃を中止し、その自らが誇る絶対防御を行使しようとした。つまり、頭を甲の中に引っ込め始めたのである。タカオは、焦って、魔法を行使する。そのナイフ剣を取り落とした後の右手をレッズに当てる。そして、その瞬間、レッズは、消えた。
レッズが消えたことを視認した後、タカオは、頭を押さえて、天を仰いだ。
「これでは、討伐証明ができないのでございます」
気を取り直して、タカオは、新たなレッズを探し始めた。次の討伐可能であるレッズが見つかるのは、いつになるだろうか、そんなことを黒衣の魔術師は考えていた。
※ ※ ※ ※ ※
黒衣の魔術師は、その夜、部屋で酒を飲んでいた。タカオの部屋は、ハルバーツ学園の教員寮が宛がわれている。それは、丁度、学園の正門横にあり、門横にある木々が田臥とタカオの酒宴を盛り上げていた。
「結局、今日は、レッズを討伐することができなかったのでございます」
タカオは、その飲み相手の田臥にごちる。田臥が問いかける。
「お前さん、もしかして、格闘戦や魔法戦が苦手なのか?」
黒衣の魔術師は答える。
「魔法戦は、勿論、苦手ではないのでございますが……」
たこのように顔が赤くなった田臥がそのタカオの言葉に言葉を続ける。部屋の窓から見える外では、迎椿の花が、その本来咲く季節となって、華々しい。
「ああ、消せるから、通常の魔法戦を戦う必要がないのか」
「ええ、まあ、そうでございますね。消しているわけではないのでございますが……」
そこで、田臥が、手元のボトルからカップに林檎酒を注いだ。田臥がそれを口に含む。カップから口を離すと、田臥は感想を呟いた。
「この酒も、シードルだったら良いんだがな。どちらかといえば、アプフェルバインだ」
タカオは耳慣れない言葉に興味を持たず、手元の蒸留酒を飲んでいた。
「なあ、お前さん、もしかして、奴隷を欲しがっているのは、ハーレムを作るためだけではなくて、護衛の必要もあるからなのか?」
田臥が問いかける。タカオはそれに答える。
「護衛は必要ないのでございますが、戦闘能力が高い奴隷がいれば、何が何でも手に入れるつもりはございました」
「いなかったのか?」
田臥が問いを重ねる。
「いなかったのでございます。大きな奴隷商会に仕事で行った際に調べました。もちろん、護衛や戦闘を専門とする奴隷には、それなりの強い男性の奴隷もおりました。しかし、彼らは、私が求めるレベルに達していないようでございました」
タカオは、表情を変えずに答えた。空の星が薄雲を越えて輝いている。それを見ながら、タカオは、もう一杯、蒸留酒を呷った。
「そもそも、お前さんは、なんで奴隷ハーレムを作りたいんだ? エロいことが好きだというなら、この前、娼館に行くのを断ったのは理解できねえ。俺は、結構、執拗に誘ったはずだぜ」
田臥が、タカオに問いかける。
「ああ、そのことでございますか」
タカオにも、それなりに、酒が入っている。平生であれば、適当に誤魔化すような話しではあったが、今、それに答えようとしていた。タカオは、回答を続けた。
「私としては、子供が欲しいのでございます。そのために、最善の方策は、やはり、奴隷ハーレムを作ることでございます」
その全身の筋肉を酒で赤くしながら、田臥が更に問うた。
「それは、普通に結婚したのでは、ダメなのか? 百年前に、姫さんと結婚する方法もあったはずだし、王族だから、嫌だ、というにしても、その名声、中肉中背の肉体、冷静な顔立ち、それなりに、女性には縁があるだろう」
タカオは、その問いに対して、沈黙で答えた。二人は、お互いに、星の輝きと華の美しさを肴にして、酒を飲む。やがて、木から、一輪の赤い花が落ちた。タカオが呟く。
「それは、中々に、難しいのでございます……」
田臥は、その言葉に対して、沈黙を守った。代わりに、話題転換の為に、異なる内容の問いを与えた。
「最初は、どんな奴隷にするか、決めたか? やはり、最初は、普通人間種か? それとも、実は、何か、特殊な性癖があったりするのか?」
タカオは答えた。
「そうでございますね。やはり、普通人間種が最も良いかもしれません。先日、奴隷商会にて、棚卸の仕事を請け負ったのでございます。その際に、どのような種族の奴隷が入手しやすいか、という点についても考えたのでございますが……」
タカオと違い、田臥にとって、奴隷というものは、その興味の最大事ではない。しかし、田臥は、希に、娼館に行く程度には、女好きである。別段、奴隷トークが嫌いというわけではない。田臥は、少し、興味を持って、それに相槌を打った。
「それで、やはり、普通人間種が入手しやすいのか?」
「そうでございますね。やはり、同じ美しさであれば、普通人間種が最も安くはありました。また、数もおりましたので、やはり、選ぶことができる、という点で、普通人間種が最も優れているのでございます」
タカオは、田臥に説明した。田臥は、つまみに用意された、豆をつまむ。そして、それに同意した。
「まあ、結局、この街に来る交易品は、普通人間種の人口割合が多い地域からのものが主となっているから、そんなもんかもしれないな」
タカオは、それまでの説明に補足する。
「とはいえ、どうしても欲しいと思える奴隷であれば、どの種族であろうとも購入するつもりではございます」
それはとても力強い決意表明だった。
「まあ、その前に、レッズを倒すところから始めないといけないがな。ガッハッハ!」
そう言って、田臥は、筋肉を躍動させた。
「そうでございますね」
タカオもそれに釣られて苦笑した。
「なんなら手伝ってやろうか? これでも転生者である前に、元軍人もどきだ。レッズ程度なら、軽く一捻りで、討伐できるぞ」
田臥がタカオにとって、魅力的な提案をした。
「いえ、この程度のことであれば、私が一人で立ち向かわなければならないのでございます。それが、奴隷ハーレムへの第一歩なのでございます」
と言って、タカオは、それを断った。それを聞いた、田臥は、
「ガッハッハ、その意気だ!」
と笑いながら、タカオの背中を二度、三度、叩いた。
黒衣の魔術師が飲んでいる杯には、一際明るく大きな星が一つ輝いている。
「明日の休日は、奴隷商会に出向き、商品を見ることで、私自身の士気を向上させ、レッズ討伐に出向くつもりでございます」
そう言って、黒衣の魔術師は立ち上がった。
「おお、頑張って来いよ!」
田臥は、そう叫ぶと、突如、板葺き床に、その頭をその背後に打ち付けた。タカオが驚いて、彼の無事を確認すると、ガー、ガーと寝息がしていた。
「寝てしまったのでございますね。暖かくなってきたとはいえ、体に良くないのでございます」
そう言って、タカオは、田臥に、布団を掛けた。




