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見難い火傷の子  作者: 清風
556/601

ゴレムさん編 朝の現場、次の視点

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子556


ゴレムさん編 朝の現場、次の視点


翌朝、ゴレムは帳面を閉じたまま、しばらくその表紙に手を置いていた。

昨夜のうちに整理した記録は、まだ完全ではない。

だが、少なくとも「何を見たのか」は自分の中で形になり始めていた。

軌道そのもの。

敷設メンテゴーレム。

補給と保守。

工程の流れ。

そして、その先にあるかもしれないオートマタ。


知ったことは増えた。

だが同時に、知らないこともはっきり増えた。

それが不安ではなく、むしろ次に見るべきものを示しているように感じられるのが、

今の自分には少し不思議だった。


「起きてる?」 と、扉の向こうからテレースの声がした。

「はい」

「入るわよ」

「どうぞ」


扉が開き、テレースが顔を出す。

彼女は一目で、ゴレムがもう完全に目を覚ましていることを見て取ったらしい。


「今日は少し静かね」

「そうでしょうか」

「ええ。昨日みたいな、今にも飛び出しそうな感じじゃない」

「整理したからかもしれません」

「なるほど」

「何を見るべきか、少し分かってきました」

「それは良いことね」


朝食を取りながら、ゴレムは昨日の記録を頭の中でなぞっていた。

ただ感動するだけではなく、今日はもう少し違う見方ができるかもしれない。

構造だけでなく、流れ。

個々の部材だけでなく、全体の接続。

ゴーレム単体ではなく、人との役割分担。


「また現場へ行くのよね」 とテレースが言う。

「はい」

「今日は何を見るの?」

「工程の切れ目を」

「切れ目」

「どこで人が判断し、どこでゴーレムが支え、どこで流れが止まるのか」

「……昨日より具体的ね」

「はい」

「いい顔してるわ」

「そうでしょうか」

「ええ。昨日は圧倒されてた。今日は考えてる顔」

「それは、たぶん」 ゴレムは少しだけ考えてから言った。

「嬉しいからです」

「……」

「見たいものを、どう見ればいいか分かってきたので」

「そう」 テレースは少しだけ笑った。

「本当に、楽しそうね」


現場へ向かう道は、昨日よりも少し落ち着いて見えた。

もちろん人の流れは多い。

資材を運ぶ者、指示を受ける者、点検に向かう者。

だが、昨日はその全てが一度に押し寄せてきたのに対し、今日は少しずつ分けて見える。


「昨日は見えていなかったものが見えます」 とゴレムは言った。

「何が?」

「順番です」

「順番」

「人が先に動く場所と、ゴーレムが先に入る場所が違う」

「へえ」

「全部を同じように扱っていません」

「それは大事なの?」

「はい。役割分担の思想が見えます」

「なるほど」


現場に着くと、ちょうど朝の立ち上がりの時間帯だった。

作業開始前の確認が行われ、資材の配置が見直され、ゴーレムにも点検が入っている。

動いている最中だけではなく、動き出す前の準備にも秩序がある。


「始まる前から始まっている」 とゴレムは小さく言った。

「何それ」 とテレースが聞く。

「作業です」

「ええ」

「実際に部材を動かす前に、流れはもう作られている」

「……なるほどね」

「だから、現場で慌てない」

「昨日のあなたとは逆ね」

「……否定は難しいです」


テレースが笑う。

ゴレムも少しだけ、自分で可笑しかった。


しばらく観察していると、一本のレールを運び込む工程が始まった。

まず人が進路を確認し、置き場からの搬出を指示する。

次にゴーレムが持ち上げ、別の作業者が先の位置を合わせる。

固定具はその後だ。

つまり、力、位置、固定が一度に行われるのではなく、段階ごとに切り分けられている。


「分離されています」 とゴレムは言う。

「何が?」

「作業の責任です」

「責任」

「持ち上げる者、合わせる者、固定する者」

「ええ」

「それぞれが違う」

「一人で全部やらないのね」

「はい。その方が精度も確認も取りやすい」

「なるほど」


ゴレムは帳面に、昨日よりも整った字で書き込んでいく。

感動は消えていない。

だが今日は、その感動を少しだけ言葉に変えられる。


「ゴーレムは」 と彼は続けた。

「工程の中で、最もぶれが困る部分を担っているように見えます」

「ぶれが困る部分?」

「保持や反復です」

「同じことを、同じようにやるところ?」

「はい。人の技量に頼りすぎると、差が出る」

「でもゴーレムなら揃えやすい」

「そうです」

「なるほど」


その時、少し離れた場所で、別の機体が停止して点検を受けているのが見えた。

作業者が関節部を確認し、工具を差し込み、何かを調整している。

ゴーレムはただ使われるだけではなく、現場の一部として保守されている。


「機体も流れの中にあります」 とゴレムは言った。

「それも昨日言ってたわね」

「はい。でも今日は、もう少し分かります」

「何が?」

「ゴーレムは道具ですが、消耗品ではありません」

「ええ」

「維持しながら使う前提です」

「高価だから?」

「それもあります。ですが、それ以上に」

「うん」

「工程の信頼性を支える存在だからです」

「……」

「壊れたら困る、ではなく、壊さないように組み込まれている」

「なるほどね」


テレースは腕を組み、現場を見た。

彼女には細部の違いまでは分からない。

だが、ゴレムが昨日より一段深いところを見ているのは分かった。


「オートマタだったら」 と彼女がふと言う。

「そこも変わるのかしら」

「変わるかもしれません」

「どう変わるの?」

「まだ分かりません」

「珍しく断言しないのね」

「見ていないので」

「ええ」

「ですが、判断を内側に持つなら」

「うん」

「工程の切り分け方そのものが変わる可能性があります」

「……」

「人が見る場所、機械が見る場所、その境界が動くかもしれません」

「それは大きい?」

「非常に」

「また出たわね」

「重要ですので」

「ええ、分かるわ」


昼前まで見て、二人は少し離れた場所で休むことにした。

現場の全景が見える土手のような場所に腰を下ろし、持ってきた水を飲む。

遠くでは、相変わらず規則的に作業が進んでいた。


「どう?」 とテレースが聞く。

「昨日より、好きになりました」

「……」

「そういう言い方になるのね」

「はい」

「理解すると、好きになる?」

「理解しようとすると、もっと見えてきます」

「ええ」

「見えてくると、面白いです」

「それで好きになる」

「はい」

「本当に、良い変化ね」


ゴレムは少しだけ空を見た。

軌道は地の上にある。

だが、その先にあるのは、ただの線ではない。

人の考え方を揃え、作業を分け、流れを作り、未来を通すための仕組みだ。


そして、その仕組みの先に、まだ見ぬオートマタがあるかもしれない。

そう思うと、旅はまだまだ終わらない。


ホーネット幕府で見たものは、単なる珍しい技術ではなかった。

ゴレムにとってそれは、世界の進み方そのものを示す光景になりつつあった。

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