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見難い火傷の子  作者: 清風
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481/524

ゴーレムエリアで起きた出来事

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子481


ゴーレムエリアで起きた出来事


深淵ダンジョン第四エリア・ゴーレムエリア

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


第四エリア受付担当 サリー提出

深淵ダンジョン管理局内部記録用


概要

本報告書は、ゴーレムエリアにおいて発生した一連の事象について、

受付担当である私、サリーが確認・記録したものである。

なお、報告対象には爆炎一行の第四エリア到達、接遇対応、戦闘評価、訓練実施、

並びにその結果生じた戦力変化を含む。


結論から述べると、第四エリアは従来の運用基準を維持できなくなった。

理由は、爆炎一行が来訪したためである。


一、爆炎一行の第四エリア到達について

当第四エリアは、古代遺跡型構造を有する高難度区域であり、

各要所には屈強なゴーレムが配置されている。

通常、当該エリアに到達した冒険者は戦闘継続が困難となり、

命を落とす危険性が極めて高い。

そのため、深淵ダンジョンにおいて実質的な利用可能区域は第三エリアまでとされ、

第四エリア以降は未踏破領域に準ずる扱いであった。


しかし当日、爆炎一行は例外として第四エリアへ到達した。

到達時の一行の様子は極めて平静であり、疲弊、緊張、警戒のいずれも薄かった。

同行者ダン殿は「ここ、広いっすね」と述べ、

マリー殿は「水飲み場もあるなんて、深淵ダンジョンやるじゃない」と評価した。

この時点で、当方は通常の来訪者対応が通用しないことを理解した。


二、接遇対応について

本部より、爆炎一行に対しては最大限の接遇を行うよう通達を受けていた。

そのため私は、第四エリア安全区画内に設けられた隠し扉および隠し部屋を案内した。


当該施設には以下を常備している。


バス

キッチン

寝室

リビング

ダイニング

なお、仏間および床の間はオプション扱いである。


私は、ダンジョン攻略の疲労を癒やす空間として有効活用いただけるものと説明したが、

爆炎リーダー殿は一瞥の後、

「住宅展示場か」

と述べた。


この発言の意図は不明であるが、施設の充実度について一定の評価を得たものと判断する。


三、既存ゴーレム戦力に対する評価

接遇後、爆炎リーダー殿は道中で交戦したゴーレム群について、以下の評価を口頭で示した。


反応が遅い

戦い方が単調

攻めが甘い

私はこれまで当エリアのゴーレム戦力に対し、そのような評価を受けたことがなかったため、

率直に「それを言われたのは初めてでございます」と返答した。


すると爆炎リーダー殿は、

「地獄の一週間する?」

と提案した。


当初、私はその意味を正確に理解していなかった。

しかし訓練の申し出であると判断し、訓練実施可能区域として以下を提示した。


闘技場

野戦エリア

市街戦エリア

これに対し、爆炎リーダー殿は、

「じゃ明日から、ゴーレム集めといて」

と指示した。


私はこれを了承した。

この時点では、後に第四エリアの戦力体系そのものが書き換えられるとは予測していなかった。


四、訓練実施について

翌日より一週間にわたり、第四エリア所属ゴーレム群に対する集中訓練が実施された。

訓練内容の詳細については、現時点で完全な言語化が困難である。

理由は、訓練速度、内容密度、及び要求水準が従来の管理局基準を大幅に超過していたためである。


確認できた範囲では、以下の要素が含まれていた。


初動反応速度の改善

複数体連携行動

包囲および分断行動

地形利用

市街戦想定機動

闘技場における対個体戦闘最適化

野戦時の突撃および追撃精度向上

破損後の再編成判断

特筆すべきは、爆炎リーダー殿がゴーレムを単なる鈍重な防衛兵器として扱わず、

状況判断を伴う実戦戦力

として再設計していた点である。


訓練期間中、複数の管理局職員が見学を試みたが、途中で記録を断念した。

理由は、何が起きているのか理解が追いつかなかったためである。


五、訓練結果について

一週間後、第四エリア所属ゴーレム群は従来戦力とは別物と呼ぶべき状態に到達した。

管理局内では便宜上、これを

「精鋭ゴーレムバーサーカー隊」

と呼称することとなった。


当該部隊の特徴は以下の通りである。


高い初動速度

単調でない攻撃選択

集団連携能力の向上

地形対応力の獲得

継戦能力の増大

対高機動目標への追従性改善

従来、第四エリアのゴーレムは「強固ではあるが読みやすい」戦力であった。

しかし訓練後は「強固であり、なおかつ読みづらい」戦力へと変化した。


これは防衛戦力として極めて有用である一方、

そんなに強くして誰と戦うのか

という根本的疑問を管理局職員一同に抱かせる結果となった。


六、武闘会開催準備について

訓練成果確認の一環として、模擬戦の実施が検討された。

私は訓練の集大成として、適切な演出と場の整備が必要であると判断した。

そのため闘技場に

「ダンジョン一武闘会」

と記した垂れ幕を設置した。


当該垂れ幕は、視認性、格式、催事性を考慮して作成したものである。

しかし爆炎リーダー殿は闘技場到着後、垂れ幕を見上げてしばらく沈黙し、

「誰だ作ったのは」

と発言した。


私が「私です」と回答したところ、ダン殿より

「必要ではないっす」

との意見が出された。


私は必要であると考えていたため、一時的に判断に迷いを生じた。

ただしマリー殿は完全否定を行わず、結果として垂れ幕はそのまま使用された。


七、総括

爆炎一行の来訪により、第四エリア・ゴーレムエリアでは以下の変化が発生した。


安全区画が宿泊・接遇施設として正式運用可能であることが確認された

既存ゴーレム戦力の欠点が明確化された

一週間の集中訓練により、精鋭ゴーレムバーサーカー隊が誕生した

模擬戦実施に向けた催事環境が整備された

第四エリア管理局職員の常識が一部損傷した

特に重要なのは、爆炎一行が第四エリアを

攻略対象

としてではなく、

改善可能な現場

として扱った点である。


これにより、第四エリアは単なる死地ではなく、

訓練・運用・接遇・模擬戦実施まで可能な多機能区域へと変質しつつある。

この変化が管理局にとって利益であるか損失であるかは、現時点では判断不能である。


ただし一つだけ確実に言えることがある。

爆炎一行が再び何かを思いついた場合、第四エリアはさらに別のものへ変わる可能性が高い。


以上、報告を終える。


追記

垂れ幕については撤去指示が出ていないため、現在も保管中である。

再利用の可能性を考慮し、状態は良好に維持している。


追記二

管理局内の一部職員より、次回開催時には優勝杯の準備も必要ではないかとの意見が出ている。

私はまだ返答していない。


………………………………………………………………………………………………………………………


闘技場に、重い沈黙が落ちていた。


先ほどまで響いていた激突音は消え、残っているのは砕けた石片と、

整列し直したゴーレムバーサーカー隊、

そして無傷に近いまま戻ってきたルナ達オートマタ隊だけだった。


深淵ダンジョン第四エリア管理局職員一同は、誰も口を開けなかった。

誇らしかったはずの精鋭ゴーレムバーサーカー隊が、負けたわけではない。

だが、勝てなかった。

しかもその理由が、単純な出力差ではないことだけは、素人目にも分かってしまった。


垂れ幕――

ダンジョン一武闘会

が、やけに元気よく揺れているのが腹立たしかった。


ダンがぽりぽりと頬をかきながら、整列したゴーレム隊とルナ隊を見比べた。


「いや……十分強いっすよね、あいつら」


「強いわよ」

マリーは腕を組んだまま、あっさり言った。

「第四エリアの標準から見れば、別物なくらいにはね。でも、ルナ達とやると粗が出る」


ルナは一歩前に出て、淡々と報告した。


「対戦結果を報告します。

ゴーレムバーサーカー隊は高耐久、高出力、集団突撃性能に優れていました。

正面制圧能力は高く、野戦環境では脅威度大と判定します」


サリーの顔が、ぱっと明るくなる。


「おお……!」


だがルナはそのまま続けた。


「一方で、戦術更新に遅れが見られました。

行動選択に旧式化傾向あり。

崩しから拘束、拘束から制圧への移行が遅く、対大型目標徒手制圧の概念が未導入です」


サリーの表情が固まった。


「きゅ、旧式化……」


管理局職員の一人が青い顔でつぶやく。


「対大型目標……徒手制圧……?」


「何ですかそれは……」


「知らん」

ダンが即答した。

「俺も知らんっす」


そのときだった。

今まで黙って試合を見ていたリーダーが、ようやく口を開いた。


「ゴーレムバーサーカー隊は悪くない」


その一言で、サリーの肩がびくりと跳ねた。

管理局職員一同も、祈るような目でリーダーを見る。


リーダーは整列したゴーレム達を見ながら、いつもの調子で言った。


「本体性能は上がってる。出力も耐久も連携も、前よりずっといい。正面からぶつけるなら十分強い」


「は、はい!」

サリーが思わず背筋を伸ばす。


「でもな」


リーダーはそこで一拍置いた。

嫌な予感しかしない間だった。


「スマホに黒電話の受話器を繋げたみたいな状態だ」


闘技場が静まり返った。


ダンが最初に反応した。


「……あー」


マリーが片眉を上げる。


「なるほどね」


サリーだけが取り残される。


「す、すみません、どういう意味でしょうか」


リーダーは面倒くさそうでもなく、むしろ本当に分かりやすく説明してやっている顔で答えた。


「本体は新しくなってる。性能も高い。けど、使い方の根っこが古いってことだ」


「根っこ……」


「連携は良くなった。反応も上がった。

突撃も包囲も前よりずっとマシだ。

けど、戦い方の発想がまだ古い。

だからルナ隊みたいな新しい型と当たると、そこが目立つ」


ルナが静かにうなずく。


「肯定します。現行仕様との差異を確認しました」


管理局職員の一人が、おそるおそる手を挙げた。


「あの……つまり、我々の精鋭ゴーレムバーサーカー隊は、弱いのでしょうか……」


「違う」

リーダーは即答した。

「旧型なだけだ」


その言葉に、職員達の顔にわずかに生気が戻る。

だが次の一言で、また消えた。


「あと、徒手ダイナソー制圧術が入ってない」


「……は?」


サリーが止まった。

ダンも止まった。

管理局職員一同も止まった。

垂れ幕だけが風に揺れていた。


マリーが先に口を開いた。


「そこなの?」


「そこだな」


「そこなんすか!?」

ダンがたまらず叫んだ。

「いやいやいや、ゴーレムに何を覚えさせる気なんすか!」


リーダーはきょとんとした顔でダンを見る。


「大型相手の崩し、関節制御、重心移動の誘導、転倒後の拘束、集団制圧。基本だろ」


「何の基本っすか!」


「徒手ダイナソー制圧の基本」


「その基本が分かんないっすよ!」


サリーが恐る恐る尋ねた。


「あの……徒手、ということは……武器を使わずに、でございますか」


「そう」


「ダイナソーを?」


「そう」


「制圧を?」


「そう」


サリーは数秒黙ったあと、静かに視線を落とした。


「……未導入でございました」


「だろうな」


リーダーはあっさり言った。

まるで、朝食に塩が足りなかったとでも言うような口調だった。


「だから旧式化が目立つ。ルナ隊はそのへんまで入ってる」


ルナが一礼する。


「マスター監修のもと、対大型獣格闘、対群体制圧、対高出力個体拘束の各訓練課程を修了済みです」


管理局職員の一人が、遠い目をした。


「修了済み……」


「終わってる……」


「始まってもいないのに……」


サリーはぎゅっと拳を握った。

悔しさと、責任感と、そして少しの使命感がその顔に浮かぶ。


「リーダー殿」


「ん?」


「再訓練を、お願いできますでしょうか」


ダンが横で頭を抱えた。


「うわ、言っちゃったっす……」


マリーは楽しそうに笑う。


「言うと思ったわ」


リーダーは少しだけ考え、それから整列したゴーレムバーサーカー隊を見た。

無骨で、重く、硬く、強い。

だが確かに、まだ古い。


「いいぞ」


サリーの顔がぱっと上がる。


「本当ですか!」


「再訓練すれば、もっと良くなる。素体は悪くない」


「ありがとうございます!」


深々と頭を下げるサリーの後ろで、管理局職員一同がざわついた。


「またやるのか……」


「地獄の一週間、再び……」


「今度は何を覚えさせられるんだ……」


「ダイナソー……」


リーダーはそんな職員達を見て、さらりと言った。


「一週間じゃ足りないかもな」


その瞬間、何人かの職員が膝をついた。


ダンが乾いた声を出す。


「第四エリア、またおかしくなるっすね……」


マリーは揺れる垂れ幕を見上げ、くすりと笑った。


「いいじゃない。せっかく“ダンジョン一武闘会”なんて立派な垂れ幕まであるんだもの。

次はもっと見応えが出るわ」


サリーはその言葉に、はっとした顔をした。


「……では、次回開催に向けて、優勝杯もご用意した方がよろしいでしょうか」


「いらないっす!」

ダンが即座に突っ込む。


だがリーダーは少しだけ考えてから、


「いや、あってもいいか」


と言った。


「良くないっす!!」


闘技場の空気が、また少しだけおかしくなった。

深淵ダンジョン第四エリア。

本来なら誰も近づかぬ死地であるその場所は、今日もまた爆炎クランによって、

別の何かへと作り変えられていくのだった。

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