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見難い火傷の子  作者: 清風
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452/477

マル・カク・トーラスが、チャリで来た

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子452


マル・カク・トーラスが、チャリで来た


深淵ダンジョン第十六エリア/第四紀完新世層

青銅の時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


爆炎ハウス前に、急制動の音が三つ重なった。

砂を蹴り、荷台を鳴らし、三台の軍用山岳自転車が門前で止まる。


マル・カク・トーラスが、チャリで来た。


門番役の視線が揃って下りる。

乗っているのは、見覚えのある三羽だった。

昔より背が伸び、装備も軍のものになっている。

胸当て、伝令筒、脚部固定具、背嚢。

どれも使い込まれていた。

だが、目つきだけはあの頃のままだ。


「帝都伝令!」

先頭のマルが叫ぶ。

「緊急通達を持ってきた!」


「通達だけじゃない」

カクが息を整えながら言う。

「途中の街道で、変なのを見た」


「先に中入れろよ」

トーラスが荷筒を抱えたまま言った。

「腹減ったし、喉渇いたし、尻痛い」


門番役が一瞬だけ顔を見合わせる。

だが三羽の胸章を見て、すぐに脇へ退いた。

帝国伝令部隊の正式章。

遊びで飛び込んできたわけではない。


「通せ」


奥から声がした。

匠一だった。


いつの間にか玄関口まで出てきている。

三羽は一斉に姿勢を正した。

正したが、完全には揃わない。

そのへんは昔から変わらない。


「久しぶりです!」

マルが言う。


「勤務中だろ」

匠一は言った。

「まず用件」


「はい!」


今度は三羽とも揃った。


セレネとノクスも奥から出てくる。

セレネはすでに記録板を持っていた。

ノクスは三台の自転車と三羽の装備の泥はねを見ている。

どこをどう走ってきたか、だいたい読んでいる顔だった。


「帝都中央伝令局より、封緘通達一件」

マルが伝令筒を差し出す。


「加えて、口頭急報一件」

カクが続ける。


「街道南寄り、第三石柱から第七石柱の間で、地形の見え方に異常」

トーラスが言った。

「道が、変だった」


匠一の目が少し細くなる。

「“変”で済む話か」


「済まない」

カクが即答した。

「最初、道の先に荷車が見えた。追い越せる距離だった。

でも、近づいたら消えた」


「幻視か」

ノクスが言う。


「たぶん、それだけじゃない」

マルが首を振る。

「轍はあった。糞も落ちてた。

でも荷車本体だけ、途中から話が繋がらなくなった」


セレネが記録板へ走り書きする。

「対象認識の脱落。痕跡は残存」


「それと」

トーラスが言いかけて、少し黙った。

「……俺たち、途中で一回、数を数え直した」


「何をだ」

匠一が聞く。


「俺たちを」

トーラスが答えた。


一瞬、空気が止まる。


「三羽で走ってた」

トーラスは続けた。

「ずっとそうだ。

でも坂を下りたところで、なんか変な感じがした。

だから止まって、互いの顔見て、名前呼んで、荷物見て、数え直した」


「結果は」

セレネが聞く。


「三羽だった」

マルが答えた。

「ちゃんと三羽いた。

でも、数え直すまで、なんで止まったのか自分でも分からなかった」


ノクスが静かに息を吐く。

「予兆ですね」


「街道まで来たか」

匠一が言う。


「まだ断定はできません」

セレネは封緘通達を受け取りながら答えた。

「ですが、類似性はあります」


匠一は三羽を見た。

泥だらけだ。

脚も震えている。

急報を優先して、まともに休まず飛ばしてきたのが分かる。


「中入れ」

匠一が言った。

「水飲め。食うもんも出す」


「やった」

トーラスの目が一瞬で生き返る。


「ただし」

匠一が続ける。

「食う前に、見たもん全部吐け。順番にだ」


「はい!」


三羽は自転車を降りた。

その動きは速い。

だが、門をくぐる寸前で、三羽そろってぴたりと止まった。


視線の先は、格納区画の半開きの扉だった。


中にあるものが見えたのだ。


金属骨格。

薄く畳まれた巨大な翅。

節のある長い胴。

待機光を青く脈打たせる複眼型の前部観測器。

虫の形を借りた高速機動機――オートメガネウラ。


三羽の目が、同時に輝いた。


「……なにあれ」

マルが言った。


「虫だ」

トーラスが言った。


「虫だな」

カクも言う。

その声だけで、もう半分くらい心を持っていかれているのが分かる。


匠一が眉を寄せる。

「お前ら、そこ食いつくのか」


「食いつくだろ」

トーラスが即答した。

「だって虫だぞ。でかいし、速そうだし、なんかすごい光ってるし」


「任務中だ」

セレネが言う。


「分かってます!」

マルが言った。

言ったが、目はまだオートメガネウラから離れていない。


カクが一歩だけ前へ出る。

「これ、飛行型ですか」


「そうだ」

ノクスが答える。

「自律補助あり。高速伝達、観測、短距離強襲向けです」


「乗れるのか」

トーラスが聞く。


「お前はまず飯だ」

匠一が切った。


「ですよね」


だが三羽とも、顔だけは妙に嬉しそうだった。

緊急伝令で飛び込んできたはずなのに、ほんの一瞬だけ昔の森へ戻ったみたいな顔をしている。


匠一はそれを見て、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。

それからすぐに戻す。


「セレネ、通達開けろ。

ノクス、街道異常の聞き取り。

三羽、お前らは食いながら喋れ。止まるな」


「はい!」


「あと」

匠一が言う。


三羽が揃って振り向く。


「チャリ、悪くなかったな」


一拍遅れて、三羽の顔がぱっと明るくなった。


「だろ!」

と、マル。


「だから言っただろ!」

と、カク。


「最初にもらっといて正解だった!」

と、トーラス。


「貸した覚えはない」

匠一は言った。

「乗れたらやる、だったろ」


三羽は一瞬だけ黙り、

それから同時に笑った。


緊急通達。

街道異常。

認識の揺らぎ。

面倒な話が増える気配しかしない。


それでも、マル・カク・トーラスが、チャリで来た。

それだけで、少しだけ場が前へ進む気がした。

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