――ラマシュの氷漬け処理
見難い火傷の子319
――ラマシュの氷漬け処理
深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層
青銅の時代
この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。
氷は、死を止めるためのものだった。
あるいは、死んだあとも「処理」を続けるためのものだった。
巨大な草の海のさらに地下。
そこに、保管区画はあった。
白い。
再生工場とは違う意味で、白かった。
壁も、床も、配管も、吐き出される霧も。
すべてが冷気に曇り、音まで凍っているみたいだった。
通路の両側には、縦長の保存槽が並んでいる。
透明な氷晶液の中で、何かが静かに眠っていた。
壊れた保護機。
半身を失った作業体。
識別番号を削られた旧式兵装。
そのどれもが、まだ「完全停止」とは判定されていないものたちだった。
みいは、匠一の外套の裾を握っていた。
寒いからではない。
ここが静かすぎるからだ。
歩くたび、靴音だけが硬く響く。
白い霧の向こうで、圧縮機関が低く唸っていた。
「……ここ、きらい」
小さく言うと、匠一はすぐに答えた。
「俺もだ」
珍しく、即答だった。
先を歩く技師が振り返る。
「ラマシュ個体は最深部です。現在も封鎖処理継続中のため、接近時間は制限されています」
「まだ生きてるの」
みいが訊くと、技師は少し考えてから事務的に答えた。
「定義によります」
その言い方が嫌で、みいは眉を寄せた。
反対側を歩くマザーは静かだった。
新品の白い外装には、森の土埃が少しついている。
工場の白さではなく、外を歩いたものの白さだった。
「ラマシュは危険なの?」
みいが訊く。
「はい」
「まだ?」
「はい」
短い返答。
けれど、その声には以前にはなかった微かな硬さがあった。
やがて、通路の突き当たりに辿り着く。
そこだけ、扉が違った。
分厚い扉。
青銅色の固定杭が何本も打ち込まれ、表面には白霜が張りついている。
中央には赤い封鎖印。
――危険封印対象
――ラマシュ級
技師が端末を操作すると、重い解錠音が響いた。
ぎ、ぎ、ぎ、と。
氷そのものが軋むみたいな音だった。
扉が開く。
中から、白い冷気が流れ出した。
そして、その中心に――
ラマシュがいた。
凍結槽の中央。
幾重もの固定具に拘束されながら、それでもなお完全停止には至っていない。
白い霜が外殻を這い、氷晶液の管が脈打っていた。
みいは息を止めた。
その瞬間だった。
ユキが一歩、前へ出る。
何かを言うより早く、空気の温度が落ちた。
白い霧が沈み、音が消える。
時間だけが、その場に置き去りにされたみたいだった。
ラマシュの外殻に霜が走る。
関節。
視覚器。
胸部装甲。
凍結は、一瞬で全身へ届いた。
技師が息を呑む。
絶対零度のお姫様。
命も、時間も、処理すら凍らせる温度。
それが、ラマシュにとって最後だった。




