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見難い火傷の子  作者: 清風
299/337

砂漠の王カルカダン(料理人の依頼)

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子299



砂漠の王カルカダン(料理人の依頼)



深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層

青銅の時代

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


王都中央区、冒険者ギルド本部。

朝の依頼板は、いつだって人が多い。


薬草採取、護衛、荷運び、害獣駆除、迷宮浅層の素材回収。

紙札の匂いと革鎧の油、朝酒の残り香が混ざる場所だ。


その日、ざわめきが一段深くなったのは――

ギルド長ヨイショが、自ら依頼板の前に立ったからだった。


「おいおい、ギルド長じきじきかよ」

「また面倒なの来たな」

「どうせ碌でもねえ高難度だろ」


好き勝手な声を、ヨイショは気にも留めない。

丸太のような腕で紙札を一枚、板の中央へ叩きつけた。


ぴしり、と乾いた音。


「高級宿泊館《月舟楼》料理長、名指し依頼」


空気が変わる。


「月舟楼?」

「王都の?」

「……王族筋も使うだろ」


ざわめきの質が変わった。

ただの高難度ではない。

失敗が、そのまま店とギルドの信用に響く依頼だ。


ヨイショが読み上げる。


「依頼内容――カルカダン一頭の討伐。および食材状態を保ったままの納品。部位指定あり。肩肉、喉肉、肋内、心臓、角。血抜きは現地処理。皮は裂くな。内臓は潰すな。報酬は基本金+状態良好で上乗せ」


「細けえ……」

「討伐依頼っていうか料理人の注文だろ」

「……いや、金額見ろ」


誰かが息を呑む。

明らかに高い。危険度だけでなく、品質保証込みの額だ。


ヨイショが札を叩く。


「危険度は高。通常個体想定。ただし納品条件込みで実質B帯。半端な腕で受けるな。倒すだけじゃ足りねえ。食材にして持ち帰るまでが依頼だ」


視線が逸れる者が出た。


討伐と納品は違う。

殺せても、価値を保てるとは限らない。


「受注条件は?」


「三名以上。大型対応経験者必須。解体知識持ちが望ましい」


沈黙が落ちる。


その時――


「面白ぇ依頼じゃねえか」


人垣が割れた。

巨大な盾を背負った男、ヨシダ。

杖を担いだパクエン。

帳面を抱えたフツウ。


「来たか」

「あいつらなら……」


ヨシダが笑う。


「食うために狩る。悪くねえ」


「雑だな」

パクエンは札を読み、眉を寄せる。


「角の損傷軽微、喉肉・肩肉優先、血抜き迅速、皮損傷禁止……討伐より回収が面倒だ」


フツウが帳面を開く。


「でも明確です。準備は組みやすい」


「決まりだな」


「まだ言ってない」

「今言った」

「顔が言ってる」


小さな笑い。


だがヨイショは笑わない。


「ヨシダ」


「おう」


「条件を一つ足す。――無理に英雄ぶるな。危ないなら切り上げろ。ギルドは皿より人間の方が惜しい」


場が静まる。


ヨシダは肩をすくめた。


「分かってる。食卓のために死ぬ趣味はねえ」


「討伐不能なら撤退」パクエン。

「条件整理済みです」フツウ。


ヨイショが頷く。


「よし。受理だ」


――だが。


「ただし、単独では出さん」


空気が止まる。


「……どういう意味だ」


「今回は“きれいに終わらせる”依頼だ。討伐だけじゃねえ。狩り場、撤退路、回収動線――全部含めてだ」


ざわめき。


「主討伐はお前ら。だが白砂隊を付ける」


視線が動く。


白砂隊――地形と危険を読む専門班。

サフィアが静かに顔を上げた。


「受けます。狩り場選定と撤退路確保、こちらの適性です」


ハリドが続く。


「足場と傾斜を先に見ます」


ミナ。


「感知補助出せます」


ユースフ。


「先行確認やります」


ヨシダが笑う。


「いいな。仕留めるのはこっちだ」


「暴れさせないでください」サフィア。


「注文が多いな」


「料理人ほどではありません」


笑いが漏れる。


ヨイショが締める。


「主討伐、威嚇の唸り。支援、白砂隊。合同受注だ。異論は?」


「ない」

「ありません」

「異議なし」


「よし」


札が外された。


依頼は“確定した”。


その様子を、灯継ぎの四人が見ていた。


「合同になった……」リナ。

「本気だな」ガイ。

「当然だ」セト。


アオは言う。


「討伐じゃなくて、価値に変える依頼だ」


「何が違う?」ガイ。


「倒すだけじゃ足りないってこと」


短い沈黙。


「……なるほどな」


その時。


「気分じゃねえ。理由だ」


爆炎先生が立っていた。


見学許可は下りる。

ただし条件付き。


「何を見る?」


アオは答える。


「処理の順番。危険の減らし方と価値の守り方」


セトは観測。

リナは回収動線。

ガイは前衛の判断。


「よし。通す。――邪魔するな、学べ」


依頼板の前では最終確認。


「出立は明朝。……あと追加だ。『できれば肝も』」


「増えた」

「場所選びがさらに重要だな」


ヨシダが笑う。


「欲張りな料理人だ!」


フツウが書き足す。


「追記、肝」


――食うために狩る。

――狩るなら、きちんと持ち帰る。

――持ち帰るために、最適な手を組む。


それもまた、この街の冒険者の仕事だった。

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