ジュラ紀武闘会開幕
見難い火傷の子279
ジュラ紀武闘会開幕
――ジュラ紀エリア
――深淵ダンジョン第十一層、恐竜の時代。
この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。
石造りの大闘技場は、朝から熱気に満ちていた。
白亜紀とは違う。
ここは“武”そのものが空気を震わせる。
観客席にはラプトル人、アロサウルス戦士、翼竜の格闘家。
全員が、今日の戦いを待ち望んでいた。
宮本ティラノは、控え室の石壁にもたれながら、
静かに息を整えていた。
(……白亜紀とは違う。
ここは“殺気”が濃い)
白亜紀は技の洗練。
ジュラ紀は本能の研ぎ澄まし。
その違いが、肌で分かる。
控え室の扉が開き、
受付嬢ジェーンが姿を見せた。
「宮本ティラノ殿。
準備はよろしいですか?」
「問題ない。
強者が集うと聞いて来た。」
ジェーンは微笑み、
闘技場の中央を指した。
「本日の主催はギルド長トリス。
そして──特別招待選手が一名。」
ティラノは眉を上げた。
「特別招待?」
ジェーンは頷く。
「ジュラ紀最強の剣豪。
佐々木アロ次郎殿です。」
その名を聞いた瞬間、
観客席が揺れた。
アロ次郎が、
闘技場の反対側から歩いてくる。
巨大なアロサウルスの戦士。
その一歩ごとに、砂が跳ねる。
アロ次郎はティラノを見ると、
ニヤリと笑った。
「白亜紀の覇者ってのは、お前か。」
「宮本ティラノだ。
あなたが佐々木アロ次郎殿か。」
「殿なんて呼ぶな。
戦う前から距離を取るなよ。」
アロ次郎は肩を回し、
尾を軽く振っただけで砂煙が舞った。
(……強い)
ティラノは直感した。
白亜紀武闘会の強敵たちとは、
質が違う。
アロ次郎は続ける。
「まずは“お前”を越えねぇとな。」
ティラノは静かに頷いた。
「俺もこのジュラ紀で剣を磨きたい。」
アロ次郎の目が細くなる。
「いい目だ。
白亜紀の覇者──
その名、ここで試させてもらうぜ。」
その瞬間、
闘技場の中央に立つギルド長トリスが、
大きく手を掲げた。
「――ジュラ紀武闘会、開幕ッ!!」
観客席が爆発したように揺れた。
ラプトル人の咆哮。
アロサウルス戦士の吠え声。
地面を叩く足音。
ティラノは深く息を吸った。
(白亜紀は通過点。
ここからが本番だ)
ジュラ紀武闘会。
強者たちの祭典。
ティラノは、
その中心へ歩き出した。
ジュラ紀予選、頭突き竜スカルバイソン
――ジュラ紀武闘会、予選第一試合。
観客席はすでに揺れていた。
ラプトル人の咆哮、アロサウルス戦士の吠え声、
翼竜の羽ばたきが砂煙を巻き上げる。
宮本ティラノは、闘技場の中央に立っていた。
ジュラ紀の空気は重い。
戦士たちの視線が、獲物を見る肉食獣のそれだ。
ギルド長トリスが声を張り上げる。
「予選第一試合──
白亜紀の覇者、宮本ティラノ!!」
観客席が爆発したように揺れた。
続いて、トリスが吠える。
「対するは──
ジュラ紀の衝撃王!!
頭突き竜!!」
地鳴りがした。
闘技場の扉が吹き飛び、
巨大な影が現れた。
パキケファロサウルス系の戦士。
頭蓋骨は岩山のように盛り上がり、
その表面を青白い魔力が脈打っている。
観客席から声が飛ぶ。
「スカルバイソンだ!!」
「頭突き一発で石壁が砕けるぞ!!」
「白亜紀の覇者でも無理だろ!!」
スカルバイソンは鼻息を荒くし、
ティラノを見据えた。
「……白亜紀の覇者。
お前の“技”とやら、見せてもらおうか」
ティラノは剣を抜かない。
ただ、足を半歩だけ引いた。
(……頭突き一本。
だが、その一撃は“必殺”)
スカルバイソンが吠えた。
「行くぞォォォッ!!」
地面が割れた。
突進は、まるで弾丸だった。
観客席が悲鳴を上げる。
「避けろティラノ!!」
「正面から受けたら死ぬぞ!!」
だがティラノは、ぎりぎりまで動かない。
(……まだだ)
スカルバイソンの足が砂を蹴る。
頭蓋骨が光る。
空気が震える。
その瞬間、ティラノは一歩だけ横へずれた。
突進が、鼻先をかすめて通り過ぎる。
轟音。
スカルバイソンはそのまま石壁に激突し、
壁面を大きく砕いた。
観客席がどよめく。
「避けたァ!?」
「今のを見切ったのか!?」
砂煙の中から、
スカルバイソンがゆっくりと振り返る。
「……なるほど。
だが、次も同じと思うなよ」
その目が光った。
二撃目。
今度は直線ではない。
突進の途中で、わずかに軌道を変えてきた。
(……っ、読ませるための一撃目か!)
ティラノが身をひねる。
だが避け切れない。
頭蓋の側面が肩口をかすめ、
ティラノの身体が吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
石畳を転がり、砂煙が舞う。
観客席が凍りついた。
「入った!!」
「ティラノ殿が吹き飛ばされた!!」
「終わったか!?」
ティラノは片膝をつき、
肩を押さえながら立ち上がる。
腕が痺れる。
呼吸が浅い。
(重い……!
かすっただけで、これか……!)
スカルバイソンは低く笑った。
「どうした、白亜紀の覇者。
ジュラ紀はそんなに甘くないぞ」
ティラノは答えない。
ただ、相手の足運びを見た。
首の傾き。
踏み込みの癖。
軌道変更の前兆。
(……違う。
こいつはただ速いんじゃない。
“ぶつける瞬間”に、全身の重心を一点へ集めている)
スカルバイソンが三度目の構えを取る。
「次で終わりだァァァ!!」
地面が爆ぜた。
先ほどよりも速い。
先ほどよりも重い。
観客席が総立ちになる。
ティラノは、そこで初めて剣を抜いた。
白刃が光る。
(……白亜紀の剣は、“点”を斬る)
スカルバイソンが迫る。
頭蓋骨が唸る。
空気が裂ける。
ティラノは剣を振りかぶらない。
ただ、そこに“置いた”。
剣先が、
スカルバイソンの突進軸へ触れた瞬間──
「なっ……!?」
巨体が大きくぶれた。
一点に集めた重心が崩れ、
スカルバイソンの身体は横へ弾かれる。
そのまま地面を転がり、
闘技場の端まで吹き飛んだ。
観客席がどよめく。
「な、何が起きた!?」
「剣を振ってないぞ!!」
「触れただけで軌道が逸れた……!?」
ティラノは剣を下ろし、
荒い息のまま静かに言った。
「お前の突進は強い。
だが、強すぎるがゆえに──
一点に集めた力を崩されると、立て直せない」
スカルバイソンは立ち上がろうとした。
だが膝が震え、崩れ落ちる。
トリスが手を上げた。
「勝者──
宮本ティラノ!!」
一拍遅れて、
観客席が爆発した。
「うおおおおお!!」
「白亜紀の覇者、本物だ!!」
「だがジュラ紀でも無傷じゃ済まねぇ……!」
ティラノは剣を収め、
肩の痛みにわずかに眉をひそめた。
(……これがジュラ紀)
白亜紀とは違う。
ここでは、一瞬の読み違いが命取りになる。
だが同時に、
胸の奥で燃えるものがあった。
(アロ次郎……
あなたは、この先にいる)
ティラノは、
次の戦いへ歩き出した。




