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見難い火傷の子  作者: 清風
279/333

ジュラ紀武闘会開幕

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子279



ジュラ紀武闘会開幕



――ジュラ紀エリア

――深淵ダンジョン第十一層、恐竜の時代。


この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。



石造りの大闘技場は、朝から熱気に満ちていた。

白亜紀とは違う。

ここは“武”そのものが空気を震わせる。


観客席にはラプトル人、アロサウルス戦士、翼竜の格闘家。

全員が、今日の戦いを待ち望んでいた。


宮本ティラノは、控え室の石壁にもたれながら、

静かに息を整えていた。


(……白亜紀とは違う。

ここは“殺気”が濃い)


白亜紀は技の洗練。

ジュラ紀は本能の研ぎ澄まし。


その違いが、肌で分かる。


控え室の扉が開き、

受付嬢ジェーンが姿を見せた。


「宮本ティラノ殿。

準備はよろしいですか?」


「問題ない。

強者が集うと聞いて来た。」


ジェーンは微笑み、

闘技場の中央を指した。


「本日の主催はギルド長トリス。

そして──特別招待選手が一名。」


ティラノは眉を上げた。


「特別招待?」


ジェーンは頷く。


「ジュラ紀最強の剣豪。

佐々木アロ次郎殿です。」


その名を聞いた瞬間、

観客席が揺れた。


アロ次郎が、

闘技場の反対側から歩いてくる。


巨大なアロサウルスの戦士。

その一歩ごとに、砂が跳ねる。


アロ次郎はティラノを見ると、

ニヤリと笑った。


「白亜紀の覇者ってのは、お前か。」


「宮本ティラノだ。

あなたが佐々木アロ次郎殿か。」


「殿なんて呼ぶな。

戦う前から距離を取るなよ。」


アロ次郎は肩を回し、

尾を軽く振っただけで砂煙が舞った。


(……強い)


ティラノは直感した。


白亜紀武闘会の強敵たちとは、

質が違う。


アロ次郎は続ける。


「まずは“お前”を越えねぇとな。」


ティラノは静かに頷いた。


「俺もこのジュラ紀で剣を磨きたい。」


アロ次郎の目が細くなる。


「いい目だ。

白亜紀の覇者──

その名、ここで試させてもらうぜ。」


その瞬間、

闘技場の中央に立つギルド長トリスが、

大きく手を掲げた。


「――ジュラ紀武闘会、開幕ッ!!」


観客席が爆発したように揺れた。

ラプトル人の咆哮。

アロサウルス戦士の吠え声。

地面を叩く足音。


ティラノは深く息を吸った。


(白亜紀は通過点。

ここからが本番だ)


ジュラ紀武闘会。

強者たちの祭典。


ティラノは、

その中心へ歩き出した。



ジュラ紀予選、頭突き竜スカルバイソン

――ジュラ紀武闘会、予選第一試合。


観客席はすでに揺れていた。

ラプトル人の咆哮、アロサウルス戦士の吠え声、

翼竜の羽ばたきが砂煙を巻き上げる。


宮本ティラノは、闘技場の中央に立っていた。


ジュラ紀の空気は重い。

戦士たちの視線が、獲物を見る肉食獣のそれだ。


ギルド長トリスが声を張り上げる。


「予選第一試合──

白亜紀の覇者、宮本ティラノ!!」


観客席が爆発したように揺れた。


続いて、トリスが吠える。


「対するは──

ジュラ紀の衝撃王!!

頭突きスカルバイソン!!」


地鳴りがした。


闘技場の扉が吹き飛び、

巨大な影が現れた。


パキケファロサウルス系の戦士。

頭蓋骨は岩山のように盛り上がり、

その表面を青白い魔力が脈打っている。


観客席から声が飛ぶ。


「スカルバイソンだ!!」

「頭突き一発で石壁が砕けるぞ!!」

「白亜紀の覇者でも無理だろ!!」


スカルバイソンは鼻息を荒くし、

ティラノを見据えた。


「……白亜紀の覇者。

お前の“技”とやら、見せてもらおうか」


ティラノは剣を抜かない。

ただ、足を半歩だけ引いた。


(……頭突き一本。

だが、その一撃は“必殺”)


スカルバイソンが吠えた。


「行くぞォォォッ!!」


地面が割れた。

突進は、まるで弾丸だった。


観客席が悲鳴を上げる。


「避けろティラノ!!」

「正面から受けたら死ぬぞ!!」


だがティラノは、ぎりぎりまで動かない。


(……まだだ)


スカルバイソンの足が砂を蹴る。

頭蓋骨が光る。

空気が震える。


その瞬間、ティラノは一歩だけ横へずれた。


突進が、鼻先をかすめて通り過ぎる。


轟音。

スカルバイソンはそのまま石壁に激突し、

壁面を大きく砕いた。


観客席がどよめく。


「避けたァ!?」

「今のを見切ったのか!?」


砂煙の中から、

スカルバイソンがゆっくりと振り返る。


「……なるほど。

だが、次も同じと思うなよ」


その目が光った。


二撃目。


今度は直線ではない。

突進の途中で、わずかに軌道を変えてきた。


(……っ、読ませるための一撃目か!)


ティラノが身をひねる。

だが避け切れない。


頭蓋の側面が肩口をかすめ、

ティラノの身体が吹き飛んだ。


「ぐっ……!」


石畳を転がり、砂煙が舞う。


観客席が凍りついた。


「入った!!」

「ティラノ殿が吹き飛ばされた!!」

「終わったか!?」


ティラノは片膝をつき、

肩を押さえながら立ち上がる。


腕が痺れる。

呼吸が浅い。


(重い……!

かすっただけで、これか……!)


スカルバイソンは低く笑った。


「どうした、白亜紀の覇者。

ジュラ紀はそんなに甘くないぞ」


ティラノは答えない。

ただ、相手の足運びを見た。

首の傾き。

踏み込みの癖。

軌道変更の前兆。


(……違う。

こいつはただ速いんじゃない。

“ぶつける瞬間”に、全身の重心を一点へ集めている)


スカルバイソンが三度目の構えを取る。


「次で終わりだァァァ!!」


地面が爆ぜた。

先ほどよりも速い。

先ほどよりも重い。


観客席が総立ちになる。


ティラノは、そこで初めて剣を抜いた。


白刃が光る。


(……白亜紀の剣は、“点”を斬る)


スカルバイソンが迫る。

頭蓋骨が唸る。

空気が裂ける。


ティラノは剣を振りかぶらない。


ただ、そこに“置いた”。


剣先が、

スカルバイソンの突進軸へ触れた瞬間──


「なっ……!?」


巨体が大きくぶれた。


一点に集めた重心が崩れ、

スカルバイソンの身体は横へ弾かれる。


そのまま地面を転がり、

闘技場の端まで吹き飛んだ。


観客席がどよめく。


「な、何が起きた!?」

「剣を振ってないぞ!!」

「触れただけで軌道が逸れた……!?」


ティラノは剣を下ろし、

荒い息のまま静かに言った。


「お前の突進は強い。

だが、強すぎるがゆえに──

一点に集めた力を崩されると、立て直せない」


スカルバイソンは立ち上がろうとした。

だが膝が震え、崩れ落ちる。


トリスが手を上げた。


「勝者──

宮本ティラノ!!」


一拍遅れて、

観客席が爆発した。


「うおおおおお!!」

「白亜紀の覇者、本物だ!!」

「だがジュラ紀でも無傷じゃ済まねぇ……!」


ティラノは剣を収め、

肩の痛みにわずかに眉をひそめた。


(……これがジュラ紀)


白亜紀とは違う。

ここでは、一瞬の読み違いが命取りになる。


だが同時に、

胸の奥で燃えるものがあった。


(アロ次郎……

あなたは、この先にいる)


ティラノは、

次の戦いへ歩き出した。

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