リディア人親子「アフメット一家」の休日
見難い火傷の子220
リディア人親子「アフメット一家」の休日
深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層
この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。
工場長アフメットは、リディアではありふれた名を持つ実直な男だった。
妻ファトマは経理部長として工場を支え、家でも財布の紐を握る。
息子エムレはその名の通り、誰にでも懐く無邪気な子どもだ。
観覧車が、茜色に染まるバビロニアの空を背景にゆっくりと回る。
リディア王国に拠点を置く『なまけもの君トラック製造』。
工場長のアフメット、経理部長のファトマ、そして愛息エムレの三人家族は、有給休暇を使ってこの「爆炎バビロニア遊園地」にやってきた。
名物の『たこやき』に手を出しかけたが、鉄板の熱気にアフメットが眉をひそめた。
「……今日はやめておこう。休みに火傷は洒落にならん」
代わりにエムレの手には、大きなソフトクリームが収まった。
親子お揃いのうさ耳カチューシャをつけ、エムレがソフトクリームを頬張る。
「父さん、溶ける溶けるー!!」
「待て待て、エムレ!落とすぞ!」
「あんたたち、走らないの!」
電磁コースターに乗れば、アフメットの威厳もどこへやら。
「うおおおおおお!!」
「父さん、最高だよ!もう一回!」
「もう無理だ……目が回る……」
海中コースターでは、八倍サイズの魚影に三人が声を揃えた。
「でかいな!?これ、八倍サイズか!?」
「写真!写真撮らなきゃ!」
ひとしきり遊び倒したあと、三人は最後に観覧車へ乗り込んだ。
観覧車の頂上。
西日に照らされるバビロニアの全景を見下ろして、エムレが満面の笑みで言った。
「父さん、母さん。また来たい!」
アフメットが照れくさそうに笑い、ファトマが優しく肩を叩く。
「……ああ。そうだな」
その短い返事には、埋め合わせのような響きが少しだけ混じっていた。
休暇申請書に判を押した瞬間まで、呼び戻される気がしていた。
「今度はもっと休み取ってね。アフメットさん、工場長なんだから」
バビロニアの平和な夕暮れ。
この遊園地は、戦う者にも働く者にも、ほんのひととき心を休める場所だった。
アフメット一家もまた、
その笑顔は、明日を乗り切るためのものだった。




