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見難い火傷の子  作者: 清風
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193/529

留学生バビロン組の都一周サイクリング

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子193


留学生バビロン組の都一周サイクリング


――青銅の時代。

深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世層

この地では、生きるものすべてが八倍の大きさで存在する。


都の門前に、奇妙な一団が現れた。


荷車に積まれているのは、馬でも戦車でもない。

細い輪を二つ並べた“乗り物”だった。


「降ろせ。慎重にな」

バビロンからの留学生たちは、慣れた手つきでそれを組み上げる。


現地の役人が眉をひそめた。

「それは何だ?」


「自転車です。バビロンでは流行っています」


ざわつく門番たち。

「馬なしで走る?正気か?」


だが次の瞬間、その空気は一変する。


――スッ。


ひとりが軽やかに跨り、地面を蹴る。

滑るように前進。


「なっ……!?」


さらにもう一人。

そしてもう一人。


気づけば彼らは、整然とした隊列を組んで走り出していた。


「これは……便利だな」

アケメネス幕府の役人は呟く。


「維持費は?」

「餌は不要。修理は必要ですが」


「……軍用に向くな」


その一言で、空気が変わった。


数日後。


「本日は、都一周サイクリングを行う」


“留学生交流行事”として始まったそれは、

すでに半ば性能試験になっていた。


石畳を滑るように進むバビロン組。

その動きは無駄がない。


一方、初めて乗る現地生徒たち。


「待て、止まらん!」

「足で止めろ!」

「足が先に死ぬ!」


転倒、接触、悲鳴。


だが、バビロン組は冷静だった。


「重心を前に」

「視線は遠く」

「急ぐな、流れに乗れ」


それはまるで――

騎兵の教練のようだった。


やがて彼らは都の外周路へ出る。


風が強くなる。


「前、交代する」

「了解」


先頭が風を受け、後続が体力を温存する。


その動きに、幕府の観察官が目を細めた。


「……隊列維持が容易だ」

「伝令にも使える」

「奇襲にも応用可能」


誰かが低く言う。


「これは……戦を変えるぞ」


日没。


彼らは都を一周し、門へ戻る。


ほとんど疲労の色はない。

むしろ――達成感と、確信。


「良い文化交流だったな」

留学生が笑う。


幕府側の役人も、ゆっくり頷いた。


「ああ……文化交流、だな」


その目は、完全に別のものを見ていた。


――後日。


アケメネス幕府は、ひそかに通達を出す。


「自転車の製造および運用に関する研究を開始する」


そして都では、こんな噂が広がる。


「バビロンの留学生が、鉄の足で風を支配したらしい」


このとき

キュロスの慧眼をもってしても「技術の模倣限界がある」まで判らなかった。

しかも失った技術者の層は致命的なほど減っていた。

この自転車を作るにしても、アケメネス幕府では組み立て工場がせいぜい。

基本技術はバビロン依存なのが判明した。

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