手のぬくもり
3月17日
やっと、またペンを手に取れるようになった。
思っていたより、長い間ベッドに寝ていたみたいだ。
あの夜、帰ってからまた高熱が出てしまって、
体中が痛くて、目も針で刺されるみたいに痛かった。
朝になると、小野ちゃんがずっと私のそばにいて、
落ち着かない様子で何度も行ったり来たりしていた。
たぶんベッドに上がってきて、
私のスマホを取り上げたんだと思う。
そのときの私はぼんやりしていて、
ただ小野ちゃんがスマホを持っているのを見ていた。
画面からは、何度も発信音が鳴っていた。
こうして書いていると、ふと思う。
今も、小野ちゃんたちは心配してくれているのかな。
明日の朝には、ちゃんと電話して無事だって伝えよう。
あの日は、お父さんと兄さまも駆けつけてくれた。
兄さまが私を抱き上げて車に乗せて、
お父さんはすぐに車を走らせた。
ちゃんと薬を飲んでいれば、
こんなふうに来てもらわなくて済んだのに。
車の中で、私はぼんやりしながら言った。
「お兄ちゃん、お父さん、ごめんなさい。また心配をかけてしまって。」
言い終わった瞬間、
兄さまが少し強く抱きしめてくれた気がした。
……たぶん、気のせいじゃない。
体がずっと寒くて、
私は小さく丸まっていた。
兄さまが持ってきてくれた毛布にくるまりながら。
家に着くと、お父さんが点滴をしてくれた。
家の診療所は少し薄暗くて、
天井の白い電灯だけがやけに明るかった。
冷たい光だったけれど、
ずっと私たちを照らしてくれていた。
点滴の液が一滴ずつ落ちていくのを見ながら、
胸の奥に、少しだけ寂しさが広がった。
また、家族に心配をかけてしまったんだな……
そう思うと、指に力が入った。
それを見た兄さまが、
やさしく私の名前を呼んだ。
「もう自分を責めなくていい。今は早く元気になることが一番大事だよ。」
そう言って、私の頭をそっと撫でて、
そのまま隣に座ってくれた。
私はそのまま、兄さまに寄りかかった。
「まだつらい?」
「ううん、大丈夫。私、強いから。」
私は無理に笑顔を作って、
点滴をしている手を少し持ち上げて見せた。
「ほら、今回は注射でも泣かなかったよ。」
言い終わる前に、
兄さまはそっと私を抱き寄せた。
「どんなに強がっても、私にとっては頑張り屋の小さな子だよ。」
「だから次からは、ちゃんと早めに連絡するんだよ。いいね?」
叱られているのか、心配されているのか、
よく分からなかった。
でも、目の奥がじんと熱くなって、
涙がこぼれてきた。
「……うん。」
私は兄さまの胸に顔を埋めたまま、
何度も頷いた。
点滴が終わって、私たちは部屋に戻った。
お父さんの診療所は家のすぐ隣にあって、
外には小さな庭がある。
塀に囲まれたその場所は、
まるで小さなお城みたいだった。
その夜は、当然のように兄さまと一緒に寝た。
寝る前に水をたくさん飲んだ。
夜中に、兄さまに水を用意してもらわなくていいように。
その夜、変な夢を見た。
私はずっと走っていて、
両側には終わりの見えない細い路地。
走り続けて、
気づいたら誰かに後ろから叩かれて、倒れていた。
目が覚めたとき、心臓がひどく痛かった。
呼吸も苦しくなって、必死に耐えていた。
そのとき——
そっと、手が重なった。
気づくと、兄さまが私の手を握っていた。
胸の痛みが、少しずつやわらいでいく。
私は目を閉じたまま、
その手を握り返した。
大きくて、あたたかい手。
私はそっと、兄さまのほうへ少し近づいた。
……体調が悪いときくらい、
こうしてもいいよね。
ふと、思った。
小野ちゃんたちにうつっていなければいいな。
それに——
兄さまや、お父さん、お母さんにも、
絶対にうつしたくない。
……そんなことを思いながら、
もう一度、目を閉じた。




