第3話「初・交流戦、ガチすぎない!?」 ──中編──
モルック棒を構えた瞬間、自分の鼓動が、いつもより大きく耳に響いていた。
「深く吸って、吐け。緊張してると、肘が早く返るぞ」
背後から、今井先輩の静かな声。
それだけなのに、心が少し落ち着いた。誰かが見ていてくれる。そう思えただけで。
1投目。ピンを見定めて、腕を振る――
カタンッ。
……当たった。たった1本、数字は「6」。
「ナイス。ちゃんと倒したじゃん」
「奇跡です……」
ほっと息を吐いたのも束の間。
相手校・晴陵のキャプテンが、無言で前に出た。
フォームは無駄がなかった。
助走なし、踏み込み一歩だけ。まるで機械のような正確さでモルック棒を投げ――
パキン!
「13」と「2」、狙った2本だけを倒す。しかも、ピン同士が接触して他のピンは微動だにしない。
……何これ、プロ?
「うわー……あれは、エグい……」
隣で城戸先輩が、苦笑まじりに唸る。
次々と繰り出される精密なスロー。
ピンがまるで意思を持って倒れていくように感じる。
「ちゃんと“配置”作ってるんだな。次の味方に渡す形を考えてる」
若林先輩のつぶやきに、ゾッとした。
戦略レベルが、違いすぎる。
俺たちは、ただ「当たったらラッキー」ぐらいの感覚でやっていた。
けど、彼らは**“当たるのが前提”で、“その先”を設計してる。**
やっと点を取っても、次のターンで倍に返される。
差はどんどん広がるばかりだった。
「くっそ……」
小さく悔しがる声が聞こえた。振り返ると、それは今井先輩だった。
あの冷静な人が、悔しがってる――その姿に、ちょっと驚いた。
「今井先輩、悔しいんですか?」
「そりゃそうだろ。勝ちたくてやってるんだ。
……お前は?」
「俺……」
そこまで言いかけて、口を閉じた。
正直、心のどこかで「負けても仕方ない」と思っていた。
初心者だし。初試合だし。相手は強豪だし。――理由はいくらでもつけられた。
でも今井先輩は、そうじゃなかった。
城戸先輩も、佐野先輩も、真剣だった。
若林先輩にいたっては、メモ帳を握る手が震えている。
――勝ちたいんだ、この人たちは。
「……俺も、悔しいかもしれないです」
口にしてみると、自分でも驚くほどしっくりきた。
「そっか。なら、次の一投、ちゃんと“勝ちにいこう”」
今井先輩が軽く背中を叩いた。
その瞬間、**“負けてもいい”から、“どうすれば勝てるか”**へと、意識が変わった。
(つづく → 後編)