第7話「文化祭ステージでモルック!?」 ──前編──
「え……ステージ、ですか?」
9月初旬の放課後、モルック部の部室にその話が飛び込んできた。
「うん、文化祭のステージ発表の枠、うちが引き当てた」
城戸先輩が、引いたくじを片手に笑っている。
その笑顔は、なぜかちょっとだけ悪い顔だった。
「いやいやいや、うち“屋外競技”ですよ!?」
思わず声を上げた俺に、佐野先輩がにやっと笑う。
「ステージって言っても、体育館前の屋外特設だって。小ステージと観客席付き」
「……それでも、モルックって観客に見せる競技じゃないですよね?」
モルックは投げる。ピンが倒れる。数字を足す。
ルールを知らない人からしたら、「なんか棒投げてる」くらいにしか見えないはずだ。
「だから、そこが腕の見せどころでしょ」
今井先輩が、さらっと言った。
「知られてないからこそ、見せ方を工夫する余地がある」
それは――モルックを知る者としての誇りと責任、だった。
「ってわけで、来週までに“見せる試合形式”のアイデア募集な!」
城戸先輩が、ホワイトボードに「文化祭モルック計画」と大きく書いた。
その瞬間、部室の空気がふわっと一段階、熱を帯びる。
次の日から、放課後のミーティングが本格的に始まった。
「観客が参加できるルールにしたらどう?」
「実況とか解説入れてみる?」
「スコアボードをデジタル表示にして“見える化”しよう!」
「女子ウケ狙って、投げるときの決めポーズ作るとか」
「それはちょっと寒いかな……」
いつもの「勝つため」の話じゃない。
「伝えるため」「楽しんでもらうため」の議論。
気づけば、凛太郎自身もその輪に夢中になっていた。
「ピンの倒れ方をスロー映像で見せたら面白いかも」
「観客が“次に何点になるか”予想して当てるクイズ形式とかは?」
「実況も部員じゃなくて、放送部に頼んでプロっぽくしてみたら……!」
自分たちの競技を“伝える”。
それは、思っていた以上に難しくて、でも楽しかった。
誰かのために、見せようとすることで、
あらためて自分たちの“好き”が見えてくる。
(もしかしたら、この文化祭が――
“モルックを言葉にする場”になるかもしれない)
その夜、凛太郎はノートに小さく書いた。
「伝わらないって思ってたのは、伝えようとしたことがなかっただけ」
(つづく → 中編)