第34話「きっと、続いていく」 ──前編──
冬の朝のグラウンドは、霜がうっすらと降りていた。
土のにおいと、吐く息の白さが、凛太郎の肌に“季節の終わり”を告げている。
「うおお寒っ! なんでこんな時間に集合なんすか!」
島田がジャンパーの襟を立てて文句を言う。
「言い出したの、お前だろ……“朝練やってみたくないっすか?”って」
と、松岡が突っ込み、部員たちの笑いが起こる。
その空気に、凛太郎はふと目を細めた。
この感じが、どこか懐かしい。
思えば、去年の今頃は赤間先輩たちがここにいた。
寒いグラウンドで、コートを着たままスティックを投げていた。
それを、自分たちが「すごいなぁ」と見ていた。
そして今、自分がその「すごい先輩」と呼ばれる立場にいる。
「凛太郎先輩、ちょっと構えてもらっていいっすか?」
島田が動画用のスマホを構える。
「やめろ、変な顔で拡散すんなよ」
「もう撮ってますー。はい、モルック部伝統! 冬の朝練です!」
「そんな伝統ない!」
笑い合いながら、凛太郎はスティックを握った。
ピンは並んでいる。朝日の中、ほんのり凍った土の上に。
自分が卒業しても、この光景は続いていくのだろう。
誰かが転び、誰かが笑い、誰かが励まし合う。
それが、モルック部という場所だ。
(俺が去っても、これは続く。
きっと来年も、同じように)
そんな未来を想像しながら、凛太郎は一歩踏み出した。
(つづく → 中編)