086 がしゃ髑髏、ぜったいに殺すマンモードになる
日差しが照りつける盆地の野原に、みっちりとアンデッドが集まり、緩やかな渦を作り出す。
一体、なにをしているのか?
いぶかしむダークエルフの前で、渦の速度があがっていく。
スピードが上がるにつれて、アンデッド同士の甲冑が、激しくこすり合わさるのだった。
肩や腕がぶつかり合い、お互いに相手を削りとっていく。
甲冑がそれを着ている者、そして周りの者を擦り下ろしていくのだ。
干し肉と砂利を大なべに入れ、延々とかき回すような光景だった。
摩擦熱で上昇気流がおきる。
気流と共に干し肉をローストしたような匂いが、山頂のサンフィルドまで届いた。
「イースっ!」
その異様な光景に、たまらずサンフィルドは振り返りその名を呼ぶ。
するとイースが、そっと視線を外した。
――こいつ目を逸らしやがった、まだいる気だっ!
イースを睨みつける、サンフィルドの頬に突風が当たる。
「んんっ!?」
何かと思い視線を戻すと、アンデッドの中央に、巨大なスケルトンがうずくまっていた。
こめかみには、ねじれた二本の角があり、背中には骨の翼が生えている。
「な……うぐっ!?」
サンフィルドは声を出しそうになる、自分の口を押さえた。
見ると巨大スケルトンの傍にいるアンデッドから、次々と粉を吹いていく。
あっという間に、盆地に集まる十万以上のアンデッド全てが、白い砂と化していった。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ」
リールーの、荒い息づかいが聞こえる――
*
ここはどこなのか?
がしゃ髑髏はその変化に気付き、不思議そうに辺りを眺めた。
ゆっくりと慎重にだ。
何せ自分の頭の中に、怖い方たちを乗せている。
何かあると、怒られてきっと砂にされてしまう。
頭を傾けてはいけない。
がしゃ髑髏は周りを良く見るため、ゆっくりと立ち上がる。
頭の中で、小さな笑い声が響いた。
お一人起きているらしい。
機嫌が良いようなので、そのまま動き続ける。
周りは山しか見えないので、高い所へ登ることにした。
ゆっくりゆっくり、山頂へ向かう。
胸の高さにまで生える木々が邪魔なので、へし折ることにした。
一本を掴み力を入れる。
ミシリと音がした時、頭の中で起きている方が小さな声をあげた。
どうやら折るな、と言っているようだ。
言葉はわからないが、がしゃ髑髏の目のふちをペシペシと叩いておられる。
仕方がなく、がしゃ髑髏は体を横にして更にゆっくりと登る。
登るがしゃ髑髏に驚き、木々にとまる鳥たちが飛び立っていった。
ようやく山頂につく。
頂に立つと遮るものが何もなく、どこまでも見渡せた。
少し離れた頂に別個体の、がしゃ髑髏がたたずんでいる。
その先の頂にも、幾つかの姿が見えた。
夏の日差しを受けて、その白い巨躯が輝いている。
反対を振り向くと、こちらもそうだ。
幾つもの姿が見える。
皆が、思い思いの方向を眺めていた。
何を見ているのか?
がしゃ髑髏も、正面を眺める。
馴染みのある森のずっと向こうに、何か嫌なものを感じた。
森の向こうに、胸糞悪い生者どもが溢れているのだ。
久しぶりに感じる、嫌悪感だった。
どうしてこの感覚を、今まで忘れていたのか?
これこそが、がしゃ髑髏の全てだというのに!
がしゃ髑髏の中で、嫌悪がどんどん膨れていき憎悪へと昇華する。
少し離れた頂に立つ、別個体の髑髏が山を降りていった。
次々と、他の髑髏も山を降りる。
角付きのがしゃ髑髏も、憎悪にかられて山を降り始める。
ただし慎重に、ゆっくりとだ。
頭を傾けてはいけない。
なんと、山は降りる方が難しかった。
更に、がしゃ髑髏の歩みは遅くなる。
気は焦るが、慎重に慎重に……
なにせとても怖い方の、眷族たちを乗せているのだから。




