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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第2章 中核都市ベイルフ
72/683

072 みんなでかえろー

 

「これな、くすぐったいよなー」

「うひひっ、や……やめ、あははっ」

 

ひとしきり頬ずりしたあと、夕凪がチヒロラの手を引いた。

 

「よし、行こっか」

「はあ、はあ、はあ……え?」


霧乃がチヒロラに笑いかけ、朱儀が背中を押した。

 

「帰ろっか」

「かえるー」


「えっ、帰る!?」


チヒロラは訳も分からず、ぐいぐい引っ張られて、ずんずん押されてしまう。


「えっ、ちょっと待ってくださいっ。帰るって何ですか!?

えーっ、まってまって、チヒロラにはお師様がーっ」


「おしさま?」


夕凪が、引っ張るのをやめて振り向く。

朱儀がまだ押しているので、夕凪がチヒロラを抱きとめる形となった。

夕凪が、チヒロラの顔を覗き込む。


「なにそれ?」


するとチヒロラの顔が真っ赤になった。夕凪の顔が、間近にある。


すっきりとした目鼻立ちの中に、活発さが溢れていてとっても良い。

切れ長の瞳。

金色の虹彩の中に、チヒロラ自身が映っていた。


「ち、ちかいですー」

「?」


さて、チヒロラは考える。

なにそれ? と聞かれても、お師さまはお師さまなのである。

チヒロラは、どう説明するかこまってしまう。


「あの、えーと……」


その結果、皆にお師さまへ会ってもらおうと考えた。


「あの、お師さまに会ってもらえますか?

きっとお師さまも、よろこぶと思うんです」


「へー、行く」

「よろこぶの? 行く」

「いくー」

「?」


三人は少しも迷わず、返事をした。

豆福はよく分かってない。

喜ばれるのは、褒められるのに近い。だから行く。


楽市からは知らないものには、付いて行っちゃ駄目と言われていた。

しかしチヒロラのことは、今知ったので「知ったもの」なのである。


楽市がここに居れば、何それ? と突っ込みたくなる理屈だ。


それでも霧乃たちの中では、すんなり通っているのだった。

やはり、匂いを嗅ぎ合ったことが大きい。

匂いは、噓を付かないのだ。

 

だからこそチヒロラも、いきなり会った霧乃たちを、三角テントに招待しようと考えた。


チヒロラが改めて、四人と一匹に向かって挨拶をする。


「あたし、チヒロラですっ」


少し間をおいて、霧乃と夕凪が驚いたように言う。


「へー、もうなまえが、あるの?」

「すごいなっ」


霧乃と夕凪は、チヒロラに名前があるのを不思議がった。

チヒロラが、それを見てよく分からず不思議がる。


霧乃が、尻尾を振りながら挨拶をした。


「あたしは、きりっ」


夕凪も、尻尾を嬉しそうに振る。


「あたしは、うーなぎっ」

「あたし、あーぎっ」


朱儀が両手を上げて挨拶する。

そして妹と、松永を紹介した。


「これは、まめっ、これは、まーなかっ」

「ふぁー」

 ブホッ

 

それを聞き、チヒロラが指を折って数える。

ほっぺたが、興奮で真っ赤になっていた。


「えっと、すごいですっ。

いっぺんに、五人もお友達ができました!」

「おともだちって、なんだ?」


「え、え~と……」


チヒロラがどう説明するか困っていると、聞いた夕凪はどうでも良かったらしく、直ぐ切り替えて声をかける。


「じゃ、行こ」

「あっ、ちょっとまって下さい。え~と……」


そう言ってチヒロラが、背中に垂れるローブのフードに手を突っ込んで、ゴソゴソし始めた。


「ありましたっ」


チヒロラがフードから取り出したのは、透明なガラスの小瓶である。

中には、白い砂が入っていた。


「なにこれ?」


霧乃が聞くと、チヒロラは今度こそちゃんと説明しようと頑張る。


「えーとですね。

これはお師さまの指だったんですけど、いつの間にか粉になっちゃいました。


お師さまの指をもっていると、お師さまがチヒロラの場所分かるんです。

そしてチヒロラも、お師さまが分かるんですっ」


目をキラキラさせて、チヒロラが説明する。

この小瓶はチヒロラが初めてお師さまから貰った、迷子防止のマジックアイテムなのだ。


「へー?」

「えっと……もっかい、言って」

「????」

「きり、だっこー」

 

こうして皆は、お師さまの元へ行くことになった。


四人で歩いていると、霧乃と夕凪の背が同じくらい。

朱儀が一回り小さくて、チヒロラは朱儀より少し小さかった。


霧乃に抱かれてウトウトしている豆福は、チヒロラより二回り小さい。

その後ろを、巨体の松永が音もなく付いてくる。


「あの、皆さんは、どこから来たんですか?」

「あっち」


「へー、え!? ええええええっ!」


チヒロラは何気なしに聞いただけだが、霧乃の示す方向にことの重大さをしる。


霧乃の示した方向は、まさしくチヒロラが会いたくてたまらない、「黒く萌える輝き」が、二回目に現れた方角なのだった。





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