281 フィア・フレイムドラゴンの炎。
(きいてっ、いーこと、あるのっ!)
(なんだ、あーぎっ!?)
(きかせろ、あーぎっ!?)
(あーぎーっ!?)
(あーぎさんっ!?)
(朱儀、おねがい聞かせてーっ!)
朱儀は怯える姉妹と楽市へ、気付いたことを手早く伝えた。
*
巨大な鳥居がたつ、円形広場。
その中央にドラゴンたちが、でんと陣取る。
やれる――
六体の巨龍はどの個体も、確信に満ちた手ごたえを感じていた。
見ろっ、あの隅で怯えるみすぼらしい骨をっ!
最初の勢いなどすっかり消えて、広場の端から動けないではないかっ!
ぐるるっ
六体のフィア・フレイムドラゴンは首を揺らし、怯えた獲物を値踏みする。
頭の中では、既にスケルトンをバラバラにして嚙み砕く、己の勇姿が浮かんでいることだろう。
一体が赤い翼を大きく広げると、他の巨龍も次々に広げて魔力を充填し始めた。
翼に力場が発生し、下方へ向かって熱風が吹き荒れ始める。
熱風で飛ばされた小砂利が、端に追い込まれた巨大スケルトンへ、パチパチと当たった。
ドラゴンの巨大がふわりと浮かび、地面すれすれを滑るように移動していく。
滑りながら大きく顎を開き、喉奥に新たな魔力を込めた。
凝縮した魔力が、ドラゴンの口内に超高温の火炎を発生させる。
そのまま針の穴へ通すように、細く圧縮して吐き出せば、あらゆるものを溶断する火炎ブレードとなるのだ。
有効射程は十五メートルと短いが、全く問題はない。
届かなければ、そこまで近づけば良いのだ。
迫られても、スケルトンに動く気配はない。
勝利を確信したドラゴンたちは、口腔から輝く火炎ブレードを照射した。
しかしその瞬間。
一瞬早く巨大スケルトンの口腔から、三色の炎がドラゴンへ放射される。
思わぬ反撃。
そして未知の炎。
ドラゴンたちは炎を避けるため、左右に分かれてスケルトンの脇を滑り抜け、広場の縁を越え落ちていった。
それを見た角つき内の楽市が、喜び手を叩く。
(やった落ちたっ、うまいっ!)
(らくーち、まだ、わらうの、早いっ!)
(おちる、おと、しないっ!)
(ごめんっ)
霧乃と夕凪がはしゃぐ楽市をぴしゃりとシメて、朱儀へ周囲の状況を送り続ける。
下方から、激しい羽ばたきが聞こえ始めた。
(くるぞ、あーぎっ!)
(したから、くるぞ、気をつけろっ!)
(うんっ、きり、うーなぎ、
まめ、チロ、らくーちおねがいっ!)
(まかせてっ!)
(やってやるっ!)
(ぶあー、すーるーっ!)
(はあはあはあ……チヒロラ来て、良かったですーっ!)
(みんな全開で行ってっ、はい瘴気だよっ!)プシューーッ
翼をはためかせながら、高速でドラゴンたちが舞い上がる。
角つきの眼前をあっという間に通り過ぎ、上空で翼を広げてピタリと浮遊した。
六本の首が、激しく振られている。
仕留めに行ったら、逆に縁から落ちるなど滑稽この上ない。
六体は怒りの咆哮を上げながら、全身を炎と化し、角つきへ突っ込んでいった。
まるで、燃え盛る隕石のようだ。
角つきは怯むことなく、青白、朱、黄緑の炎を吐き出し、巨大な火球を迎撃する。
ドラゴンたちは三色の炎を浴びながら、構うことなくそのまま突っ込んだ。
両者が激突した瞬間、火炎が爆発的に膨れ上がり、直径一〇〇メートルの円形広場が蠢く炎に包まれてしまう。
周りの気温が一気に上がり、巨大な上昇気流が生まれた。
巨大幽鬼に乗って上空で待機していた、パーナとヤークトが、立ち昇る熱波でのけ反ってしまう。
「くうっ、ラクーチ様っ!」
「これは一体っ!? ラクーチ様っ!」
広場いっぱいに、ドラゴンを含めた四色の炎が、お互いへ絡まるように蠢いている。
火炎の表面からは上昇気流により、何本もの火炎の旋風が立ち昇り、その身をくねらせた。
火炎旋風の一本が、捻じれながら伸び上がり幽鬼をかすめる。
幽鬼は更に、戦場から距離をとった。
パーナとヤークトは熱波で目がヒリツクのも構わずに、四色の炎を食い入るように見つめる。
楽市、霧乃、夕凪の青味がかった白。
朱儀、チヒロラの血のような朱。
豆福の萌える黄緑。
そしてドラゴンたちの輝く赤。
パーナとヤークトは、楽市たちの炎の色を知っている。
だから、見ていて気付く事があった。
「ねえ、これって何だか……ラクーチ様たちの炎が……」
「うん、まるでラクーチ様たちの炎が、ドラゴンの炎を食べているっ!?」




