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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第4章 ハノイフォージェの草原
251/683

251 あたし戦闘狂ガシャ髑髏。


戦闘を遠眼鏡で観察している、イース、サンフィルド、リールーは、シルバーミストが近付いて来るのを肌で感じ取った。


「おっ」

「うわっ」

「んんーっ」


三人の赤い瞳が淡く発光し始める。

眼球内でトロリとしたガラス体が、微弱発光しているのだ。


その光は視神経を通して、イースたちにも見えている。

三人は遠眼鏡を置き、お互いの顔を見た。


リールーが何度もまばたきをして、しかめっ面をしている。


「この光、目を瞑っても見えるんだけどっ」


「シルバーミストが、僕らを探しているね」

「こっちに、真っ直ぐ来るぜアイツ」


イースたちには、近付いてくるのが手に取るように分かった。

なぜなら発光する眼球の水分が、シルバーミストの霧と入れ替わっているからだ。


これはシノがチヒロラに持たせている指の骨と、同様の効果を発揮する。

つまりシルバーミストとイースたちは、お互いの位置が分かるのである。


闇夜の上空から現れたシルバーミストは、羽ばたきを止めてフワリと降り立ち、イースたちの無事を確認すると、目を細めてニヤリとした。


しかし直ぐ真顔になって、いまだ続く戦闘を凝視する。


遠距離でもシルバーミストの赤黒い瞳は、巨大スケルトンが振り回す赤い龍の首を、ハッキリと捉えていた。

次第に奥歯が強くかみ合わされ、歯ぎしりが漏れる。


シルバーミストは怒りを噛み殺すように目を瞑ると、イースたちへ向き直った。

今は大事な子供たちの避難が先だ。


唐突にシルバーミストから大量の霧が吹き出し、辺りを覆いつくした。

イースたちが一瞬で濃霧に包み込まれる。


「うわっ、何も見えっ……あ、見えてる。

そうか……この光る目には、色々と効果が付与されているんだねっ。

面白いなあっ」


「目の前でいきなり変わんなよっ、ビックリするだろがっ!」


「ちょっとシルミスっ! 何が起きてんのか、あたしに説明しなさいよっ」


シルミスと呼ばれた、巨大なドラゴンが両手をお椀のようにして、三人に近づける。


ぐるる(のれ)



    *



吹き飛ばした魚の骨が、戻ってこない。


見れば起き上がり、こちらへ戻ろうとする所を、頭でっかちと同じ人型の骨たちに、寄ってたかって押さえつけられていた。


それでも頭に血が上った(血はない)魚の骨は、どうにも行かせろと、ビタンビタンと暴れ回る。


そこへ骨の中で、ひときわ凶悪な姿をした骨が、魚の骨へ近付きぺたりと触れた。

するとそれまで暴れていた魚が、噓のように大人しく成るではではないか。


掘り返された土砂の上で、腹を見せてピチピチと跳ねる。

先ほどのビタンビタンとは違い、妙に愛嬌があった。


魚の骨は何か指示を受けたようで、頭を上にしてすくりと立ち、直立不動の姿勢をとる。


その後すぐに、人型の骨を自分の背骨に掴まらせて、いそいそと上昇していった。

尾ビレをしならせて空中を泳ぐので、ぶら下がる人型の足がプランプラン揺れる。


目指す先は、上空にポッカリと空いた大穴のようだ。

他の吹き飛ばした魚の骨も、人型を背骨に掴まらせて大穴へと運ぶ。

 


最後の魚の骨。

頭でっかちが、頭の黒い魚を吹き飛ばしたとき、もう目の前に立つのは魚ではなく、あのひときわ凶悪な姿の、人型の骨だった。


頭でっかちは、目の前の骨を見て首をかしげる。


「ああっ」


どうして今まで、思い出さなかったのだろうか?

頭でっかちは、この骨を知っていた。


ただ以前の姿は、純白だった気がする。

しかし今は白と黒が入り混じり、随分と印象が違っていた。


はてしかし、どこで見たのだろうか?

ここ最近の意識はハッキリとしているのだが、それ以前の記憶がぼんやりなのである。


確か真っ白な世界だったはずだ。

何もかも白くキラキラとした世界で、見たはずなのだ。

骨同士で戦うのを、見たはずなのだ。


それも今のような激しい戦いとは違い、皆ゆっくりとした動きで抱き合って、押し合いっこしていたように思う。


その中で強く印象に残るのが、今目の前にいる角の生えた骨なのである。

頭でっかち自体は、頭が重くハイハイしかできないため、戦いには参加していなかった。


いつも……そう白い砂の中から、デコと目だけ出して見ていた気がする。


突然胸に湧いた懐かしさと憧れ。

そして今、対峙することへの緊張感がないまぜとなって、頭でっかちの、心臓の無い胸をドキドキさせた。


「こいつ、つよいー」


頭でっかちは知っているのだ。

目の前の骨が、どの骨よりも強いことを。


角つき骨は首をコキリと一回鳴らすと、おもむろにしゃがみ込み、足元の土塊を握った。


「んー?」


元々は草原だった所が、頭でっかちを中心に、大きく土砂がむき出しとなっている。

角つき骨がその腕を前に突き出し、握る土砂をパラパラとまいた。


「あー、それーっ」


頭でっかちはその姿を見た途端に、テンションが上がってしまう。

本来の小さな腕の方を、ワチャワチャと動かす。


ああ……いけないいけない、そうだ知っている、知っているぞっ。


頭でっかちは、慌てて小さな腕で足元の土砂を握った。

これはちゃんとした壊し合いの前の、大事なしきたり。

握る土砂をジッと見つめる。


ちゃんとまかなきゃっ。


そんなことを思いながら、頭でっかちもパラパラとまいた。

初めてする“マキ”に胸が高鳴る。

無いはずの肺から息を吐く。


「はふー、はふー」


頭でっかちは、ドラゴンの盾を前に突き出し身構えた。

これから、最高の壊し合いが始まるのだ。


盾と盾の間から見える角つき骨が、一瞬で間合いを詰めて、頭でっかち(かのじょ)へと襲いかかった――








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