251 あたし戦闘狂ガシャ髑髏。
戦闘を遠眼鏡で観察している、イース、サンフィルド、リールーは、シルバーミストが近付いて来るのを肌で感じ取った。
「おっ」
「うわっ」
「んんーっ」
三人の赤い瞳が淡く発光し始める。
眼球内でトロリとしたガラス体が、微弱発光しているのだ。
その光は視神経を通して、イースたちにも見えている。
三人は遠眼鏡を置き、お互いの顔を見た。
リールーが何度もまばたきをして、しかめっ面をしている。
「この光、目を瞑っても見えるんだけどっ」
「シルバーミストが、僕らを探しているね」
「こっちに、真っ直ぐ来るぜアイツ」
イースたちには、近付いてくるのが手に取るように分かった。
なぜなら発光する眼球の水分が、シルバーミストの霧と入れ替わっているからだ。
これはシノがチヒロラに持たせている指の骨と、同様の効果を発揮する。
つまりシルバーミストとイースたちは、お互いの位置が分かるのである。
闇夜の上空から現れたシルバーミストは、羽ばたきを止めてフワリと降り立ち、イースたちの無事を確認すると、目を細めてニヤリとした。
しかし直ぐ真顔になって、いまだ続く戦闘を凝視する。
遠距離でもシルバーミストの赤黒い瞳は、巨大スケルトンが振り回す赤い龍の首を、ハッキリと捉えていた。
次第に奥歯が強くかみ合わされ、歯ぎしりが漏れる。
シルバーミストは怒りを噛み殺すように目を瞑ると、イースたちへ向き直った。
今は大事な子供たちの避難が先だ。
唐突にシルバーミストから大量の霧が吹き出し、辺りを覆いつくした。
イースたちが一瞬で濃霧に包み込まれる。
「うわっ、何も見えっ……あ、見えてる。
そうか……この光る目には、色々と効果が付与されているんだねっ。
面白いなあっ」
「目の前でいきなり変わんなよっ、ビックリするだろがっ!」
「ちょっとシルミスっ! 何が起きてんのか、あたしに説明しなさいよっ」
シルミスと呼ばれた、巨大なドラゴンが両手をお椀のようにして、三人に近づける。
「ぐるる」
*
吹き飛ばした魚の骨が、戻ってこない。
見れば起き上がり、こちらへ戻ろうとする所を、頭でっかちと同じ人型の骨たちに、寄ってたかって押さえつけられていた。
それでも頭に血が上った(血はない)魚の骨は、どうにも行かせろと、ビタンビタンと暴れ回る。
そこへ骨の中で、ひときわ凶悪な姿をした骨が、魚の骨へ近付きぺたりと触れた。
するとそれまで暴れていた魚が、噓のように大人しく成るではではないか。
掘り返された土砂の上で、腹を見せてピチピチと跳ねる。
先ほどのビタンビタンとは違い、妙に愛嬌があった。
魚の骨は何か指示を受けたようで、頭を上にしてすくりと立ち、直立不動の姿勢をとる。
その後すぐに、人型の骨を自分の背骨に掴まらせて、いそいそと上昇していった。
尾ビレをしならせて空中を泳ぐので、ぶら下がる人型の足がプランプラン揺れる。
目指す先は、上空にポッカリと空いた大穴のようだ。
他の吹き飛ばした魚の骨も、人型を背骨に掴まらせて大穴へと運ぶ。
最後の魚の骨。
頭でっかちが、頭の黒い魚を吹き飛ばしたとき、もう目の前に立つのは魚ではなく、あのひときわ凶悪な姿の、人型の骨だった。
頭でっかちは、目の前の骨を見て首をかしげる。
「ああっ」
どうして今まで、思い出さなかったのだろうか?
頭でっかちは、この骨を知っていた。
ただ以前の姿は、純白だった気がする。
しかし今は白と黒が入り混じり、随分と印象が違っていた。
はてしかし、どこで見たのだろうか?
ここ最近の意識はハッキリとしているのだが、それ以前の記憶がぼんやりなのである。
確か真っ白な世界だったはずだ。
何もかも白くキラキラとした世界で、見たはずなのだ。
骨同士で戦うのを、見たはずなのだ。
それも今のような激しい戦いとは違い、皆ゆっくりとした動きで抱き合って、押し合いっこしていたように思う。
その中で強く印象に残るのが、今目の前にいる角の生えた骨なのである。
頭でっかち自体は、頭が重くハイハイしかできないため、戦いには参加していなかった。
いつも……そう白い砂の中から、デコと目だけ出して見ていた気がする。
突然胸に湧いた懐かしさと憧れ。
そして今、対峙することへの緊張感がないまぜとなって、頭でっかちの、心臓の無い胸をドキドキさせた。
「こいつ、つよいー」
頭でっかちは知っているのだ。
目の前の骨が、どの骨よりも強いことを。
角つき骨は首をコキリと一回鳴らすと、おもむろにしゃがみ込み、足元の土塊を握った。
「んー?」
元々は草原だった所が、頭でっかちを中心に、大きく土砂がむき出しとなっている。
角つき骨がその腕を前に突き出し、握る土砂をパラパラとまいた。
「あー、それーっ」
頭でっかちはその姿を見た途端に、テンションが上がってしまう。
本来の小さな腕の方を、ワチャワチャと動かす。
ああ……いけないいけない、そうだ知っている、知っているぞっ。
頭でっかちは、慌てて小さな腕で足元の土砂を握った。
これはちゃんとした壊し合いの前の、大事なしきたり。
握る土砂をジッと見つめる。
ちゃんとまかなきゃっ。
そんなことを思いながら、頭でっかちもパラパラとまいた。
初めてする“マキ”に胸が高鳴る。
無いはずの肺から息を吐く。
「はふー、はふー」
頭でっかちは、ドラゴンの盾を前に突き出し身構えた。
これから、最高の壊し合いが始まるのだ。
盾と盾の間から見える角つき骨が、一瞬で間合いを詰めて、頭でっかちへと襲いかかった――




