表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第4章 ハノイフォージェの草原
229/683

229 霧は、みんなのお姉さんだぞっ。


「わっぷっ、なんで!? 入れないっ!

うーなぎ、まってて、うーな、あっあ~~~~~~~」


楽市へ取り憑いたとたんに、大量の瘴気に押し流されてしまう。 


深く潜り込むことができず、楽市の表面をなぞるように滑っていき、そのまま後方にはじき出されてしまった。


それは何度やっても同じことで、いい加減頭にきた霧乃は、直接文句を言うことにした。


放り出された狐火は、前方へぐるりと回り込み、その勢いを殺さぬまま元の姿に戻って、楽市の顔に抱きついた。


ガシリと両手で頭を抱えて、両足も楽市の胴へまわす。

楽市は鼻を霧乃の胸でしたたか打って、目に涙がたまっていた。


「ふぐうっ、なにをっ!? 霧乃っ!」

「らくーちの、ばかーっ!」


「なにおおっ!」

「まめを、なかすなっ!」


「別に泣かしてなんかっ!」

「うそつきっ! まめのやくそく、やぶったっ!」


「うぐっ、それは……仕方がないでしょっ。

ここにもドラゴンがいて、国つ神様が直接――」


「うそつきっ! 次はいいって、いったろーっ!」

「人の話を聞けーっ!」


夕凪との尻尾争奪戦で尻尾が、あっちこっちにグラリと揺れて、それにくっついている楽市も激しく揺れた。

霧乃は振り落とされないように、楽市の頭を更にギュッと抱き締める。


「ふぐぐっ、離れろ霧乃っ!」

「いーやーだーっ!」


霧乃は小さな口を大きく開き、楽市の鼻めがけて襲い掛かる。


「ばかーっ!」ガブッ

「いってーっ! こらあっ、鼻を噛むなっ!」


また鼻を責められて、また涙目になる。

楽市は手足が動かせないので、首を振るしかない。

しかしそんな事では、霧乃は振りほどけないのだった。


嚙まれた痛みで心が乱れてしまう。

同時に楽市の中で、夕凪が歓声をあげた。


(なんだっ!? らくーちのちから、弱くなったっ!)

(うーなぎ、いけーっ!)

(うーなぎさん、もう少しですーっ!)


楽市は中から外から攻め立てられて、尻尾のコントロールがおざなりになってしまう。


「こいつらああああっ!」


そんな楽市の叫びへ、被せるように霧乃が吠えた。


「くにっかみさまが、なんだっ!

くにっかみさま、なんか、しらないっ!

きりは、まめが、一番なんだっ!

うーなぎも、

あーぎも、

チロも、一番なんだっ!


らくーちの、ばかーっ!

きりは、らくーちも、一番だぞっ!

なのに、ばかばかばかっ!

らくーちの、一番は、くにっかみさまなのっ!?」


霧乃は顔を少し離し、楽市を見つめる。

その瞳は怒りで燃え上がり、小さな牙をカチカチと鳴らした。

返答によっては、また鼻を噛むつもりなのだ。


「霧乃っ、あんたはっ!」


霧乃は完全に誤解している。

いや全く理解していない。


国つ神様とは、この世の全ての営みを支えて下さる御方だ。


そのような御方と、その上に住まわせて貰っている自分たちが、同列であるわけがない。

楽市の中で、霧乃のような質問は成り立たないのだ。


強いて言うならば、それは国つ神様の方であろうが、それでも一番とかそういうものではない。

そもそも国つ神様がいなければ、世の中のあらゆる生物が生きていけないのだ。


楽市がどう話そうかと、言いあぐねていると、霧乃が楽市の言いよどみを、自分の質問の肯定だと受け取り、みるみる目に涙を溜めていく。


楽市が国つ神の方を一番としている事に、ショックを受けたのだろう。

さっきの気迫とは一転、ポロポロと涙を零していく。


「おねがい、らくーち……

らくーちの、一番を、まめにして。

うーなぎも、あーぎも、チロも、一番にして。

きりは、くにっかみさまの、あとでいいからー。

三番でいいからー、らくーちおねがい……」


「きり……の……」


自分は最後でいいから、皆を一番にしてくれと懇願する霧乃に、楽市は言葉が詰まってしまう。

急激に楽市の怒りがしぼんでいく。


楽市の中に、こんな事を言わせてしまった痛みと、霧乃への愛おしさがこみ上げてきた。

楽市は、霧乃の目を見てしっかり言う。


「何言ってんの霧乃っ。

あたしの一番は、あんたたちだよっ。

霧乃、夕凪、朱儀、豆福、チヒロラ。

あたしは、あんたたちを守るためなら、どんな事だってやるっ」

 

力強くいう楽市を見て、霧乃がポロポロ涙を流しながら、顔に抱きついてきた。


「らくーちーっ……」

「霧乃……」


頬を伝う涙の匂いがする。

楽市はその匂いを嗅ぎながら、改めて霧乃たちが、傍にいてくれる幸せを噛みしめた。

楽市の全身から力が抜けていく。


その時、楽市から内なる声が聞こえたっ。


(きり、やったっ、しっぽぶんどったっ!)

「えっ!?」


歓喜に溢れる夕凪の声だ。

楽市は力を抜いたその瞬間に、黒い尻尾のコントロールを、完全に取られた事に気付く。


慌てて支配権を取り戻そうとしたが、夕凪のブロックがかなり厳しい。


全く尻尾のコントロール野に、触れることができなかった。

いくら夕凪でも、これほど完璧にブロックできるわけがない。


そう夕凪一人ではっ。


困惑する楽市の前で、霧乃が体を起こしてニッコリ笑った。

目に涙を溜めているが、ケロリとしている。


「よしっ、らくーちに、じゃまされ、ないように、

まめから、はなれるよっ」


(きり、わかったっ!)

(わー、きり、すーごーいーっ!)

(きりさん、凄いカッコいいですーっ!)


「ああっ、霧乃あんたっ!」


そこで楽市はようやく気付く。

霧乃の下半身が、楽市の体に一体化しているのである。

楽市は首から下の感覚が無いから、気付けなかったのだ。


いやそれだけじゃない、霧乃が抱きついてきたものだから、視界が遮られていた。


そして楽市に抱きつき、下半身だけ取り憑く事により、流されるのを防ぎ、中の夕凪たちと連携をとっていたのだ。

楽市は驚愕の目で、霧乃を見つめる。


「霧乃、あんたワザと泣いて……!?」


「らくーち、あとで、きりがいっぱい、怒られるから。

まめは、わるくないぞっ!」


そう言ってペロリと舌を出すと、霧乃は楽市の中に引っ込んでしまった。


「はあー!?」


あっけに取られる楽市本体を中心にして、黒い尻尾がグルグル巻きとなり、何だかとっても大きな玉になると、コロコロと南へ転がっていく。


中から楽市の叫び声が聞こえるけれど、くぐもって良く分からないのだった。

しばらくして焼け焦げた大地に、小さな手が突き上げられる。


「キタアアアアーーーーーーーーーっ!!」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ