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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
203/683

203 白ヘビの艶々な音色。


「ここは、何かいやだ」


楽市は毛虫楽市を巨人に戻し、石段の近くまで下がることにした。

石切りの現場が、視界に入るのを嫌ったからだ。


そうは言っても、戻るまでの道のりもまた採石の跡として、碁盤の目のような溝が掘られている。

楽市はそれを、不快気に睨み付けた。


充分に離れてから立ち止まり、改めて北を向く。

横に並ぶドラゴンを見つめて、楽市は自分の唇を指差す。

付いて来いという合図だ。


ドラゴンが短く唸ると、楽市はゆっくりと息を吸い声を奏で始めた。


まず初めに、口腔から高音を繰り出す。

それはピンと張られた弦のように、真っ直ぐな高音だ。

揺らぐことのない、ストレートな音が鳴りはじめる。


次にその張りつめた高音へ、指ではじくような音を含ませていく。

ピンピンと、小刻みに跳ねるような音である。


次第にはじく音が増えていき、段々と滑らかな音階に分かれていった。

それは一本の、ゆったりとした調べとなる。


楽市はそこへ全く同じ調べを、あと七本重ねていった。

計、八弦の調べを奏でながら、ドラゴンに付いて来いと顎をしゃくる。


ドラゴンも負けじと八本の高周波を生み出し、跳ねる音へと変化させ、音階を付け足していく。

楽市は満足そうにうなずくと、次へ進んだ。


八弦の声音へ、更に音を足していく。

主軸となる調べ。

そのゆったりとした流れに、小鳥がついばむような軽快な声音を絡ませていく。


これも器用に八重(はちがさ)ねとする。


そこへ下支えするように、別の低い声音を八重ね。

更に何よりも高い声音を、そこへ八重ねする。


主軸、

ついばみ、

下支え、


それらを飛び越えて、高い位置から楽しそうに声音が飛び回る。

これで計、三十二弦。



六十四重の式(むそのしのえのしき)



楽市が残りの三十二音と、画を使用してドラゴンに話しかけた。

高速で擦り合わせするよりは、遥かに負担が少ない。


――そうだ、良好だ。そのまま維持っ!


ドラゴンは楽市を追いかけるのに必死で、返事をする余裕などなかった。


ドラゴンも上手くいけば、

三十二弦と三十二弦で、

計、六十四弦となり、しっかりと式の形となる。


楽市とドラゴンの奏でる声音は、とても楽し気な雰囲気を醸し出す。

なので心象内の子供たちが、ウッキウキな気分となってしまう。


楽市がたまに行う“光と音の、お絵かき劇場”とはまるで違ったものだ。

これは完全に音響がメインで、口からは何も出てこない。


(らくーち、なにこれっ!? まめおきてっ!)

(いつもと、ちがうっ! まめおきろっ!)

(わーっ、たのしーっ! まめおきて、たのしーよーっ!)

(うん? むにゃ……ふあああ)


(ふふふっ、でしょーっ)


楽市は今回余裕があるらしく、しっかりとした言葉で返してきた。


(多分、四〇〇〇年ぶりに、顕現なされるからねっ。

これぐらい、楽しい音じゃないと駄目なんだよっ!)


霧乃たちは初めて聞く楽しい音色へ、勝手に体が反応してしまう。

下支えする低い声音の八重ねが、ちょうど体が乗りやすい拍子を刻んでくれる。

それに合わせて、子供たちが踊り出した。


(あはははっ、うごいちゃうよっ!)

(うひゃあっ! とまんないぞっ!)

(なんか、きもちーっ!)

(ふあー、なーにこれーっ!?)


楽市はそのはしゃぎぶりを、満足気に感じ取りながらちょっと考える。

そして少し頬を赤く染めて、朱儀へ話しかけた。


(朱儀ちょっと、大きいらくーちさんで、踊ってくれる?)

(えっ、おっきいので、おどるの!?)


楽市が、言いにくそうに伝えてくる。


(うん、こういう時ってその、大昔から……あの……

裸の女の人が踊ると、もっと式の力が上がるんだよ……

あっでも、大きいらくーちは裸じゃないけどねっ!)


楽市が妙な念を押しながら、朱儀に伝える。


(うん、やるーっ!)


朱儀にとっては、楽市の拘りなどどうでもいい。


楽しいから直ぐに引き受けた。

初めて踊るものだから、ギクシャクとして変な動きになっているが、しっかりと拍子に合わせている。


そういう所は、さすが子供の順応性といえた。

楽市は踊りを邪魔しないように、黒い尻尾で自重を支えて宙に浮かぶ。


隣に立つドラゴンは、いきなりクネクネしだす巨人に、面食らったようだが、ちゃんと楽市の声音に付いていく。


初めはズレが生じていたものの、さすが高速で交信し合った仲だけに、今はピッタリと息を合わせていた。


次第に、ドラゴンの巨体も揺れていく。

拍子に体を合わせると、気持ちがいいのだ。


ドラゴンに少し余裕が出てきたとき、後方に立つドラゴンたちが騒ぎ始めた。

楽市とドラゴンが何事かと振り向くと、石段の下で揺蕩う雲海が、淡く輝き始めている。


(えっ、こっち? おおおっ、きたああああっ!)


楽市が手応えを感じて、更に声音へ力を入れる。

しかしそこからは、大きな変化が見られなかった。

雲海がいつまでも、ほの白く光る。

それだけである。


楽市に焦りが生じた。


(ううん? あたしのやり方じゃ、駄目なのかな?)


ドラゴンと類似すると言っても、やはり別世界の式である。

多少反応してくれても、あと一押しが足りない。

そこから先へと進めない。


楽市が不安げに顔を曇らせたとき、隣りのドラゴンが話しかけてきた。

随分と余裕が出来たらしい。

高周波を奏でながら、交信を始める。



――不快な白狐よっ――

――何用だ?


――これでは不発ではないのか? 一種、提案がある――

――ぐぬぬっ、何事だ?


――白龍の中でも、このような高周波の遊戯が存在する。

ただの遊戯だと、思考していたがな……

どうだ、試験として採用するか?――


――何事っ、存在するだと!? 

何用で早期に告知しなかった!?

――貴様が、質問しなかった――


――くっ、何ともこの岩石頭蓋めっ! よし採用だっ!

――ふっふっふ、ならば今期は、白狐が追従せよ。ふっふっふ――


――むっ! このっ!


そう言うとドラゴンは低音で拍子を刻む、八重ねのスピードを倍にあげた。


(うわっ、急にかっ!)


主軸となる調べの、はじく数も倍にする。

まるで声音を、ザクザクと刻むように変更していく。

小鳥がついばむような声音も、より攻撃的となり、ザクザクと刻む主軸へと絡む。


そして何よりも高く舞う高音へ、伸びやかな艶を足して、どこまでもそのはじく指数を増やしていった。


まるで一つ一つの声音から、光が走るように感じられる。

その声音は更に高く舞い、天空を飛翔していった。

その技量に、楽市が驚愕する。


(うわっ、これってまるでっ!? へび~何とかっ!?)


初めに奏でられた、楽し気な雰囲気が吹き飛んでしまった。

代わりに何とも気持ちが、熱くなる声音へと豹変し、皆の闘争心が掻き立てられていく。


周りのドラゴンたちが、自分たちの知る高周波遊びだと、気付きだし体を揺らし始めた。


中には、長い首を振り回すドラゴンもいる。

いつの間にやら全ドラゴンが踊りはじめ、巨人楽市も負けじと踊り狂った。


(わーっ、これいい、かもっ!)

(カッカくるっ、カッカなっ!)

(あー! なんか! その……へへへ)コロコロしたい

(ぶあー、ぶ……ぶあーっ!?)


(うーっ、この負けるかっ! この、このっ!)


楽市も慣れぬ音階へ必死についていき、誰もかれもが酔いしれていく。

五体の幽鬼も、意味もなく七色に点滅し始めた。


そして巨獣たちのバカ騒ぎが、頂点に達したとき遥か彼方まで続く、

雲海が立ち上がるのだった――











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