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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
202/683

202 不快な財宝ダークエルフ。


(何だか、妬けちゃうなあ……)


楽市が顔を強張らせながら、笑みをこぼす。

瘴気から伝わってくる感情が、“不快”であると気付いたとき、怒らせてしまったと激しく狼狽した。


楽市は常日頃から第一印象を、良くしようと思っているのに、またしても失敗したのだ。

いきなりこの地の御方を、怒らせてしまう。


最悪だ。

へこんで、しまうではないか。


しかしである。

楽市は、同時に笑みもこぼしていた。

最悪の出会いだろうと何だろうと、この地の御方はちゃんと応えてくれるのだ。


四〇〇〇年こちらより音沙汰なしで、拝殿が無かろうとも、どこかへ御隠れになる事もなく応えて下さるのだから。


楽市にとってこれは、数百年ぶりの謁見である。

たとえそれが最悪な形であっても、嬉しくてたまらない。


そしてこのような御方が、今もなお存在するこの世界に少し焼きもちを妬いた。


(ちぇっ、いいなあ……)



急に瘴気を出したかと思えば、ピタリと止める。

何がしたいのか良く分からない巨人が、ゆっくりとドラゴンへ振り向いた。


ドラゴンたちが、更に後退ろうとする。

しかしあるものに、興味が刺激されて長い首を傾げた。


振り向いた巨人の手の平に、小さな獣人の女が立っていたからだ。

ドラゴンたちは、その手に乗った小さな生き物を凝視する。


凝視される楽市は、荒い息を吐いた。

今度はドラゴンたちの前に、生身をさらす恐怖からの息苦しさである。


「うわっ、結構いるなあ。

お願いだから、それ以上近付かないでよね……」


半透明の幽鬼たちが舞い降りて、盾になろうとするのを、楽市は手で制止する。


「ごめん、ありがと」


ガードを外したのはこれから行うやり取りを、周りのドラゴンたちへ見て欲しいためだ。


「では、いきますっ」


楽市は深呼吸を三度繰り返し、おもむろに声を奏で始めた。


六十四重の式(むそのしのえのしき)


楽市の声音が次々と重ねられていき、その調和が三度に分けて、大きく膨らんでいく。


するとその口腔から、

白く輝く太陽、月、星、そして頭と尻尾のない蛇が出現した。

楽市の前で、それらがゆっくりと揺れる。


その意味が分からないドラゴンたちは、傾けた首をさらに反対へ傾けた。

けれど一体だけ、それが分かる個体がいる。


その個体が手を、揉み手のように組み合わせながら、ゆっくりとドラゴンたちを、搔き分けて前に出てくる。

その瞳は、不信感に溢れていた。


楽市を、全く信用していない目だ。

この個体もまた財宝である宮殿が、ぶっ壊れたばかりなのだ。

気持ちが、穏やかでいるはずがない。


ひくい唸り声を上げ、かなり苛立っているのが分かる。

それでも渋々出てきたのは、楽市のサインを理解できるドラゴンが、自分だけだと分かっているからだろう。


ドラゴンは大きな翼を広げて、その部分だけミスト化する。


そして億劫そうに顎を開き、高周波を奏で始めた。

その高音が霧に干渉して縞模様を作り、次第に太陽、月、星、白蛇の形へと変わる。


そこからは、楽市とドラゴン。

二人だけに通じる会話が続く。



――不快な白狐よ、何事か?――

――白龍に、協賛を要請する。


――何事?――

――現地神の顕現。その過程を協賛せよ。


――顕現だと? 本意か白狐?――

――本意だ白龍よ。


――再三に言質するが、白龍は知らぬぞ――

――手順は白狐が伝授する。

推測だが、貴様と手前の施術は、根本において類似する。


――貴様だけで、施術すればよい――

――白狐単独では不足だ。

 

――何事の根拠で?――

――この山頂は、貴様たちの担当である。

白龍よ、拒否は不可だぞ。

もし拒否すれば、貴様の諸手の財宝を虐殺する。


――なっ貴様っ、白狐っ!――


ドラゴンが両手を隠すように、後退りした。


楽市は知っていたのだ。

霧乃と夕凪の伝えてくれる索敵情報で、ドラゴンが何か手に隠し持ち、その中身がダークエルフだという事を知っていた。


交渉相手だから見逃していたが、今がそのカードを使うべきだと楽市は判断した。


――この白狐から、逃走可能だと思惑するなよ。

――ぐるるっ(ぐぬぬっ)――


楽市はドラゴンを見つめ、先回りして念を押す。


それと同時に、後ろに立つ巨人の全身から触手を伸ばして、“毛虫化”させた。

それを見たドラゴンたちが、ざわめき始める。


これは、楽市なりのハッタリなのであった。

毛虫化などしたら、余計にノロくなって追いかけられないのだが、その不気味さは、何よりも効果的だ。


その訳の分からなさが、かえって相手の恐怖を増幅させる。


――白龍よ、貴様の不快な財宝(ダークエルフ)は、白狐の要請を嚥下(えんげ)するなら不問とする。

なに白龍よ、安寧せよ。

白狐の伝授する施術を、復唱するだけだ。


――ぐるるっ、真実にそれポッキリか!?――

――ポッキリだっ!



二人は交信にも慣れてきて、多少砕けた言葉も使い始めた。











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