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**闇落ち白狐のあやかし保育園  作者: うちはとはつん
第3章 カルウィズ天領地
201/683

201 口端に浮かぶ笑みからは、白い牙。


(ぐ……く……ぐぎぎっ)


かつてあったはずの神域が、ただの石材採掘場となっていた。


それを見た楽市の胸に、憤怒の炎が燃え上がり喉奥でつかえる。

楽市はドラゴンへの仕打ちを、自分のことのように激怒していた。

  

神域を軽んじられる。

(ないがし)ろにされる。

無かったことにされる。

挙句の果てに、全てを奪われる。


それは楽市が培ってきた大切な理を、全て踏みにじる行為。

たとえこの身が祟り神に堕ちようとも、今も抱く思慕を踏みにじる行為。

 

(はあはあはあ……っ)


怒りで身体が強張り過ぎて、呼吸がうまくできなかった。

尻尾が針山のように、膨れ上がっている。

楽市は奥歯を食いしばり、呻くように呪いの言葉を吐く。


(こ……殺してや……るっ)


そうは言っても、呪う相手はこの場にいない。

それでも楽市は、呪詛を吐き続けた。


(おの……れ、どこまでも愚弄するか……ダークエルフどもめ……っ)



頭に血が上り過ぎて、それ以外の行動が思い浮かばないのだ。

金の虹彩をギラつかせて、石切り場を睨み続けて固まってしまう。 

 

固まった白狐からは、大量の瘴気が溢れ始めた。

楽市は先程まで漏れる瘴気を、“迷惑じゃないかしら”と気にしていたのだが、今はお構いなしである。


多分、そこまで気が回っていない。

こうなると瘴気に当てられて、がぜん子供たちが騒ぎ出す。


(わー、らくーちっ、どーした、きゅうにっ!?

いいぞ、もっとやれっ!)


(あはは、らくーちっ、コロスコロス、言ってるっ!

だれ、やるの?)


(あーぎが、やってあげるっ! ぜんぶ、やってあげるよっ!)


(すーすー……ふふ……すーすー)


楽市の腕で眠る豆福を除いて、ちびっ子たちが大興奮だ。


溢れ出る瘴気は、巨人楽市の柔肌からも駄々洩れである。

真っ直ぐな黒髪からも滴り落ち、岩肌を舐めるように広がっていく。


山頂はよく晴れて霧など発生していないが、代わりにドス黒い瘴気が、霧のごとく山頂を覆いはじめた。


それを見た、ドラゴンたちが急いで後退っていく。

楽市の警護役である幽鬼でさえも、上空に逃れていた。


楽市は激情に身を焦がしながら、瘴気を噴き出し続ける。


それが一分なのか、五分なのか、はたまた一時間なのか?

当の楽市は、頭に血が上り過ぎて分からない。


そんな中、噴き出す瘴気の端に、突然何か触れるものがあった。

楽市は何かもぞりと、動くものを感じる。

それはドラゴンや、幽鬼たちでは断じてなかった。


もっともっと大きなもの。

楽市たちが、豆粒に思えるほどの巨大なもの。


そこで楽市はブルリと震えて我にかえり、急に辺りをキョロキョロと見始める。

噴き出していた瘴気はヘナヘナとしぼみ、山頂の風に吹き流されていく。


楽市が感じたものを、霧乃と夕凪も感じたようで、ガタガタと震えて楽市の袖に小さな手でしがみ付いていた。


(らくーち、なんかいるーっ!)

(なんか、でっかいの、おこってたぞっ!)


楽市は憤怒のつかえが無くなり、荒い呼吸を何度も繰り返す。

その顔は、何やら不思議な表情をしていた。

驚愕し(おのの)きながらも、口の端に笑みが浮かんでいるのだ。


(はあっ、はあっ、はあっ……

今、この地で眠る御方が、あたしの瘴気でイライラなさったっ!)


口端に浮かぶ笑みから、白い牙が覗いた――












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