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後編

 入学式も無事終わり、明日からは授業が始まる。教室など自由に出入りして良いことになっているので、ひとまず校内を見学して帰ろうと歩き始めたときだった。

「あの、リーナ・ホワイト様でしょうか?」

「あ、はい、私……」

 名前を呼ばれて振り返った先に立っていたのは、憧れの悪役令嬢、ルナ・ブラックだった。

 どうして彼女が私に話しかけているのだろうか。驚きと緊張で声がうまく出てこない。


「驚かせてしまって申し訳ありません。わたくし、ルナ・ブラックと申します。もしお時間があるようでしたら、わたくしに付き合って頂けませんか?」

 彼女は私の様子を確認しながら、ゆっくりと話し、優しく微笑んだ。

「私で良ければ……」

 なんとか声を紡ぎ出し、スカートの裾を少しだけ持ち上げて、丁寧に礼をした。


「ここは少し人目がありますので、庭園に行きましょうか」と彼女が促し、私たちはまだ賑やかな講堂を後にした。


 校舎裏にある庭園は四季折々の植物が生い茂っていた。庭園内では気温や湿度、日照時間などを調節する特別な魔法が使われていて、たくさんの種類を一度に見ることができると聞いたことがある。

 木々が色鮮やかだと思って見上げると、桜と紅葉が隣り合わせで風に揺れていて、なんだか幻想的な雰囲気を作り出していた。

 辺りを見渡し、人気がないのを確認してから改めて彼女に向き直った。

「あの、それで……もしかして私、ルナ様に何か失礼なことをしてしまいましたか?」

 思わずルナ様と呼んでしまい、しまったと思ったが、彼女はふふっと笑って「わたくしもリーナ様とお呼びしますね」と言ってくれた。

「リーナ様が何かなさったわけではありませんわ。わたくしがただ貴女とお話ししたかったのです」

 そして彼女は視線を一旦逸らした。次の言葉を躊躇っているように見えたが、目を閉じて一呼吸して、もう一度私の目を見つめ直した。

「あの、変なことを聞いてしまったら申し訳ありません。リーナ様はもしかして、この世界に転生してこられたのでしょうか?」

 私は思わず目を見開いた。

「もしかして、ルナ様も……?」

 おずおずと尋ねると、彼女はしっかりと頷いた。

「はい。お互い転生者だと分かって安心しました。わたくし、貴女にお願いがあってきましたの」

 私ははっとした。

「私も、ルナ様にお伝えしたいことがあったんです」



 ――話は冒頭へと戻る。

 悪役令嬢も転生者だと分かり、断罪を回避できるように頼もうとしたら、なんと向こうからも同じお願いをされた。今ここ。


 彼女はきょとんとしていた。きっと私はもっとぽかんとした表情になっているだろう。何が起こったのかよく分からなかった。


 な、何か言わなくては。


「私が断罪されるんですよね……?」

 確認のためにそう尋ねると、まさかの思いもよらない答えが返ってきた。

「ヒロインが断罪されるわけないじゃありませんか……! 断罪されるのは悪役令嬢のわたくしです」


 私がヒロインで、彼女が悪役令嬢という認識はあっているようなのだが、どうやら彼女は自分が断罪されると思っているようなのだ。

 もしかしたらゲームの内容までは知らないのかもしれない。

 普通は悪役令嬢が断罪されると思うよね。


「えーと、このゲームはルナ様が主人公なんです。ちょっとややこしいんですけど、乙女ゲームの悪役令嬢として転生した主人公が断罪を回避しながら恋愛していくんです」

 そう説明すると、彼女は首を傾げた。

「わたくし、このゲームを何度もプレイしましたわ。ヒロインであるリーナ・ホワイト、つまり貴女として。エンディングでは毎回、悪役令嬢ルナ・ブラックはヒロインに断罪されて修道院送りになるのですわ」


 それは私の知ってるゲームと違う。

 何かおかしい。


「私たち別のゲームの話をしているのでしょうか?」

「わたくしは『リバーシ魔法学園☆』の話をしていますわ」

「私も同じです」


 同じ名前のゲームで設定が真逆なんて、私の知らないうちに、やっぱりヒロインが主人公のゲームも作ろうということになったのだろうか。人気のゲームなら続編が出ることは十分考えられる。


「もしかして続編でしょうか?」

「いいえ、続編はありません。『リバーシ』を作った会社はもうないのです」

 彼女ははっきり否定し、続ける。

「わたくし、ウェブサイトを毎日チェックしていましたの。会社の運営状況も気になって、IR情報まで欠かさず。そうしたら続編が出る前に会社が倒産してしまったのです」


 彼女はとても詳しく調べていたようだ。

 ゲームのウェブサイトは私も見ていたが、企業情報のページまで読み込んでいる猛者がいるとは思わなかった。愛を感じる。

 しかし開発途中で会社がなくなってもゲームが販売されることはある。

「別の会社が事業を引き継いで、続編が販売された……ということはないでしょうか?」

 と尋ねてみた。

「おそらくそれもないと思います。『リバーシ』、わたくしは好きだったのですけれど、あまり売れなくて……乙女ゲームとして物足りなかったのです」

 彼女は目を伏せがちに、悲しげに答えてくれた。

 売れなかった理由は何となく察しがついていた。

「攻略対象が三人って、少ないですよね……」

「そうなのです! 追加であと三人くらいいてもおかしくないのに、どうしてここまで削ってしまったのでしょう!」

 彼女も同じことを考えていたようで、うんうんと頷いた。

 私に貸してくれた友達も「すぐ終わってしまったから」と言っていたような。


 あれ、でも友達はまだ何か言っていた気がする。

 今なら思い出せるかも。

 会話の記憶を掘り起こしてみることにした。


「もっと時間かかると思ったのに、案外早くクリアできちゃったんだよね」

 ゲームをやりこむタイプの友達がそんな言い方をするのは珍しかった。

「そんな簡単だったの?」

「攻略対象が三人しかいないからね」

「少なくない?」

「うーん、でもこのゲームはダブル主人公だから。ヒロインと悪役令嬢、両方で遊べるんだよね。攻略対象が多すぎると作るのが大変だと思うから、これでいいのかなって」


「ダブル主人公……」

 私が思わず呟くと、彼女もはっとしてこちらを見た。

 そうだった。そうだった。このゲーム、主人公が二人から選べるのだ。

 前世のゲームの映像が今はっきりと頭の中で再生されている。

 私たちは確かに同じゲームをやっていたのだが、私は悪役令嬢、彼女はヒロインが主人公のパートをプレイしていたのだろう。

 悪役令嬢が主人公ならヒロインが、ヒロインが主人公なら悪役令嬢がそれぞれ断罪されるわけで、私たちの話が噛み合わなかったのはそのせいだったようだ。


 私はほっと一息ついて、

「どちらかに主人公補正がかかる可能性はありますが、断罪のようなイベントが起こらないように、私がルナ様を守ります! ルナ様のこと、大好きですから!」

 彼女に笑顔でそう伝えた。

「そう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます」

 彼女もこちらに微笑みを向けてくれた。そして勢いよく宣言した。

「わたくし、王子と貴女の恋を応援しますわ!」


「えっ……!?」

「あら、他に好きな方がいらっしゃるんですの?」

「そういうわけではないんですけど、私がルナ様と王子の恋を応援したいといいますか……」

「そんな! 遠慮なさらなくて良いんですのよ!」

 彼女は私の手をぎゅっと握って、意気込む。


 ルナ様に転生した子は、こういう性格だったのか……。


「わたくし、王子と何度か話しましたが、ちゃんとこの国の未来も案じていらっしゃいますし、話しやすくて良い方でしたよ」

「うーん、かっこいいとは思いましたけど、自分がどうこうしようとは思えなくて。それに断罪イベントがもしも起こったら困りますし」

「それはお互いに気をつけていましょう。わたくしも、貴女を断罪しようとは思っていませんわ!」

「ありがとうございます!」

「だからわたくしに任せて下さいな!」

「そうはいきません!」


 あとは押し問答になった。

 彼女は王子×ヒロイン派、私は王子×悪役令嬢派。推しカプの違いは戦いである。どこまでいっても交わらない。

 かくして私たちのお互いの応援し合い、もとい、王子の押し付け合いが始まったのだった。

読んでくださってありがとうございました!

悪役令嬢が頑張る小説が好きです。自分も何か書いてみたいなと思い、ついにやってしまいました。

誤字脱字や日本語が変なところなど、なんでもツッコミを入れて頂けるとうれしいです~。


2020年5月31日 衍字修正

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