表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

序幕

みんな、イマジナリーなんたらって知ってる?

俺は最近イマジナリー上司とよく会話するんだけど、わかる人いるよね?

彼と話して出した答えは、実物の上司が求めているものとは、だいたいズレるんだ…


―――


「今週も一週間、お見守りいただきありがとうございました。」


今週の仕事を終えて帰宅した直後。

翌週の朝までの自由な時間を楽しむ、その直前。

俺個人が行う、週の大事な締めくくり。


社会人生活も一人暮らしも、順風満帆ではなかった。

そんな時に縋る思いから手を合わせていたが、いつからか平穏無事なときにも、感謝を伝えるために手を合わせていた。


思い描くのは神様、ご先祖様、守護霊様。


視線は俺の身長より少し低い棚の上。

地元のお祭りで授かった福笹や友人と訪れた神社のお守りが、祀られるように置かれている。

供えられた日本酒の瓶に浮いた露が、表面をなぞり、静かに落ちていく。


神棚のように正しく祀られたものではないため、意味のない行為かもしれない。

ただ、これまで様々な困難を乗り越えてこれたのだから、俺はきっと感謝の形を表すために、これを続けていくのだろう。


手を合わせ終えた俺は、普段から持ち歩く鞄の中から一体のお守りを丁寧に取り出す。

テーブルの中央へそのお守りを置き、お猪口を供え…お酒を注ぐ。


「本日も変わらぬご配慮を賜り、ありがとうございました。」

正座した状態でお守りに手を合わせ、目を伏せ頭を下げる。

正しい言葉遣いは勉強中だ。


頭を上げた視線の先には、

お守りの隣に小さなお姿で座られ、両手で抱えた小さなお猪口を傾ける"湍津姫神(たぎつひめのかみ)"のお姿があった。


―――


この日の昼前。


俺のいるプロジェクトを束ねる、課長のスケジュールは"出張"の文字で埋まっていた。

スケジュールは共有されており、みんな前もって知っていた。

こんな時、その課長の次に偉い、外面の良い上司がサボりだす。

…みんな前もって知っていた。


「…おい、熊先。」

俺かぁ。


今日はいつもより深刻そうな顔で、その上司に資料をまとめるよう求められた。

昨日、颯爽と定時退社しようとしてたアンタに、課長が振ってたやつだろソレ。


そんなアンタに重たい仕事を丸投げされてるから、俺たち忙しいんだけど。マジで。


その内容は…俺やAIからそれっぽい回答を得て報告しても、突っ込まれたら粗が出るヤツ。

アンタの視点でしっかり情報収集して、精査した内容の方が欲しい感じ。

どうやら、課長が上司の行動を掴んでるっぽい。


よく話すイマジナリー上司を脳内に呼び出す。聞こえますかー?

うん。課長の思いはぼかしたうえで、それっぽい誘導をしても、「理解できない」「結果をくれと言っただろ」と怒鳴られる。


あんためんどくせえな

なんだと!


このままだと昼メシ食えるか怪しい…何とかならんかね…


「それ、君にお願いした話だよね?」


今日は居ないはずの課長の声がする。彼の机からではなく、フロアの目隠しの向こう、フリースペースから現れた。

どうも出張は午後からのようだ。スケジュールの記載が雑ぅ


一瞬驚いた顔を見せ、課長の方には顔を向けず、悩むように傾けた頭を掻きながら無言で机に戻る上司。

なんかいつもと違う流れだな…


イマジナリー上司に説明した内容を、リアル上司にも社内の個人チャットへ送付しておいた。

しばらくしたあと、珍しいことに「助かる」と、礼にも取れる一言が返ってきた。

どうした?


今日は諦めかけてた昼メシに、無事、ありつけた。


―――


空いたお猪口を見て、俺は日本酒に両手を添え、注ぐ仕草をする。

湍津姫様は応じてくださったのか、お猪口を少し持ち上げた。


しばらくの間、酒を注ぐ音だけが静かに続いた。

本作はフィクションです。

作中に描かれる神や出来事は、信仰や感じ方の一つの形を表現した創作です。

実在の宗教・信仰・人物とは関係なく、それらを否定・評価する意図はありません。


主人公も誰も彼も、清廉潔白である必要のない、普通の人です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ