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妖精旅団

 この世界は最高だ。


 それが、森林世界を飛び出してきた妖精三匹組の共通の感想である。

 立派な家はあるし、住人達は皆優しい。巨大な鳥もおらず、世話になっている家の中は安全だ。

 街の空気には神秘がまったくといっていいほど存在しないことには少々驚き、ときたま息苦しさを感じたが、それだって対策済みである。


「……よし、と。これでいいか?」

「うーん。少し斜めだけど、まぁ許してあげるわ!」

「わぁ、リリは無駄に偉そうなの」

「穴堀りを全てお兄さんにやらせておいて、それはどうかと思う」


 時刻は昼過ぎ、場所は妖精三匹組が世話になっている孤児院のささやかな庭である。

 今日は妖精三匹組の監督のもと、アーロが森林世界を統べるものエールバニア・ルーラーから土産に持たされた苗木を植えていた。

 といっても、それほど大きくはない苗木だ。軽く穴を掘り土を被せるだけでこと足りた。


「これで、お前らが過ごしやすくなるのか?」

「もっちろん! お兄さんには感謝してるわ!」


 アーロが土産に持たされた苗木は、名を《妖精の宿り木》という。

 この木は少なからず神秘を内包する。神秘は少しずつ周囲に漏れだし、狭い範囲ながらも森林世界の神秘の漂う森と同じ状況を作り出すのだ。

 神秘の溢れた森林で生まれ過ごした妖精たちにとって、全くと言っていいほど神秘を感じられないこの世界は息苦しく感じるときがある。だがこの木の周囲に少しでも神秘があれば、息継ぎをするように楽になるのだ。


 宿り木は今はまだ苗木だが成長すれば神秘が覆う範囲も広がり、より多くの神秘を生み出すこととなる。

 そうして木が大きく成長した暁には、この世界にも妖精が生まれるかもしれない。

 おそらくは大した力もなく、弱々しい妖精となるだろうが、それでも仲間が増えるのだ。妖精三匹組はその時を楽しみにしていた。


「よーし、お世話の順番を決めましょ!」

「はーいなの。お仕事なの」

「日替わりがいいかなぁ」

「リリ、ルル、ララの順番にしろよ。二日忘れると木が枯れそうだ」

「……そうしようかな」

「お兄さんったら、失礼ね!」

「抗議するの!」


 アーロはからかうように言うが、妖精たちにとって植物の世話は大事な仕事である。現に孤児院で世話になっている間にも、家庭菜園の様子を見て枯れかけた野菜に妖精水を与えたり、司祭トマスが趣味としている盆栽の手入れを手伝っている。

 いくらお気楽な妖精とはいえ、大事な役目をそうそう忘れるようなことはない、はずである。たぶん。

 また、神秘の篭った樹の朝露は、妖精にとっての重要な養分である。多量に取り入れることで妖精水という滋養強壮に効く液体となることもあり、朝起きての樹の世話は大切なライフワークでもあるのだ。


「神秘のないこの世界の樹の朝露も舐めるんだけどさ。なんていうか、うま味が違うのよね」

「コクが深いの。まろみもとろみも違うの」

「森にいた頃はあの味が当然だったから気がつかなかったな」


 揃ってうんうんと頷く妖精たち。

 ところ変われば水質も違う。軟水や硬水のような違いであろうか。

 冒険者時代に似たような思いを持ったアーロとしても、分からない話ではない、と腑に落ちた。


「さて、どんどん樹を大きくして、種か接ぎ木をいろんなところに植えるわよ!」

「賛成なの! いろんな場所に快適な休憩所を作るの!」

「そうだな! 仲間を増やして、この世界の植物や困ってる人たちを助けよう!」


『それが私たち──妖精旅団の使命!』


 ばばーんとポーズと宣言が決まり、妖精たちはご満悦である。

 当初は異世界観光やらなんやらと言っていた妖精たちの主張のぶれに、アーロはやれやれと苦笑する。あるいは、目的などないのかもしれない。


「さぁ、今日も元気に頑張るわよー!」

『おぉー!』


 能天気なリリの号令に、ララもルルも元気に呼応した。


 妖精旅団は今日も元気に異世界で活動中である。



    ◆◆◆◆◆



 この世界の住人は、お洒落に気を遣う。


 それが、森林世界を飛び出してきた妖精三匹組の共通の感想である。

 着るものは毎日変えるし、個人毎に細かな細工や色味の好みがある。聞くところによると気候や季節だけでなく、場所や人物に合わせても服装を大きく変えるらしい。

 世話になっている孤児院という場所の子供たちも例外ではない。妖精たちの朝の役目である起床と着替えの手伝いをしていると、子供なりにあれは嫌だこれが着たいなどと駄々をこねるのだ。


 繊維質の植物を編んで作られた素朴な服装を身につけることが多い妖精たちには見られない文化である。

 そして自分達を振り替えれば、代わり映えのしない服装。色味も自然のままの地味なもの。と、毎日服を変えるようなきらびやかなお洒落とは程遠い。

 ゆえに、当然の帰結として妖精たちにはある想いが芽生えることとなる。


「私たちもお洒落がしたいわ!」

「可愛い服が欲しいのー!」

「フリフリでヒラヒラのやつ!」


 ある日の昼間から、妖精三匹組は駄々をこねていた。三匹揃って滞空しながら手足をばたつかせる、子供もかくやのこねっぷりである。

 昼過ぎに孤児院へと足を運んだアーロが、げんなりとした顔でその様子を眺めていた。


「お洒落ー! ねぇお兄さんどうにかしてよ!」

「可愛いやつ! それもたくさん欲しいの!」

「フリフリでー! ヒラヒラでー!」

「どうにかって言われてもなぁ……」


 叫ぶ妖精たちに対して、アーロは困ったように頭をかく。


 なにせ服は高い。

 しかも大人の顔程度の背丈の妖精たちに合う大きさなど探してもあるわけもなく、個々の大きさを測って一着を仕立てるなど手間と費用がかかりすぎるため、論外である。

 唯一サイズが合いそうなのは着せ替え人形用の服だが、あんなものは貴族や富豪の持つ玩具であるため、替えの服一つとっても高額になってしまうのだ。

 最後の手段としては服を自作することだが、残念ながらアーロに裁縫の才能はない。ほつれたボタン一つ直せないのだ。もし作ったとしても継ぎはぎの貧相な布袋が出来上がるに違いない。


「今のままでも自然っぽくていいじゃないか」

「ちっがーう! お兄さんがどう思うかじゃなくて、私たちが嫌なの!」

「宮殿にいた世話妖精メイドフェアリーに負けた気がするのー! 悔しいのー!」

「フリフリでヒラヒラで白黒のやつ着たい!」

「あぁ、お前らはあのお仕着せの妖精に対抗心燃やしてるのか」


 世話妖精メイドフェアリーとは、森林世界を統べる者が座す白亜の宮殿で庭園の世話や給仕を行っていたお仕着せを着た物静かな妖精である。

 いかなる素材かは不明だが、白と黒のゴシックな色合いに小さく羽の生えた妖精の異様な外見が合わさり、とても可愛らしい様子であったのをアーロは覚えていた。


「とは言ってもなぁ……」

「やだやだ!」

「欲しい欲しい!」

「お願いお願い!」

「何やってるのお父さんたち……」


 昼間から騒がしいな、と広間にひょっこりと顔を出したのは、アーロの愛娘のルナだ。今日は下働きとしては非番の日であるが、孤児院の手伝い程度は行うため、毎日欠かさず通っている働き者の娘である。

 彼女は妖精たちへ仕事の手伝いを頼むこともあり、既に仲よしの気安い関係だ。

 妖精三匹組はアーロが役に立たないと判断すると、さっそく標的を変えてルナに泣きついた。


「ルナぁ!」

「お兄さんがぁ!」

「服を着せてくれないってぇ!」

「えぇ……。お父さんひどい……」

「違ぇよ。誤解を招く言い方をするな」


 事情など話せばすぐだ。

 妖精たちがお洒落をしたいと駄々をこねている。それだけである。


「ふーん。わたし、作ってあげよっか?」


 事情を聴いたルナは、そんなの簡単じゃん、とでも言う風にあっけらかんと言った。


「いいのか?」

「うん。お裁縫得意だし。端切れがあるからそれを使えば三着くらいなら作れると思う」

「ほんとっ!」

「わぁい!」

「やった!」


 三着分だから、順番ね。と言い残して端切れや裁縫道具を取りに行くルナを見て、妖精たちは大喜びである。






 得意だと自負するルナの裁縫の腕前は、見事の一言であった。

 少々の時間はかかったが、妖精たちの体の寸法に合わせ、余った端切れからきちんとした服を作り上げて見せたのだ。

 使用した布は丈を詰めた服の切れ端や、穴が開いたり破れたりした服やカーテンの無事な部分である。それらは捨てられずに綺麗な物は補修したり、孤児院の子供たちの裁縫の練習台になったり、どうしようのないものは雑巾として使われることになる。

 幸いにも今は多く素材があったようで、ルナは妖精たちの希望を聞きながらお揃いの服装を繕ったのだ。


「見てみて! すごいお洒落よ!」

「華やかさでは世話妖精に勝ってるの!」

「フリフリでヒラヒラだ! ありがとう!」


 妖精たちはお揃いの服装を見て大はしゃぎしながら互いに自慢し、礼を言い、宙を舞って踊り出した。

 それぞれが出した要望は、自然をモチーフにした、華やかな衣装で、フリフリでヒラヒラをつけて、である。

 ルナは三つを混ぜ合わせ、色も種類も違う布を幾重にも重ねて彩鮮やかな花弁のような形を作り、さらに随所にフリルをあしらったドレスのような服を作り出したのだ。当然、羽の生えた妖精に合わせて背中には穴が開いている。


「よくもまぁ、あの端切れがこんな立派なドレスになるもんだな」

「ふふ。作ってるうちに気合が入っちゃった。かわいいでしょ」

「ああ。華やかでいいんじゃないか。これで食っていけるぞ」

「まさかぁ。今回は、絵本に出てくる妖精のお姫様の服装を真似てみたの」


 不器用なアーロは、もしも自分に任されていれば布がつぎはぎの頭陀袋ずだぶくろになっていたことは想像に難くないので、娘の裁縫の腕前を素直に賞賛した。

 ボタンが取れたり小さな破れほつれなどを直してもらったことは幾度もあるが、これほど器用とは思いもしなかったのだ。

 ルナは謙遜しているがアーロの賞賛もあながち的外れでもなく、きちんとした布を使えばそのまま着せ替え人形用のドレスとして商品になりそうなくらいの出来栄えであった。

 そして、そんな服を作ってもらった妖精三匹組も大喜びである。


「すんごいわね! さすがはルナ!」

「ありがとうなの! 大事にするの!」

「汚さないように気を付けるぞ!」


 満面の笑みを浮かべる妖精たちの華やかさも服装によって増し増しである。

 今までは自然の素材を生かした素朴な服装だったが、可憐な少女の外見をして四枚の薄羽を生やした妖精たちがそれらしい恰好をすれば、おとぎ話に出てくる妖精の姫と見紛うばかりの幻想的な雰囲気を醸し出すのであった。


「うんうん。じゃあ、これからもお手伝いを真面目にやってね」


 喜ぶ妖精たちにルナは満足そうに頷くと、にこりとひまわりのような笑みを浮かべて告げた。

 そう。何かを得るためには対価が必要なのだ。森暮らしの妖精たちとて取引の掟は重々承知している。


「え?! う、うん」

「わかったなの……」

「言われなくても真面目にやるぞ!」


 リリとララは渋々、ルルは快く承諾する。

 既に品を受け取ってしまったのだ。貰った品の分は働かねばならないし、それが嫌ならこの綺麗なドレスを突き返すしかないのだ。

 しかし一度袖を通して自らや仲間たちの華やかな姿を見てしまったので、それぞれ「この服を手放すなんてとんでもないわ!」「絶対にイヤなの!」という思考状態である。

 お洒落な服を手に入れて嬉しい反面、もっと手伝いをしなければいけないということで若干の憂鬱な気持ちになる妖精たちであった。


「そんな顔しないの。お手伝い頑張ったら、また服を作ってあげるから、ね?」


 しかしその憂鬱さも、続くルナの言葉によって吹き飛ばされる。


「ほんとぉっ! 約束よっ! 絶対よ!」

「なんでもするのっ! 肩でもなんでも揉むのっ!」

「うぅぅ! もっと頑張るぞ!」

「ふふ。頼りにしてるからね」


 今までにないくらいにやる気に満ち溢れた妖精たちに囲まれ、嬉しそうに微笑むルナ。

 飴と鞭、妖精の扱いが格段にうまい愛娘の姿を見て、アーロは「強く育ったな……」という謎の感慨深さを感じていた。

 見た目からは活発な少女という雰囲気が感じられるが、孤児院の子供たちの面倒を見ているせいか、年長者としての自負がついてきたからか、人をやる気にさせる力が身に着いたようであった。


「よぉし! この調子でお洒落妖精になるわよ!」

『おぉー!』


 そんなルナに乗せられ、いつもより格段に気合の入った声を上げる妖精たち。

 妖精旅団はお洒落マイスターになるため、今日も元気に異世界で活動中である。


 後日、孤児院の子供たちのお手伝いに交じり高所の掃除などに精を出す妖精たちの姿が目撃されたのは、言うまでもない。



    ◆◆◆◆◆



 この世界には甘いものが溢れている。


 それが、森林世界を飛び出してきた妖精三匹組の共通の感想である。

 この世界の蜂蜜などに加え、時折貰える角砂糖は白くてきらきらで甘い。

 さらにその甘味が単体だけではなく、料理となって出てくるのだ。


 砂糖をまぶした揚げパン。サクサクとしたクッキー。孤児院の子供の誕生日に一度だけ食べたケーキ。

 森の中で果物や蜂蜜を単体で食していたころと比べ、今の料理のなんという複雑な味か。

 舌が肥えてしまって、妖精たちの今までの食生活では味気なく感じてしまうかもしれない。  


 しかし森の中でも貴重な甘味は、やはり格別な旨さなのだろう。

 ある日のこと、アマデウス救済院の食堂に集まったアーロとルナが何やら料理を行っている匂いに誘われて、リリ、ララ、ルルの妖精三匹組が姿を現した。


「なんか、すっごいいい匂いがする!」

「甘いのー。これはきっとアレなの!」

「まさか。いや。もしや」

「なんだお前ら。散歩か?」

「この子たち、私が料理してるといっつもつまみ食いに来るのよ」


 鼻をすんすんと鳴らして匂いの元を探ろうとする妖精三匹組に、アーロとルナが料理の手を止めて顔を上げる。

 二人は今、大切な料理の仕込みの真っ最中なのだ。


「分かった。お前らの狙いは、コレだな」


 妖精たちの目的を察したアーロが掲げるのは、 水筒程度の大きさのガラス瓶だ。中身は煌くような琥珀色の液体で満たされている。

 そう、森林世界から土産としてアーロが持ち込んだ、《女王蜂の涙》と呼ばれる極上の蜂蜜である。

 異世界からの帰還時に食物として検疫を通していたものがやっと返却されたのだ。 

 それを眼にした瞬間、妖精三匹組は眼をまん丸にして驚愕する。


「その色、やっぱり──激ウマ蜜!」

「ふつうの蜂が溜め込む蜂蜜、甘ウマ蜜と比べても段違いの甘さなの!」

「超貴重な激ウマ蜜が、どうしてここに!」

「いやお前らその名前なんとかならんのか」

「違いが伝わりにくいよ……」


 いまいち違いが分かりづらい名称だが、異世界の不思議生物である妖精たちのセンスなのだろう。

 とにかく、《女王蜂の涙》は妖精たちが一目見て、さらに瓶から漏れ出す甘い匂いだけでもその旨さが分かる逸品であるということだ。


「ねぇ。何してるの? 何に使うの? ねぇねぇ」

「何か作ったら味見するの! 任せるの!」

「蜂蜜の方もちょっとだけ……。ひとペロだけでも!」


 妖精たちは興味津々といった様子でアーロとルナの周囲を飛び回り、何を作るのかと手元を覗き込んでは構いだした。

 それをうっとおしそうに手で払い、しっしっと追い散らすアーロ。


「ええい。手元が見えん。邪魔だ」

「みんなで食べるように料理に使うから、おとなしく待ってて」

「まじで! 料理すんの!」


 なんと、仕込みを行っているアーロとルナの親子は《女王蜂の涙》──激ウマ蜜──を独り占めしたりせず、皆で分け与えて食すのだという。

 しかもルナの料理の腕前は知っている。あの甘い激ウマ蜜がどんな料理に変わるのか、妖精たちは期待に胸が膨らんだ。


「ひゃっほう!」

「楽しみなの!」

「待ちきれないな!」


 妖精三匹組はるんるん気分で料理をする様子を眺めている。

 アーロとルナは構っていられないと仕込みを再開する。何しろアマデウス救済院の全員に行き渡るような料理を作るのだ。数は多くてんやわんやだ。


「また後でな」

「みんなのおやつか、夕ご飯には間に合わせないと……。あ、お洗濯の取り込みしてくれると嬉しいな」

「やるやる!」

「まっかせてなの!」

「掃除も草むしりもやってくる!」


 ルナがぽつりとつぶやいた言葉に反応し、ぴゅーっと元気よく飛び立っていく妖精たち。

 労働は貴いのだ。それに、働かざる者食うべからずである。


「やるな」

「でしょ?」


 料理の邪魔をしそうな妖精たちを引き離し、さらに仕事の手伝いまで任せてしまった愛娘。

 アーロが妖精の扱いがうまいルナを褒めれば、彼女は器用にウインクを返した。




 アーロとルナの共同作業による料理の仕込みはつつがなく終わり、アマデウス救済院の夕飯とデザートとして《女王蜂の涙》を使用した料理が提供された。


 生地に《女王蜂の涙》を練り込んだ、ほんのりと甘みのある蜂蜜パン。

 こちらも同じくパイ生地に蜂蜜を練り込み、さらに蜂蜜漬けにしたリンゴを使用し、焼きあがった上から贅沢に《女王蜂の涙》を垂らしたアップルパイ。

 焼いた鶏もも肉に粒マスタードと《女王蜂の涙》を振りかけたハニーマスタードチキン。

 《女王蜂の涙》が魚の臭みを抑え甘い香りを加える、ぶりの蜂蜜照り焼き。

 生姜と牛乳に《女王蜂の涙》を加えて混ぜ込んだ蜂蜜ジンジャープリン。


 さらに子供たちにはホットミルクへ蜂蜜を加えた蜂蜜ミルク。

 シスターやトマス、アーロなどの大人には蜂蜜コーヒーが用意された。


 お祝い事のような多彩な種類の料理が並ぶが、これはせっかく旨い蜂蜜を使うなら、と興が乗ったアーロが材料を自腹で買い足していたためだ。

 どれもが甘みとしてだけの蜂蜜の使用ではない。肉を柔らかくしたり、魚の臭みを抑えたりといろいろな使い方がある。子供から大人まで。さらに夕飯からデザートまで対応した、ルナの自信作である。


 孤児院の子供たちは大喜びで口に料理を詰め込み、その様子をたしなめながらも嬉しそうに眺める大人たち。

 誰もが経験したことのない《女王蜂の涙》の甘みとうまみに頬を綻ばせ、料理の出来栄えに舌鼓を打った。


「おいしー! 激ウマ!」

「とろけるのー!」

「美味しくて涙が止まらない……」


 妖精たちも滅多に口にできない激ウマ蜜をふんだんに使った料理に大喜びだ。

 その小さな体に似合わず一体どこに入るのかというほどの量を詰め込み、大満足であった。


「蜂蜜の味がこんなに多彩だとは……。ルナ君の料理の腕前はやはりすごいですよ。今日は良い日ですねぇ」

「えへへ。それほどでも」

「いやほんと。俺はほとんど下ごしらえや火の番してただけですからね」


 食後に司祭トマスが蜂蜜コーヒーを片手にお褒めの言葉を漏らせば、ルナは照れ、アーロは胸を張って同意した。


「森林世界には蜂蜜だけじゃなく、他にもうまいものがありますよ」

「ふむ。異世界と繋がるということは、素敵なことですねぇ」

「えぇ。まぁ。あんなのもいますけどね」


 あんなの、とアーロが視線を巡らすのは、パンパンに膨れた腹を撫でながら喋る妖精三匹組だ。


「……よいではないですか。天真爛漫でまるで子供のよう。彼女たちは見ていて飽きませんよ」

「……司祭の心が広くて良かったですよ」



『お腹いっぱい夢いっぱい! それが私たち──妖精旅団!』

「げふぅ!」

「はちきれるのー! や、やばいの」

「もう食べられない……」


 一応、いつもの名乗りを上げるが、お腹いっぱいなため即座にごろりとテーブルに横になる妖精三匹組。

 それをアーロやトマス、ルナは生暖かい眼で見つめていた。


 妖精旅団は今日も異世界を満喫中である。

<甘い食事会>イベントが発生しました

 アマデウス救済院の全員の神格が1上がります。

 ルナの好感度が2上がります。

 ※ルナの好感度が上限に達しました。これ以上は上がりません。



登場人物紹介


アーロ・アマデウス 25歳

 裁縫スキル ランクF

 料理スキル ランクB


ルナ・アマデウス 15歳

 裁縫スキル ランクA

 料理スキル ランクA


妖精三匹組

 リリ、ララ、ルルの三匹。

 異世界生活を満喫中。

 外の世界は怖くて危ないため、教会の敷地から妖精だけでは出ていない。

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これからも更新頑張ります。

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