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銀河帝国の悪役令嬢、追放先で開拓する〜イケメンを集めたら逆ハーレムが被害者の会になりましたわ〜  作者: 一場令衣
第四章 領主エレオノーラ、爆進ですわ!

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1 王子様は移民ですの!?

「や」


 玉京(ユージン)星朝第六王子、洛宵(ルオ・シャオ)は片手を上げた。


(や、じゃありませんわ!!)


 エレオノーラは、扇を握る指に力を込めた。


 こちらは正装である。

 背筋も伸ばした。公爵令嬢として、他国の王族を迎えるにふさわしい笑みも用意した。


 相手の挨拶は、一文字だった。


「ようこそ、ノイエルデへお越しくださいました。ルオ・シャオ殿下」


 カーテシーで礼を取る。


「いやぁ、まさかこんな下っ端王族まで知ってはるとは思いませんでしたわ」


 濃紺の長髪を揺らし、シャオが笑う。

 細いキツネ目の奥で、橙色の瞳がこちらを見ていた。


「存じ上げておりますとも」


 百二十連した。


 知っているどころではない。

 前世の財布の仇である。


「どうぞ、おかけくださいませ」


 シャオは気軽に椅子を引いた。


 エレオノーラも腰を下ろす。

 背後にはセバスティアン。シュミットは申請書類を確認している。


 さて。

 聞くことは多いが、まずはこれだ。


「なぜ、第六王子ともあろう方が、一般移民枠にいらっしゃいますの?」

「移住希望やから?」

「疑問形で返さないでくださいまし!」


 用意した笑顔が、早くも仕事を放棄しかけた。


 シャオは首を傾げる。


「移住希望の者が、移住希望者の面談に来た。何かおかしなとこあります?」

「身分ですわ」

「王子やから移住したらあかん法律でもあるん?」


 エレオノーラはセバスティアンを見た。


 セバスティアンは、静かに書類へ目を落とした。


「まずは申請内容の確認からいたしましょう」



 ─────



 書類は、完璧だった。


 必要事項は記入済み。

 添付資料も揃っている。

 日付も署名も、抜けがない。


 厳格化された審査を通っただけのことはある。


 ただし。


「身分欄について、補足をお願いいたします」


 シュミットが一箇所を示した。


 シャオは覗き込む。


「ああ、そこ」

「はい」

「嘘は書いてへんよ」


「十分な説明もございませんね」


 セバスティアンが補った。


 シャオはにこりとした。


「詳しく書いたら、長うなるやろ?」


(長くしてくださいまし!)


 名前を書けば済むようなところで、なぜ手間を惜しむのか。


「殿下のお立場は、移住審査に関わる重要事項ですわ」

「せやから、こうして本人が説明に来てますやん」


 腹が立つほど、もっともらしい。


 エレオノーラが次の質問をする前に、シャオは自然な調子で続けた。


「最近、ユージンからこちらへ移りたい者が増えてましてなあ」

「……ええ」

「住むところや仕事のことも、皆いろいろ気にしてますねん」


 話の主語が、いつの間にか一人から大勢へ変わっていた。


 エレオノーラは、先ほどまでの面談を思い出した。


 黒髪。

 黒髪。

 また黒髪。


 ユージン系の移住希望者が続いたので、そういう日なのかと思っていた。


「まさか、先ほどの皆様……」

「うちの人らやね」

「先に言いなさいまし!!」


 シャオは、たいへん穏やかに頷いた。


「今、言いました」

「順番ですわ!」



 ─────



(この方、絶対まともに信用してはいけないタイプですわ)


 エレオノーラは扇を口元へ添えた。


 原作『ホリスタ』でも、ルオ・シャオは食わせ物だった。


 ユージン星朝イベントストーリー。『春宵(しゅんしょう)の雑興』。


 星乙女アンナが訪れたとき不可解な事件に巻き込まれる。


 明らかに裏切りそうな顔で星乙女(プレイヤー)に近づいてくる。

 実際、裏切ったように動く。


 ほら見なさい、狐目は裏切るんですわ、と思ったところで、さらに真の悪役が見つかって話がひっくり返る。

 炙り出すために星乙女を利用した。

 最初から全部、ルオ・シャオの思惑どおりでした。


 そういう話だった。


 だが、詳しいキャラクターストーリーまでは知らない。


 引けなかったからだ。


 あの時泣く泣くガチャを諦める羽目になったキャラが、今は自分で移民申請書を書いて座っている。


(あの百二十連、何でしたの……)


 いや、喜んでいる場合ではない。


 金枠。

 欲しかった男だ。


 しかし、領地へ来た理由が「移住希望やから?」では困る。


「改めて伺いますわ。なぜこんな辺境へ?」

「面白そうやったから」

「帰ってくださいまし」

「いやや」


 早かった。


 セバスティアンが紅茶を置いた。


「お嬢様」

「分かっておりますわ」


 外交である。

 いまのは、少々早すぎた。


 シャオは紅茶をひと口飲んだ。



 ─────



「できれば、ユージンの者がまとまって住める街もつくれたらと思いましてなあ。どうです?」


 エレオノーラは、扇を少し下げた。


「街ですの?」

「街区をひとつ、用意していただけたら」

「……あなた、お一人の移住のお話ではございませんでしたの?」


 シャオは、窓の外へ目を向けた。


 エレオノーラも、つられて見る。


 軌道上に並ぶ船。

 その船腹に、逆さの「福」が見えた。


 一隻。

 その奥にも一隻。


 さらに向こうにも、同じ印。


 エレオノーラは窓へ顔を近づけた。


「……何隻でいらっしゃいましたの?」

「さて。数えたことあらへんなあ」

「数えてから移民してくださいましーーーー!!」


 シュミットの手元で、確認する資料が増えた。


 シャオは椅子に座ったまま、楽しそうに眺めている。


 ユージンから移住希望者が増えているのを知っている。

 先ほどの面談者も知っている。

 皆が何を気にしているかも知っている。


 そのうえで、街を一つ欲しいと言う。


 これを、ただの一応募者として扱えと?


「あなた、最初から全部知ってて面談に来ましたわね!?」

「せやから来たんやけど?」


 シャオは、不思議そうに瞬きをした。


 エレオノーラは目を伏せた。



 ─────



「では、街区をひとつ、ということで」


 シャオが話を戻した。


 エレオノーラは椅子へ座り直す。


「構いませんわよ」

「……えらい即答ですな」

「人手が足りませんもの」


 今度はシャオが止まった。


 エレオノーラは、机の上の書類を指先で揃えた。


「住民が増えるのは歓迎いたしますわ。街をつくること自体に異論はございません」

「ほう」

「ただし」


「わたくしの領地に、勝手に他国をつくられては困りますわよ?」

 扇をぱちりと開く。


 エレオノーラの緑色の瞳が細くなる。


 シャオはすぐに笑顔へ戻った。


「いややなあ。そない怖い顔せんでも。街を一つお願いしただけですやん」


 セバスティアンが、土地制度の資料を差し出した。


 エレオノーラは、それをシャオの前へ置く。


「土地を差し上げるわけではございませんわ。正式な入植手続きを行い、百年間居住していただいた場合に、永久所有を認めます」

「ユージンの者も?」

「同じですわ」

「王族相手でも?」

「王族だから何ですの?」


 シャオの指が、カップの取っ手で止まった。

 エレオノーラは笑った。

 今度の笑顔はよく働いた。


「ユージンの法や習慣も、ある程度は認めてもらえます?」


 シャオは資料を眺めながら尋ねた。


「料理も服装も祭りも、お好きになさればよろしくってよ」

「それはありがたい」

「ですが、犯罪と税金については、ノイエルデの法律に従っていただきますわ」

「治外法権は?」

「ございませんわ、わたくしの領地ですもの」


「宗教は?」


 シャオはカップを置いた。


「信仰もご自由に。我が国は星神教を国教としておりますので、神殿をお建てになるなら申請書をいただきますわ」


「ふむ」


 エレオノーラは、シャオの前にもう一枚、資料を重ねる。


「それから、移民だけ送ってこられても困りますの」

「ほう?」


 今度は、街区の整備と行政についてだった。


「街をつくるのでしたら、街を回せる方々も一緒に連れてきてくださいまし」

「回せる方々」

「行政経験者。財務担当。人材管理のできる方。住民からの申請を受け、処理できる方ですわ」


「街区をご希望なら、そちらもご用意いただけますわよね?」

「……お嬢さん、思うてたより商売上手ですなあ」

「商売ではございませんわ。人手が足りないと申し上げたとおりですわ」


 シャオは、目の前に積まれた資料を見た。


 最初はこちらの移住申請書だった。

 今は、人員の調達について相談されている。


 エレオノーラは、にっこりと微笑んだ。


 シャオも、にっこりと微笑んだ。


 しばらく、二人で笑い合った。


 友好的な光景だった。


(こいつ、何考えてますの!?)


 玉京(ユージン)出身、洛宵(ルオ・シャオ)です。

 宵のままだと「よい」と読んでしまうと思うのでカタカナ表記で行きます。 


 最後まで読んでくださりありがとうございます。


「皆さま、ご照覧あれ! 画面の下にある【☆☆☆☆☆】評価(※星のエネルギー)と【ブックマーク】は、我が惑星を開拓するための貴重なエネルギー資源ですわ!」


「……ええ、維持費もガチャ代もシャレになりませんので、何卒ポチッとよろしくてよ!」


 お嬢様への応援、皆さまからのご感想を感想欄にてお待ちしておりますわー!

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