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これは英雄譚ではない-星暦戦争従軍記-  作者: フルストス
惑星リュートス上陸作戦
6/6

全機発進せよ

本話から上陸作戦始まります

《第1次上陸部隊が橋頭堡の確保に失敗。第2波上陸部隊、上陸準備を開始せよ》


その放送と共に、通路の明かりが赤くなり、点滅する。

つい先程まで談笑していた兵士たちはすぐに行動に移った。


「クソが!あいつら何上陸失敗してんだよ!」

「そんなこと言ったってしょうがないだろ」


2人で走って部屋に着いた頃にはすでに自分とマーセル以外の分隊員が集まっていた。


「おい遅いぞ」

「とっとと降下艇のある区画に行くぞ」


すでに全員装備を身につけており、待機している。


「悪い、すぐに用意する!」


そう言って自分の装備ロッカーを開け、コートを着た後にヘルメット、手袋を装着する。

続いて、ベルトに短剣をつけ、ベレジュをホルスターにしまう。

そして最後に弾帯をベルトに装着し、カレシナロフの紐を肩にかける。


用意が終わった俺は振り返り、分隊員の方を向く。


どうやらマーセルもほぼ同タイミングで用意を終えたようで、分隊長に向けて同時に敬礼し、口を開く。


「「用意完了しました、いつでも出撃できます」」


それを聞いた分隊長は頷き、すぐに行動に移す。


「すぐに2階に向かうぞ、大隊に合流する」


そう言って部屋を出て移動を始める。

それに自分達も着いていく。


艦内はとても慌ただしくなっていた。

皆、1週間以内には上陸が始まることは聞いていたものの、いざ上陸が始まるとなると話は別だった。


先程まで賑やかだった艦内は一変し、廊下は兵士で埋め尽くされている。

騒がしいことには変わりなものの、数日前とは違ってどこか重々しい空気に包まれていた。

いつもなら聞こえてくる笑い声は聞こえてこない。


「……」


マーセルも珍しく静かだった。

流石のマーセルでもこの場の空気に飲まれているようで、いつものようにふざけることはしなかった。


階段まで辿り着くと分隊長が歩きながら話始める。


「俺たち185大隊が乗るのは2階の第3区画にある100〜112番の降下艇に搭乗予定だ」

「降下艇のハッチは開いている状態ですぐにでも搭乗できる」

「到着次第すぐに搭乗を始めるぞ」


分隊長は搭乗時に関する説明を続けていく。


そんなことを説明しているうちに階段を降りて2階に到着した。


「ここは第3区画だ!別の区画のやつはここから入るな!」


「通路で止まんな邪魔だ!ぼさっとしてないでとっとと進め!」


誘導員たちが怒鳴り声をあげながら兵士たちを誘導している。


俺たちは誘導員に従い、そのゲートから第3区画に入る。

ゲートを潜り抜けると巨大な格納庫へと辿り着いた。


「うお……」


思わず声が漏れる。

そこには無数の降下艇が並んでいた。

複数列のレールに乗せられた降下艇がはるか奥にまで続いている。


その光景だけでこの艦がどれほど大きいか理解させられる。


「すげえな」


ヘルーガが隣で呟く。


「これ全部降りるのか?」


「まあそうだろうな」


この無数の降下艇に1個師団が乗り込み、一斉に降下する。

凄まじさが容易に想像できる。


格納庫の各所では次々と降下艇へ兵士たちが乗り込んでいる。


エンジン音、警報音、怒号…


ありとあらゆる音が混ざり合い巨大な空間を震わせていた。


「俺たちはあれに乗るぞ」


分隊長は迷いなく進んでいき、100番機の前で立ち止まる。

そこで初めて振り返り、目が合った。


「なんだお前ら緊張してるのか?俺が分隊長で良かったなお前ら」


少し貯めて分隊長がドヤり気味の顔で言い放つ。


「窓の近くの座席が空いている降下艇を選んでやったぞ!」


騒がしい格納庫の中で分隊員たちの中には沈黙が広がる。


「いや…ええ…」


流石のマーセルも呆れていて、言葉が出ないようだった。


分隊長は罰が悪そうに視線を逸らす。

少し考えるそぶりを見せたのちに、ため息をついて話し始める。


「ったく…せっかくお前らが緊張してると思って冗談言ったのに…せめて俺の気遣いぐらい拾ってくれよ!」


「あ、流石にまじで言ってる訳じゃなかったんすね」


レグヌスがポロりと言葉を漏らすと、先程まで静かだったマーセルが笑いを堪えきれず、吹き出した。


「いやーもし本気で言ってたなら分隊長の頭がおかしくなったと思って頭叩くところでしたよw」


マーセルの一言の後に分隊長の眉がピクッとしたのが見えた。


あ、マーセルのやつ終わったな。


分隊長はマーセルに深呼吸し、マーセルに指を刺しながら言う。


「おいマーセル…いやお前ら上陸して橋頭堡確保が完了したら覚えておけよ」


それを聞いたマーセルの顔が少し強張る。

だが、すぐに顔を引き締め、敬礼を向ける。


「は!橋頭堡の確保が完了したら全員でお叱りを謹んで受けます!」


分隊長はそれを聞いて満足そうに頷き、降下艇に搭乗する。

マーセル、ヘルーガ、ユルゲン、そして俺と続いて搭乗した。


降下艇の中は案外広く、天井は低いものの、50人弱が座れるほどの座席が敷き詰められていた。


《奥から詰めてお座りください》


「うおびっくりした」


降下艇に搭乗したら急に機械音声が鳴り響いた。


「へいへいりょうかーい」


マーセルは緩い返事をかえし、ヘルーガの隣に座り、シートベルトを閉める。

自分も隣に座り、シートベルトを閉める。

背後に窓がある席だった。


先ほどから自分の息と心音がうるさいほど体の中で響く。

試しにあくびをしてみるものの、心音はうるさく鳴り響き続ける。

少し時間が経つと、続々と兵士が乗ってきた。


俺の隣にはまだ80代ほどの若い青年の兵士が座った。

その手は震えており、シートベルトを閉める手もうまく動かないようだった。

シートベルトをなんとか閉めた青年は震える手で懐からキーホルダーのようなものを取り出し、しっかり握り締め、ぶつぶつと何か言いながら祈り始めた。


「…ください。…の神よ、どうか私をお守りください」


どうやらその青年は銀河規模で信仰されている「ベルナデスの夜」という宗教の信徒のようだった。


共和国の兵士も信仰している神に祈って意味があるもんなのかねぇ…

…てことは向こうの敵も同じ神を祈ってるってことか。

神様ってのはどっちの味方をするのだろうか?


そんなどうでもいいことを考えたが相変わらず落ち着かない。


突如、降下艇内部に赤い警告灯が点灯した。


《全ての座席への着席を確認。搭乗規定人数に達したため、本機はこれより発信準備に入ります》


プシューと言う音と共に降下艇後部の扉が閉まる。


《エンジン出力問題なし。ノズル開閉支障なし。姿勢制御スラスター動作支障なし。これより降下プログラムを起動します》


《降下プログラムを起動中…起動完了》

《降下艇100番機発射用意完了…管制室に発射用意完了の通達を送信…送信完了》

《全機発射用意完了まで待機状態に移行します》


降下艇内は重苦しい空気で包まれている。

息がしづらく、体を動かしていないのに息切れしているかのような感覚に陥る。


《全降下艇の搭乗が完了しました》


機械音声のアナウンスと共に艦内放送が始まる。


《本艦、サトルクス級センル-1002の全ての降下艇で兵士の搭乗が完了した。また、第3波共和国侵攻部隊総司令官の作戦開始命令が通達されたため。降下艇を順次発進させる》

《第12管区第18師団の諸君、本作戦を成功させ、本艦に帰還するのを私は待っている》

《諸君の健闘を祈る!》


それを聞いた兵士たち全員が立つことはできないが、体を放送機の方へ向け、敬礼をする。


「は!」


《降下艇全機発進せよ!》


直後、巨大なブザー音と共にエンジンが稼働する。


放送が終わると、再び機械音声によるアナウンスが始まる。


《エンジン点火。発進準備完了》

《発進まで30秒》


アナウンスが始まるとともに降下艇がふわりと浮かぶ。

窓から外を見てみると隣の列の降下艇もレールの上で少し浮いていた。


《発進まで20秒》


揺れはさらに激しくなっていく。


《発進まで10秒》


息を思いっきり吸って息を止める。


《発進まで5、4、3、2、1…電磁ロック解除。降下艇100番機、発進します》


直後、凄まじい加速が入り、体が置いてかれるような感覚に陥るほどの速度で加速する。

浮いているため揺れはそこまで激しくないものの、体を動かせないほどのGがかかる。

窓から外を見ることはできないものの、窓から映り込む赤色灯が右から左へと通り過ぎていく。


《サトルクス級センル-1002からの発艦完了。降下プログラム起動》


窓から入り込む光が赤から青へと変わる。

体が加速のGに追いつき、余裕が出たタイミングで外を見ると凄まじい光景が一面に広がっていた。


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