38.泡になって消えてしまいたい(リチャード王太子殿下)
弟のイーサンから、セルヴィア嬢とイーサンの秘密を聞いた翌日に、セルヴィア嬢が心配で中等科にやって来た。
僕がセルヴィア嬢に会いに中等科に来るのはいつものことで、セルヴィア嬢がどこにいるのか令嬢に聞くと黄色い悲鳴が後から響くのもいつものことだ。
令嬢や令息に聞きながらセルヴィア嬢を探して、4階の空き教室に彼女はいた。
1人でいるだなんて滅多に無いことで、驚いたけど、その次の瞬間に息が止まりそうになった。
彼女がおもむろに窓の方に歩いて行ったと思ったら、飛び降りようとしたのだ。
咄嗟に彼女を横に突き飛ばして
「何バカな事をやってるんだ!」
と叫んだ。
もしも僕が来なくて、そのまま飛び降りていたらと思うと、ゾッとする。。
セルヴィア嬢は驚いた顔をした後に
「わたし…、わたし…何バカな事を。。」
と言いながら、ガタガタ震えて泣き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
と言いながら泣く彼女を思わず抱きしめると、彼女も僕の事を抱きしめて、彼女が生きてくれている事に安堵した。
彼女の体は想像以上に華奢で、壊れものを扱うように優しく抱きしめた。
彼女は本当に思い悩んでいるのだ、死のうとしてしまうほど。
そして、彼女をそこまで悩ませているのは、僕たち3人の王子だ。
僕はどうすればいいのだろう。
彼女が落ち着くように、できるだけ優しく
「大丈夫、大丈夫だから。生きていてくれて、ありがとう。僕こそ、君を追い詰めてしまった。ごめんね。」
と抱きしめながら、声をかけた。
「いいえ、いいえ、リチャード王太子殿下は何も悪くありません。」
彼女の涙は初めて見たが、泣いている姿すら美しい。
彼女は小さな声で「このまま泡になって消えてしまいたい」と呟いた。
僕は彼女が消えないように華奢な体を強く抱きしめながら、「何でもするから、頼むから死なないでくれ。」と懇願した。
少しセルヴィア嬢が落ち着いて来たところで体を離して目を見て
「セルヴィア嬢の悩んでいる事を僕に全部話してくれないか?」
と聞いた。
セルヴィア嬢はやはり、クリストファー王太子のことが恋人、婚約者として好きなのに、僕とイーサンに対しても友人とは違う好意を抱いてしまったことに悩んでいた。
僕とイーサンと一緒にいると、クリストファー王太子と会えない寂しさが無くなった。
6年間ずっとクリストファー王太子に会えない寂しさを僕とイーサンで埋めていたら、気づかない間に2人を好きになっていた。
結婚まで1年だと思った時に、喜びよりも2人に会えない寂しさの方が大きくて、自分の恋心に気づいた。
許されない恋だから誰にも気づかれてはいけないと思い、必死に隠した。
でも、1番気づかれたく無いクリストファー王太子に自分の気持ちに気づかれてしまい、他の人にも自分の気持ちがバレてしまうのではと思った。
その結果僕とイーサン殿下を避け、イーサンにも自分の気持ちが知られてしまい、イーサンとはキスまでしてしまった。
もうどうしたらいいのかも分からず、気づいたら僕に突き飛ばされて、自分が4階から飛び降りようとしていた事に驚いたようだ。
最後にセルヴィア嬢は緊張した面持ちで
「私の事を軽蔑しますか?」
と聞いてきたが、
「軽蔑なんてするはずがない。今まで1人きりで辛かったね。よく頑張ったよ。だから、今は気が済むまで泣いてごらん。僕は何があろうとセルヴィア嬢の味方だよ。」
と答えると、セルヴィア嬢が僕に抱きついてまた泣き始めたので、優しく抱きしめながら寄り添った。
正直、今のセルヴィア嬢をこのまま返すのは本当に心配だが、こんな事が皆に知られてしまっては困る。
ひとまず、セルヴィア嬢の体調が悪いと言い、僕は王宮にセルヴィア嬢を連れ帰った。
心配でセルヴィア嬢の側を離れないでいたら、悩みすぎてずっと眠れていなかったのか眠そうにしたので、王宮のベッドで休ませることにした。
すぐに彼女はすやすやと眠り、それでも僕は心配で彼女の側を離れられなかった。
彼女の寝顔は初めてで、想像以上に可愛らしかった。
もう二度と寝顔を見ることはできないだろうと思いながら眺めていた。
きっとクリストファー王太子ですら見た事が無いだろう。
ふと、彼女を抱き締めた時の感覚が蘇り、彼女を抱き締められたことに喜びを感じている自分に自嘲した。
流石に何も無いように侍女を1人側において彼女の寝顔を眺めていると、焦った様子のイーサンが帰ってきた。




