6. 満月の約束
「なあ剣城亜麻音」
「あ゛?」
優莉の眼が再度ギラりと光る。
(こいつ、マジで嫌な予感する)
亜麻音は咄嗟に身構える。
優莉はゆっくりと腕を広げ、こちらをしっかりと見据える。
「君、仲間になんねえか?」
「あ゛?」
(おっと思った以上にガラわりぃ声出た)
「なんで私が龍神の仲間になんねぇといけないんだ?」
「だって君強いし…」
優莉は漆黒に染まる夜空を見上げる。
「寂しそうだし」
「はっ!?」
(私が寂しそうだと…?)
亜麻音の心の声が届いたのか優莉は目線を下ろすと亜麻音をじっくりと見つめる。
「君の戦い方は一人用だ。他人を生かす戦い方じゃない。誰よりも自分が先に飛び出して相手を叩きのめすための戦い方。君はたぶん、誰とも協力して戦うということをしてこなかったんじゃないか?」
「なっ…」
亜麻音は目を見開く。
(確かに私はこれまで仲間と一緒に戦ったことはないかもしれない)
亜麻音は優莉の瞳を見つめる。
嘘はついていない。透き通るような純粋な瞳だ。…左目は。
眼帯で隠されている右目には何とも言えぬような禍々しいオーラが立ち込めている。
(こいつを信じていいのか…?)
亜麻音は心は疑いの気持ちで揺さぶられる。
(こいつと組んだとして、もし里を壊滅させろとか言われればどうしようもない…)
「なにか言いたいことがあるなら言えばいいんじゃないか?」
後ろから伊達彩葉が言ってくる。
それを聞いて意を決した亜麻音はすっと立ち上がり、優莉を見下ろす。
「なぁ龍神。私が君と組んで何かメリットがあるのか?もしや里を襲えとは言わんだろうな?そうなれば私は従わぬ。確かに私は仲間と共に戦ったことはない。だがそれは、里のみんなを守るためであって…」
続く言葉を優莉はさえぎった。
「お前、仲間を信じたらどうだ?」
「は…?」
もう一度優莉は亜麻音をまっすぐ見据える。
「お前、里のみんなを守るために誰とも一緒に戦ってこなかったって…みんなのこと信じてなかったんじゃないの?もしかしたらみんな、君に守られなくても生きていけるような強い人たちかもよ」
「…っ!?」
(私に守られなくても…)
ふと亜麻音の脳内で鮮やかに記憶がよみがえる。
『亜麻音つっえぇ!』
長い角を2本持つ幼い男の子が体中に傷を負いながら笑っている。
『いや、そんなこと…ない』
同じく長い角を2本持つ女子は幼少期の亜麻音だろうか。
右手に剣を持ち、左手に魔物の牙を握っている。
『何言ってんだよ!俺がてこずってた血蝕猪を一撃で仕留めてたじゃん!凄いよ!』
すると近くの民家から剣を持った二人の親父が出てきた。
『おーい!君たち大丈夫か!?ブラッドボアが近くに出たらしいが』
それを聞いた男の子が大きな声で言う。
『そのブラックボアさ、亜麻音がぶっ潰してくれたんよ!しかも一撃で!!』
『そうなのか!?ケガはないか…?亜麻音なら剣鬼の女王になれるかもな!がっはっは!』
誇らしそうに笑う親父を尻目に、亜麻音は遠くを見つめる。
『なれたらいいのになぁ』
男の子_____後の剣城霧柳はその言葉を聞き逃さなかった。
『亜麻音姉ちゃんならなれるよ!俺もそんときには、亜麻音に守ってもらわなくても大丈夫なくらい強くなるからさ!で、絶対俺も剣鬼の王になるんだ!!』
そんな弟を見て亜麻音はふっと優しく微笑む。
『そうか。じゃあ待ってるよ霧柳。君が強くなっていつか一緒に魔物を狩れる日をな』
『あぁ!!』
(ははっ…。なんで私は今まで)
「今まで忘れていたんだろうなぁ」
亜麻音の口元がふっと緩む。あの頃と同じように笑ってみる。
「そうか、霧柳。あいつ、私と一緒に戦いたかったのかなぁ」
そう言うと、亜麻音は優莉たち三人に振り返る。
「なあ君たち、旅の前に弟に会いに行っていいか?」
「ってことは」
花音が声を漏らす。
「あぁ君たちについて行ってやる」
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「姉さん、そうですか。行かれるんですねついに」
優莉たち一行は亜麻音の案内で現在の剣鬼王である剣城霧柳に会いに行った。
「あぁ私もこいつらから新しく学ばねばならぬことがありそうだからな」
霧柳は小さくため息をつき、亜麻音をしっかり見つめる。
「姉さん、無理はなさらないでくださいね?里のみんなに心配をかけてはいけないですから」
「それはわかっている」
そう言うと亜麻音は席から立つ。
「もう行かれるのですか?」
霧柳が少し寂しそうに聞く。
「仕方あるまい。我々剣鬼は300年生きるが、人間どもは100年も生きられねえんだ。本当に手が焼けるよ」
亜麻音はあの頃のように微笑む。
「そうですか、ではくれぐれも気を付けて」
霧柳も少し安心したように微笑む。
亜麻音は霧柳に背を向けて歩き出す。
「霧柳」
「はい」
「里のみんなを信じろ」
「はい」
「みんなで戦え」
「わかりました」
「もしかしたら私たちが次会う時はないかもしれない」
「…」
一瞬の間沈黙が流れる。
「だから霧柳」
「幸せに生きろ」
「…っ!?」
亜麻音は部屋から立ち去ろうとする。
「姉さん!!」
その背中に霧柳は力一杯呼びかける。
亜麻音はその場で立ち止まる。
「姉さんも」
「幸せに生きてください…」
一瞬の間。
「っあったりめえだろ…」
涙声で言い返す。
亜麻音はそのまま扉に手をかけ、部屋から小走りで出ていった。
「姉さん」
霧柳は窓から外を見下ろす。
その先には今しがた出ていった姉が人間と合流して森の方へ歩き出すのが見えた。
「…俺も強くなったよ」
満月の夜、月明かりに照らされて剣鬼の姉弟の瞳から熱いものが美しく零れ落ちた。
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