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第二章 第十七話  笑う勇気

そこにいたのは、誰?


では、どうぞ。

 石になったはなのお父さんお母さんです。

 もうふたりいたのですが、吹きとばされてきたももとがぶともんもとほろろにぶつかって、確認はできませんでした。


「いてて」


 ふたりは起きあがって、もう一度確認しました。

 そこには、腰を抜かして座りこんでふるえているはなと、髪の毛がへびになっている女のひとがいました。

 はなは泣いていて、へび女はわらっています。

 へび女がはなに一歩、一歩と近づいていきます。


「やめろ」


 ももは勇敢にもたちむかっていきました。

 がぶともんもとほろろもつづきます。


「じゃまをするな!」


 へび女のあたまでうようよしているたくさんのへびが、四人にむかってすごい速さでのびていきました。

 よける間もなく、四人は首を、腕を、足を、おなかをかまれてしまいました。

 かまれたところから、パキパキと気持ちの悪い音をたてて見る見るうちに石になってしまったのです。


「はな、にげろ」


 それがかんぜんに石になる前にももがいった言葉でした。

 はなは腰が抜けているようで、四つんばいでもたもたと歩くのがせいいっぱいです。

 そのはなの背後から、へび女は近づいていきます。

 ふりかえったはなは、にげることがかなわないと、へたりこんで泣いています。

 そしていいました。


「助けて」

「いやだね」


 へび女ははなに、するどい爪をふりかざしておそいかかりました。

 語り部さまも神通力で助けようとしましたが、間にあいませんでした。


 やられた、ときゅうびは思いました。

 しかし、語り部さまの神通力より速く、たぬまるが間にはいってへび女の爪からはなを守ったのです。


「たぬまる」

「いいから早く語り部さまのところへいけ」


 ふるえる足をふんばらせて、はなは一生けんめいに走りました。


「にがすか」


 とあとをお追おうとするへび女とはなの間にたぬまるが立ちました。

 きゅうびもいそいでそばにいき、たぬまるとならんで立ちました。

 そしていいました。


「ぼくたちがあいてだ」

「子どもがなまいきいうな」


 へび女の体全体がぴかっと光りました。

 夜のやみのなかでそれはとてもまぶしくて、ふたりは目をつむってしまいました。

 そのいっしゅん後で衝撃波がきて、きゅうびとたぬまるは吹きとばされました。

 まぶしい光と衝撃波の二段攻撃だったのです。


「いててて」

「あいつ強いな」


 たぬまるにいわれて、きゅうびはうなずきました。


「きゅうび、たぬまる、ここはわたしがなんとかします。助けを呼んできてください」

「そんなことをさせるわけがないじゃないか。もしもそんなことをしたら、石になったこいつらをこわしちゃうよ。そうしたら二度と助からないよ」

「ひきょうもの」

 とたまらずにきゅうびがいいました。

「ああ、わたしはひきょうさ。ばけものだからね。ひっひっひっひ」


 たぬまるの強くにぎられたこぶしがぶるぶるとふるえているのをきゅうびは見ました。

 たぬまるが小声でいいました。


「きゅうび、ふたり同時にいこう」


 きゅうびは返事をするかわりにこくんとうなずきました。

 ふたりはぐっと腰を落とし、かまえます。

 そして、ふたり同時にさけびました。


「いくぞ!」


 きゅうびは右側に回りこみながら、たぬまるは左に回りこみながら、へび女との距離をつめていきました。攻撃のとどく距離まで近づくと、きゅうびはとびげりで頭を、たぬまるは身をかがめてひざを狙いました。

 ちがう角度からべつべつの場所への同時攻撃です。

 これをかわせるはずはありません。

 しかし、へび女はたぬまるのパンチを足ではらってよけて、きゅうびのけりは頭のへびにうけとめさせて、かわしてみせたのです。


「へびはへび女の意志とはかんけいなくうごけるんだね」

「そんなのありかよ」


 きゅうびもたぬまるもおどろきました。

 が、ただぼんやりと立っているわけにもいきません。

 いまはたたかいの真っ最中なのです。

 こんどはきゅうびがへび女の背後にまわりこんで腰に体当たりで、たぬまるが真正面に近づいて火の玉の術で攻撃しました。


 火の玉の術とは、たぬまるの手くらいの大きさの火の玉を敵にとばして攻撃する術なのです。

 これができるのは、ばんざいやまの学校ではいまのところたぬまるしかいません。


 へび女は、きゅうびのほうをむいて体当たりをうけとめ、火の玉は頭のへびたちをすごい速さでのばすことでかき消そうとしました。

 そしてかき消されてしまいました。

 へび女は思いました。

 

 うまくいったわい。


 でも、ほんとうにうまくいったのは、へび女ではなかったのです。

「きゅうび、たぬまる、よくやりました。さあ、はなれて」

 そういうと、語り部さまは「きえええええい」と気合をこめて、かなしばりの術をつかったのです。

 見事、かなしばりの術はへび女をとらえ、へび女は動けなくなりました。


「やった」

 ときゅうびがよろこびました。

「さすが語り部さまだ」

 とたぬまるが感心しました。

「ふう」

 と語り部さまは息をはきました。

 そしてつづけました。

「さあ、これからです。この者から、石になった者たちを元に戻す方法を聞きださねばなりません」


 そう、石になったお友だちが元に戻らなければ、勝ったとはいえないのです。

 さっきまでふるえていたはなは、へび女が動けなくなったとたんに強気になって


「お父さんとお母さんを元に戻しなさいよ」


 と動けなくなったへび女をけとばしました。

 けとばしたはなは、青くなりました。

 へび女の目玉が、ぎろり、と動いたのです。

 つぎの瞬間、へび女はがっしりとはなのうでをつかんではなをつかまえてしまったのです。

「ひっひっひっひ。わたしは本体のわたしと数十匹のへびでできてるんだ。かなしばりをかけたいのなら、数十人分のかなしばりをかけないとねえ」

「助けて。語り部さま」

「助けてほしいかい? なら、語り部、お前がこの子のかわりに石になるんだ。そうしたら、この子をはなしてやる」


 人質をとり、みがわりを要求し、ほんとうにはなすかどうかもわからない、このひきょうなへび女のいうことに、語り部さまはこう答えました。


「わかりました。そのかわり、わたしが完全に石になる前に、この子をはなしてやってくださいね」

「語り部さま」


 たぬまるは思わず声をあげました。

 語り部さまが石になるのを黙って見てなんていられません。

 語り部さまは美しい足どりでへび女の前にいきました。

 大きく口をあけたへびたちが、がぶり、がぶり、がぶり、と語り部さまにかみつきました。

 語り部さまは静かに目をとじ、へびたちにかみたいようにかませました。


「さあ、約束です。この子をはなしてあげてください」

「だあああれが約束なんて守るか。この子もお前と一緒に石にしてやる。見ていろ」


 へび女はとても楽しそうな顔して、はなを石にしようと、へびにかみつかせました。

 でも、へびがかみついたのははなではありませんでした。

 はなをかばってあいだにわってはいったたぬまるでした。


「なんだ、へび女。お前のへびも大したことないな。全然痛くないぞ。おとなの語り部さまは人質をとらなきゃ石にできないくらいの弱虫だから、子どものぼくを石にするのにも時間がかかるのか? それとも、ぼくが子どもだからてかげんしてくれてるのか? かわぞうやごんたを石にしたみたいに、ぼくのことも石にしてみろよ。できないのか? 弱虫毛虫の腰抜け女」

「なんだとおおおおおお!」


 へび女は顔を紫色にして怒りました。

 そして、頭のへび全部でたぬまるにかみつきました。

 でも、それがきゅうびとたぬまるの作戦だったのです。

 へび女はいま、たぬまるのほうをむいています。

 頭のへびも、全部がたぬまるを石にするためにたぬまるにかみついています。

 つまり、きゅうびに背中をむけているのです。


 たぬまるは笑いました。


「なにがおかしい!」

 怒っているへび女はますます怒りました。

「いちばんおいしいとこを、くれてやるぞ」


 不審に思ったへび女は、はっとしてふりかえりました。

 へび女が見たのは、しっぽが三本になったきゅうびが、いっぱいの力でへび女をなぐりつけるところでした。

 へび女は地面にめりこむんじゃないかといういきおいでその場にたおれこみ、そのままきぜつしました。

戦う動機が「人を守るため」。

かっこいいと思います。


では、また。

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