第33話 負の念
それから少ししてシュテル達は家に帰ることになった。帰りにミウの元に寄って帰ろうとルビーが言い出したが、今行くのは良くないとフィナムが言った。そのため、どこかに寄り道する訳でもなく真っ直ぐ家に帰った。
その間シュテル達は話しかけられることが多かった。しかも、そのほとんどが謝罪だ。なんせ、シュテルが勝つまでずっとシュテルのことを煽っていたのだ。シュテルが3帝王より強いと分かった以上、怒らせるのは危険だと判断したのだろう。
シュテル達はそんな大量の謝罪の言葉を受けながら何とか家に帰りついた。そして、扉の鍵を閉めてカーテンまで閉める。4人は外から見えないようにすると、ゆっくりとくつろぎ始めた。
「いやぁ、大変だったね」
「ホントそれな。どんだけビビってんだよって話」
「ハハハ……」
フィナムはシュテルの言葉を聞いて苦笑いをする。
「いや、笑い事じゃないよ。謝罪文まで書いて来た人がいたんだぜ。そこまでされたら逆に怒るだろ」
「確かし」
シュテルの言葉に今度はディープダークが頷いた。シュテルらため息を一つ吐くと、ルビーを手のひらの上に乗せて頭を撫でる。そして、顔をぷにぷにと押して鼻を押して豚みたいにする。
「ちょっ、や、やめてくらひゃいよ」
「え〜、俺疲れたんだよ〜。ホントアレだよ。こうやってルビーの体を弄くり回す方が楽しいよ」
「なんでですか!?もぅ!ドS鬼畜悪魔シュテル様!!!」
ルビーはシュテルの言葉を聞いて顔を真っ赤にさせながらプンプン怒る。そして、頬をふくらませてぷいっとそっぽを向いた。
シュテルはそんなルビーを見てニッコリ笑うと静かに立ち上がる。そして、指を押してメニュー欄を開くと、そこから飲み物を出してそれを飲んだ。
「……」
「……」
「……何もしないのですか……?」
「なにかして欲しかったのか?」
「うぅ……!し、して欲しい……でしゅ」
「フッ、俺がドSなだけじゃなくて、お前がドMなことも関係してるみたいだな」
シュテルはそんなことを言って不敵な笑みを浮かべた。
━━一方その頃ミウは……部屋に1人でこもっていた。自分の屋敷の自室の隅っこで体操座りをしている。
「……」
「ミウ……」
「そんなに自分を追い込む必要は無いぞ」
両親はミウにそう声をかけるが、ミウからの反応は無い。両親は今は声をかけるべきではないと考え、1度その場を離れた。
「……行っちゃった……」
ミウは小さな声で呟く。
(……勝てると思ってた。ビギナーだからって舐めてた。だって、私はこのゲームでかなり強いのよ。絶対に負けないって思ってた。でも、負けた。召喚まで使って負けたの……!)
「手加減なんてするつもり無かったのに……!ビギナーだからって、手を抜いて……!初めから本気でやってたら、勝てたかもしれないのに……!それに、アイツが……アイツがお兄ちゃんだなんて……!」
ミウは小さな声で呻くように嘆く。そして、大粒の涙を流して目と鼻を赤くさせる。
そんな時だった。ミウの前に人が現れる。男の人だ。しかし、誰も知らないし誰も気づかない。ミウも、目の前にいるはずなのに全く気づかない。
「……いい感情だ。ボロ雑巾になるまで使ってやるよ」
男はそう呟いてミウの髪の毛を掴んだ。その時ミウは初めてその男の存在に気がつく。しかし、その男の存在に驚き戸惑っているせいで体が硬直して動かない。
男はそのすきにミウの腹を殴る。そして、口の中に手を突っ込みヌルヌルと入っていく。
「アガッ……!アッ、ウグッ、ゴェッ……オェ……!」
ミウは口を大きくこじ開けられながら少し妖艶な声を漏らす。そして、大粒の涙を流す。
男が完全にミウの体の中に入ると、ミウは涙目でその場に四つん這いになった。そして、何とか吐き出そうとする。
「……はぁ……はぁ……オェ……!」
しかし、嘔吐くだけで出てくる気配は無い。そのせいなのか分からないが、胃の中に異物をパンパンに詰め込まれたような気分だ。それに、腹もいつもより脹れて妊婦さんのようになってしまっている。
「や、やだぁ……!お願いしますから出ていってぇ……!」
ミウは泣きながらそう呻くが出てくるはずもないし、応えてくれるはずもない。それどころか、尋常じゃないほどの腹痛がミウを襲う。
「ひぎぐぅっ!い、いらぃ……!やめれぇ……くらひゃい……!」
ミウはその耐え難い痛みに泣きながら止めて貰えるように土下座をして懇願する。しかし、その痛みは止まらない。
そもそも、このゲームで痛みを感じること自体おかしい。なんせ、このゲームには『リアリティセンサー』と呼ばれる制限がかけられている。そのため、痛覚は基本的に無いように作られているのだ。
「あっ……あっ……らめぇ……!わらひが……わらひひゃなくにゃっひゃう……!」
ミウはそう言って床に顔を擦り付け自我を保とうとした。だが、それらは通用するはずもない。ミウの心も体も完全に謎の存在であるあの男に乗っ取られてしまったのだ。
「……あぁ、やっとか。さて、行くか」
ミウの皮を被った謎の男は首をコキコキと鳴らすとお腹を強く押し、スタイルを戻した。そして、堂々と部屋から出て家を出る。両親はそんなミウに気づいて話をかけた。
「どこに行くんだい?」
「ちょっとな」
「そうか。行ってらっしゃい」
そして、ミウはどこかに向けて外出した。
━━その頃シュテル達は……
「……」
「……」
「……」
3人とも部屋でゴロゴロしていた。疲れているということもあって特になにかするということでもない。そのためシュテル達は各々好きなことをしていた。
「レベルが上がったらスキルとか魔法とか覚える訳でもないんだな」
「そうだね。固有スキルとかは増える時もあるけど、基本は自分で伸ばしていくしかないよ。魔法とかだと本を読んだり教えて貰ったりしてさ」
「そんなもんなんだな。実際のところ魔法と剣ってどっちが良いんだろうな」
シュテルはフィナムの話を聞いてそう言った。すると、ディープダークが少し考えて言った。
「ま、そこは色々あるんじゃないか?支援魔法とか戦闘魔法とかあるだろ?自分自身に支援魔法をかけて剣で戦う人とか、戦闘魔法を使いながら剣で戦う人とかいるだろ?」
「確かにな」
シュテルはディープダークの話を聞いて納得する。すると、今度はフィナムが言った。
「まぁ、シュテルの場合剣のスキルを伸ばす方がいいんじゃない?その方が戦いやすいと思うよ」
「それもそうだな」
シュテルはそう言ってスキル欄を閉じる。そして、机の上にあったお茶を1口飲んだ。
その時、インターホンがなる音が聞こえる。
「ん?ミウが来たね。何しに来たんだろ?」
「ミウが?」
「んにゃ……?客人ですか?私が行きますよ」
ルビーがそう言ってフラフラと起き上がった。静かだと思ったらどうやら寝ていたらしい。
眠そうに羽を動かしながらフラフラと飛んでいく。シュテルはそんかルビーを手のひらの上に乗せると玄関まで移動した。
「眠いならまだ寝てても良かったよ」
「いえ、こういう仕事は本来私の仕事ですから。ふわぁ〜」
「いいよ。俺が出るから」
シュテルはそう言って玄関の扉を開けた。すると、そこにはミウが立っていた。ミウは顔を見せないように俯き何も言わずに立っている。
「どうした?」
「……」
シュテルの質問にミウは何も答えない。
「大丈夫か?体調悪いのか?」
「……」
しかし答えない。
「おい、なんか応えろよ」
「……」
だがしかし、全く答える気配を見せない。
「……」
「……す」
その時、微かに何か言っている声が聞こえた。シュテルはミウの口元に耳をちかづけ声を聞き取ろうとする。
「……す。殺……。殺す……。殺す!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!」
すると、そんな言葉が聞こえてきた。シュテルはその言葉を聞いた瞬間に何か嫌なものを感じとった。そして、慌ててルビーを掴みその場から離れようとする。
「っ!?」
気がつけば、ミウは巨大な剣を構えて振り下ろしてきていた。シュテルは転身で逃げようとする。だが、発動が遅い。
「しまっ……」
そして、巨大な剣がその場に叩きつけられた。凄まじい轟音と共に砂煙がその場を覆う。フィナム達はその音に驚き立ち上がった。
「なんだ!?」
「誰か来るぞ!」
フィナムの声が響く。そして、その目線の先に人影が見えた。その人影は背が小さく巨大な剣を持っている。
「ミウ……!?」
フィナムはミウのその姿を見て言葉を失う。ミウは苦しそうに剣を構えて2人を見た。
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