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「……」
「どうしたんですか?」
冴島さんはスマフォを見ていた。
「なに、この変なメッセージ?」
俺は冴島さんのスマフォを覗き込む。
俺が冴島さんに宛ててメッセージを送っている。
「『お前をやってやる』って、これどういう意味よ」
「いやっ! 俺は決してこんなことは…… あっ」
中島さんが倒れた時に、俺は冴島さんにメッセージを入れようとした。
けどスマフォの調子が悪くて動かなかった。もしかして、あれは……
俺は恐る恐る自分のスマフォを取り出して、メッセージアプリを起動する。
すんなりと起動する。そして、同じメッセージを送っていた。それどころか……
「『十分楽しんでから』と入れかけてます。ほら」
「自分で入力しといて、ほら、じゃないだろ」
俺は軽く頭を叩かれた。
「違います。あの時はスマフォがまともに動かなくて。タッチも効かなかったんです」
「……」
俺は冴島さんがガラケーとスマフォの二台持ちなことを思い出した。
静電容量方式のタッチパネルは、霊が操作することが出来る…… ということだった。だから、確実に連絡したいときはガラケーを使うと言っていた。まあ、ガラケーを操作できる霊もいるが、その状態ならもっと酷いことになっているはずだ。
『もう一つ霊がいた?』
俺と冴島さんの声がハモった。
「そうね。そいつが玲香を倒した、と考えれば辻褄は会うわね」
冴島さんは中島さんの頭から足先まで手のひらで探査するようにかざし回った。
口元に伸ばした人差し指と中指を当て、何か呪文を口にした。
「意識を戻せ!」
冴島さんの手が再び中島さんの方へ祓われると、中島さんの体が、反応して、まな板に置いた魚のように跳ねた。
「戻せ!」
再びビクン、と中島さんの体がうねると、急に上体を起こした。
そして、ゆっくりと目を開く。
「あっ、あれ? 所長?? もういらしたんですか?」
「良かった!」
冴島さんが抱きつくと、中島さんはきょとんとした目で俺の方を見た。
「中島さんは悪霊のせいで倒れていたんですよ」
中島さんは自身の顔を指さして、びっくりした目をしていた。
「私が?」
俺はうなずいて見せた。
「……とにかく、良かった。玲香の宝珠、後で変えなきゃいけないわね」
「あ、そうだ、あの女の子は?」
「そうだ、加藤さん!」
俺は加藤さんのところに戻った。
冴島さんと、中島さんもやってくる。
「この娘は依り代のように霊が憑きやすい状態になっているわね。このままでいると、さっきみたいな強い悪霊に狙われてしまうわ」
「中島さんみたいな、宝珠を付ければ?」
「四六時中アクセサリを付けておくのも難しいでしょ? 何しろ宝珠なんて高価なものだし」
「じゃあどうすれば」
「無害な霊で埋めることが一番いいの。普通はそういう浮遊している何でもない霊が埋めて、なるもんなんだけどね。もしかしたらこの娘のスペースは降霊される度、大きくなっているのかもしれない」
「……」
悪徳除霊師の思うつぼだった、という訳か。俺は再び怒りが湧いてきた。
「今、この部屋では適当なのが見当たらないから…… 影山くん。あなたの霊で埋めてあげて」
「えっ?」
初めて聞く話で、何をどうやっていいのかすら分からない。
冴島さんが俺の手を取った。
「ほらっ。霊弾を撃つ前のように意識を集中して」
冴島さんの触れている手の先に霊光が輝き始める。
「これを、この娘に当てればいい。どこから入っていくかはわからない。だから、頭の天辺からつま先まで試してみて?」
そう言って冴島さんが俺の手を動かす。
ちょっと俺の背中が冴島さん胸に当たる。
とたんに、霊光が消える
「あっ…… ごめんなさい。すみません、なんでもないです」
「?」
俺の手は握られたままだった。
「ほら、もう一度集中して。もちろん撃ったらダメよ」
冴島さんの真剣な横顔を間近に見ていると、自分の顔が熱くなった。
「はい」
もう一度集中して、手の平側に霊光を灯す。
それを撫でるような距離を保ちながら、加藤さんの体に這わせる。
ちょうど、胸の形に添って手を上げて行ったところで、霊光が消えた。
「?」
「今のは? す、吸い込まれた?」
加藤さん、というか女性の胸のあたりだったので、自分の集中力も高まっていた。だから消えるわけがなかった。
冴島さんが言った通り、吸い込まれたと考えるしかなかった。
「は、はい」
「じゃあ、手を上げて、もう一度、霊光をキープ。さっきより大きくてもいいかも」
手のひらに霊光を灯す。撃ち出さないように、慎重に力を込める。
「どうですか?」
「うん。これくらいでやってみようか」
冴島さんの手が導くままに、俺はその手を下に、加藤さんの胸の方に下げていく。
霊光が体に埋まっていく。そして、手が体に触れる寸前まで近づいた時、スッと霊光が消えた。
「すごい。どれくらい入るんだろう?」
「ちょっと待って」
冴島さんは指を自身の顎に当て、首を傾げた。
「影山くんが『押し込んで』いないわよね?」
「えっ? そう言われてしまうと正直、自信はないですが」
「じゃあ、こっちでやってみて」
冴島さんが胸を突き出してきて、俺の手をそこに引き込んだ。
「ほらっ」
「いいんですか?」
俺は思わず手でその小山を包んだ。
柔らかくて、とても気持ちが良かった。
「馬鹿っ! セクハラ、酷いレベルのセクハラ!」
俺は慌てて手を引っ込めた。
「話の流れが読めないの? 彼女にやったように霊光を押し当ててみなさいってこと」
「は、はい。どれくらいですか?」
「あんなデカいの入るわけないでしょ。適当な大きさにしてよ」
スマフォの録音機能を使って今のやり取りを録音して置けば良かった。俺は心底そう思った。
ポッと霊光を灯す。
冴島さんが導くまま、その胸に近づいていく。
しかし、霊光は消えない。
「……」
冴島さんの胸に振れる寸前で、俺の手は緊張で震え始めた。
「ちょっとっ! それヤメて。それもセクハラ」
冴島さんは手を突き返してきた。
「押し込んだわけではないようね。信じるわ。じゃあ、続けましょう」
俺は冴島さんの指導の下で、慎重に作業をした。
一時間ほど作業した後だろうか、からだのどこへ動かしても霊光が吸い込まれることがなくなった。




