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つまり、これで加藤さんが霊に憑かれることはなくなった、ということだ。
「まあ、さっき入れた霊を拒絶しなければね」
「霊? 霊光だったけど、あれを拒絶することがあるんですか?」
俺はびっくりして、冴島さんを振り返った。
「霊光といえど、普通の霊よ。拒絶することもあれば、人の体の中で霊が変化して、抜けてしまうこともある。しばらくは一緒にいて見ていてあげないとダメかもね」
「俺の力でそんなことを感じ取るのは無理です」
そう言って首を振った。
「大丈夫。かんなに言って、霊圧を測る装置を借りましょう。それで定期的に見ればいい」
冴島さんはスマフォでメッセージを入れている。
おそらく橋口さんにその霊圧を測る装置を借りようというのだろう。
「影山くん。あなたは蘆屋さんに一緒に暮らすことになるからって、伝えて」
「えっ……」
蘆屋さんのことだ、どんな返しがあるか分からない。俺は怖くなった。
「冴島さんから橋口さんに伝えて、橋口さんから芦谷さんに伝えてくれませんか?」
「なんでそんな周りくどいことを?」
スマフォの上を滑らせていた指を止めて、冴島さんはそう言った。
「いや、あの、とにかく、お願いします。直接蘆屋さんには頼めないんです」
「まあ、いいけど」
冴島さんはスマフォを耳元に持ってきた。直接電話を掛けたようだった。
「かんな。私…… うん。それでね…… 霊が入り込む隙間が出来ちゃったみたいなのね…… うん。それで、霊圧を測る装置を借りたいの…… うん。影山くんにやり方は伝えたから…… そうそう。だから蘆屋さんのところに住まわせて欲しいんだけど…… なんでって、影山くんからは頼みにくいんだって…… ああ、そう。それもあるの? 分かったわ。お願い」
俺は恐る恐るたずねた。
「どうなりました?」
「かんなから言ってもらうから。私達も家に戻りましょう」
冴島さんは人差し指と中指を伸ばして口元に当て、何かブツブツつぶやくと、パッ、と加藤さんに指を向けた。
「あれ、霊圧を測る装置は?」
「かんなが持ってくるって」
加藤さんが上体を起こした。
「……」
「気が付いた?」
「あれ…… 私…… あれ…… この女性どなた?」
俺は加藤さんに説明する。
「この女性が話していた冴島さんだよ。この除霊事務所の所長さん」
「は、はじめまして」
加藤さんはそう言って、慌ててテーブルから降りた。
そして加藤さんがガラスを割る霊に憑かれたこと、悪徳除霊師に騙されて何度もお金を請求され、傷つけられたことを話した。中島さんは共感して泣いていた。
加藤さんの話が終ると、冴島さんはスマフォを操作してから、加藤さんに向けた。
「この中に、見覚えのある顔はある?」
加藤さんは無言で画面を指でめくっていく。
いくつか過ぎていくと、パッと目を見開く。
そして、冴島さんの方へスマフォを向ける。
「この人です。間違いないです」
冴島さんは何かその画面を操作すると、加藤さんを抱き寄せた。
「つらかったね」
「……」
加藤さんは冴島さんにしがみつく様にして、目を閉じ静かに泣き始めた。
松岡さんが運転する車に乗って、俺たちは家についた。
家には蘆屋さんが先に帰っていた。
俺は後ろにいる加藤さんのことを説明しようとして口ごもってしまった。
「……橋口さんから聞いてるから。さ、入って」
加藤さんを先に部屋に入れる。
「ご、ごめん」
「?」
俺は蘆屋さんに止められた。
「いまどういう意味?」
「何のこと?」
「どうして『ごめん』なの?」
「狭いところに一人増えてしまうからさ」
「そうかしら。それで謝っているのかしら?」
「どういう意味?」
蘆屋さんは部屋の中の方を振りかえる。
加藤さんがこっちを見ている。
「なんでもないよ」
と加藤さんに手を振ってから、蘆屋さんは俺を見る。
「これは人助けなのよ。『ごめん』と言う理由が他にあるんじゃないの?」
「ないよ」
「うそ。私に言えない何かがあるから『ごめん』っていうんじゃない?」
「俺が蘆屋さんに言えないことってなんだよ」
「例えばあの娘と」
「あのこと?」
「あの娘と関係があるんじゃないの。言っとくけど、友達関係とかじゃなくてね、もっと体の方の」
やっぱり、嫉妬か……
俺は慌てて手を振る。
「ないない。そんなことないよ俺は単にストーカーされてただけ。俺が気付いてないから、ストーカーでもないんだけどさ」
「カゲヤマをストーカーしてた?」
「うん。なんか勝手に俺のこと調べていたみたいなんだよね。だから除霊してくれって」
「……あれ、なんかバイクの音がしない?」
蘆屋さんが俺の方に近づいてきて、外の様子をみる。
バイクって、橋口さんか?
「霊圧を測る装置を、渡しにくるはずなんだよね」
「そうなんだ」
「あんたが使うんでしょ? ほら、見てきて?」
人使いが荒いなぁ、と思いながら、これで加藤さんのことから離れてくれれば助かる、と思っていた。
「一緒に行こう?」
「ちょっとまって」
俺と蘆屋さんは、部屋に加藤さんを残して、下に降りた。
そこにはバイクが待っていて、橋口さんが乗っていた。
後ろに乗っている人影は、背の低い橋口さんと比較してしまうせいかもしれないが、背が高い。
エンジンを切ると、橋口さんがヘルメットを脱いだ。
続けて後ろに乗っていた背の高い女性がヘルメットを取った。
「あれ? マリア?」
「カゲヤマサン、タダイマモドリマシタ」
橋口さんの後ろに乗っていたのはマリアだった。
「マリアが重たすぎて、全然スピード出なかったんだケド」
確かにマリアは相当重たいはずだ。以前、トーマスとかいう敵の大男と戦った時、マリアはあの大男の高速フックを片手で受け止め、微動だにしなかった。力もそうだが、おそらく相当重量があるのだろう。俺の想定が間違いでなかれば、小柄な力士二人分、160kg前後はあることになる。
「あれ、そういえばマリアってどこ行ってたんだっけ?」
「何いっているの。資料提供してもらうために警察で預かってたんだケド」
「……」
俺が黙っていると、橋口さんは部屋から出てきた蘆屋さんに向かって言った。
「蘆屋さん? 言ってないの?」
蘆屋さんは黙っている。俺は蘆屋さんを見つめて言う。
「聞いてません」
蘆屋さんはムッとした。
「そんなタイミングなかったし」
「それにしたって、もう結構経ってるケド」
俺と橋口さんが蘆屋さんを見るが、蘆屋さんは平然としている。
俺は、橋口さんに手招きされる。
「まあ、いいわ…… ほら、カゲヤマ、これが霊圧を測る装置よ。簡易版だから、表示部分がないの。だから、スマフォに接続して使ってね。表示用のアプリとか、使い方は蘆屋さんに聞いて。それじゃあ、私は帰るわね」




