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俺と除霊とブラックバイト2  作者: ゆずさくら


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(37)

「えっ?」

「大災害……」

 俺の頭の中に電気が走ったようだった。

 大災害。強烈にひっかかるにも関わらず、何も出てこない。

 思い出せない記憶の中にあるキーワードらしい。

 なんだろう…… 父も、母も、さやかも…… みんながこのキーワードに関わっている。そんな気がする。

 大災害…… って、一体何があったんだ?

 イオン・ドラキュラは、手で箱をもって、別のところに置く、というゼスチャーをしてみせる。

『レイリョクガ、セイギョデキナイモノニワタッテモ、オナジコトガオキルゾ。ヤハリ、セカイニ、レイガアフレルコトニナル』

「今も溢れている気がするけど」

 蘆屋さんが首を振る。

「この場合の『霊』は鬼とか悪魔、と思った方が良いわ」

『ソノトオリダ。ヤシキノレイリョクガスベテカイホウサレレバ、セカイセンソウノハジマリダ』

 白髪の老人の背後に『WW』と文字が描かれる。

「『www』って、笑いごとじゃないでしょう?」

「違うわよ。WW(ワールドウォー)、世界大戦ってこと」

 世界大戦…… 言葉では知っているが、今起こったら、いったいどんなことになるのだろう。

「……なるほど。じゃあ、屋敷の霊はどうすればいいの?」

「この前みたいに、すべての霊を昇天させるしかないんじゃない? 昇天してもバランス的にはそのうち戻ってくるけど、戻ってくる時って今みたいに集中した状態では戻ってこないから」

『ソノトオリダ。ヤシキノレイリョクハスベテショウテン、ジョウカスルベキダ』

 屋敷は、今も霊を吸い込み続けているって聞いたぞ…… そんなの何年かかるんだ?

『カゲヤマ。キミガシネバ、キミノナカノレイガアフレル。ヤシキノセイギョヤクノキミガイナクナレバ、ヤシキノコウリャクハタヤスイ。ヤシキノチカラガカイホウサレレバ、セカイハジゴクトカス』

「俺が制御役? そんな重要なの? じゃあさ、俺を殺しに来るわけないじゃん。四聖人はそれを分かってないのか?」

『キミガイナクトモ、セイギョデキルトオモッテイルノカ、ケッカトシテ、セカイセンソウヲノゾンデイルノカ、ドチラニセヨ、キミヲネラッテイル』

「……」

 制御されていると、マズいのかもしれない。

 屋敷にこれだけ高い霊圧があっても目だって悪いことがないのは、(・・)がいるから(・・・・・)なのかもしれない。そうすると『俺』はかなり重要な人物ってことになってしまう……

 ピーと鳴って、壁に映っていた映像が消えた。

 灯りを消していた部屋は暗くなった。

「えっ、また充電しなきゃいけないのか……」

 俺はおもむろに充電用のソケットを取り出した。

 偶然、蘆屋さんのスマフォのライトがそれを浮かび上がらせる。

「キャーーー」

 鼓膜に響く大声。いや、あまりに生々しい形をした充電ソケットが悪いのだが。

「な、なに持ってるのよしまいなさいよ」

 と言って、蘆屋さんは俺の手にあるソケットを押し付けてくる。

「俺のじゃないって」

「じゃあ、なんで持ってるのよ」

「大体、本物は着脱できないし」

「知っているわよ! バカにしないで。おとなのおもちゃでしょ?」

「いや、だから、これは……」

「ほら、灯りを点けるから、それまでにしまってよ?」

 俺は慌ててアンドロイドのマリアに充電ソケットをつないだ。

「いい?」

 充電ソケットが入る場所は、しっとりしていて、妙に柔らかい。

 変に『モットオクマデ』と言われると面倒なので、初めからグッと奥へ差し込む。

『ジュウデンカイシシマシタ』

「蘆屋さん、点けていいよ」

 パチっと音がして部屋が明るくなる。

 蘆屋さんが目を丸くして俺の方を見ている。

 蘆屋さんの視線の先を横目で確認する。

 マリアの膝が立っていて、俺の方に開脚している。おそらく、これが気になるのだろう。

 俺は蘆屋さんの視線を切るように立ち上がり、蘆屋さんに近づく。

「ちょっ……」

「なんでもないよ。充電するとき、マリアは倒れちゃうんだ」

 俺は横目で後ろを見ながら、蘆屋さんから見えないように立ち位置を細かく調整する。

「そうじゃなくて、膝立てて開いてなかった?」

「気にしない。ほら、まだこんな時間だよ、寝ないとお肌に良くないよ」

 肩を押して、蘆屋さんをロフトに上げる。

「……」

 蘆屋さんの視線を見ながら、マリアの下半身を隠す。

 とりあえず、階段を上がり切るまで隠せれば、ロフトからマリアの位置は死角になる。

「おやすみなさい」

「おやすみ」

 と言って蘆屋さんはロフトに上がった。

 俺は下の部屋の灯りを消し、大きく息を吐いて、腰を下ろす。

「俺が、屋敷の霊を制御しているって…… 本当だろうか」

 そのまま上体も倒していく。

 マリアの腹の上に頭が乗ってしまう。

 小さい声で言う。

「ごめん」

『ノセタママデイイデスヨ、オーナー。ソレヨリ、ドウカナサイマシタカ』

「ありがとう」

 俺は頭を乗せたまま、ぼんやりと見える暗い天井をみて考えた。

 屋敷の制御は俺がしていて、屋敷の鍵はさやか。もしかすると、父と母も何かそれぞれの役割があって、まだ、どこかで生きているのかも知れない。

 それと…… 大災害だ。そう。大災害、このキーワードが俺の記憶を揺すったのは間違いない。

 何があったんだ。この屋敷自体はその大災害に巻き込まれていない。

 俺も、さやかも巻き込まれていない…… 父も…… 母…… も?

 さっきビリビリと電気が走ったような感覚は、今は全く起こらない。

 GPAで記憶を手繰っていた時に見えた、魔法陣と父の姿。

 その時、母はどこにいた? そうだ、母がいない。まさか……

 俺はそのまま何かにたどり着いた気になって、意識がなくなり、眠りに落ちていた。




 俺が大学の駅で降りると、一緒に降りた蘆屋さんが言った。

「このアンドロイド、学校に入れて大丈夫なのかしら」

 俺は歩きながら答える。

「いつもの調子だったら校内には入れるだろうけど。授業中はどうしよう」

「小教室、中教室は…… あれ、この子上履きはある?」

「いや、そのまえに靴が体の一部かどうかを確認しよう。何せ外国産だし」

 俺たちは立ち止まり、マリアに靴を脱ぐように言った。

 まるで足に溶けているようにピッタリくっついている靴が、スッと外れた。

「足裏も見せて?」

 マリアは器用に片足でバランスを取りながら、正面蹴りを入れるように足を上げてきた。

 アンドロイドのせいか、片足で立っていても人間のように揺れることがない。奇妙な感じだった。

 足裏も肌色で、綺麗なこと以外は人間のそれと同じにみえた。

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