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50 開けブタ

 昼下がりの午後、俺はショッピングモールの靴屋のイスに座り冒険手帳に色々と記入していた。


 鎌鼬かまいたち:鎌によるX字の斬撃を行う。射程距離0~30センチ程。

 木霊こだま:3体の木霊を自由に配置し、その上に乗って階段として使える。

 玄武げんぶ:手の先に玄武が現れ、光の膜の甲羅によるバリアーを展開する。巻き付いている黒いヘビが怖い。消費体力多め?

 狐火きつねび:狐火の尻尾から火炎を放射する。射程距離0~1メートル程。


「こんなもんか……。あとは、問題の……」


 青鷺火あおさぎび:俺自身が青い炎に包まれ、近くの生物の殺意を強制的に俺に向ける。


「青鷺火……俺LOVEなアリスでさえ俺に殺意を示した程に危険な幻獣……。でも、使い様によっては強力な武器になりそうだな。有効範囲どのくらいだろ……」


 先程ミニステージで使役した時の状況を思い出してみた。確か俺とアリスは3メートル程は離れていたので、少なくとも有効範囲はそれ以上となるはずだ。


「近くに味方がいたら、それだけでもう使役出来ないな……まあ、試せそうな時に試すか」


 俺は記入し終えた手帳を腰のベルトに装着している布のケースに入れ、自分の靴を長考して選んでいるアリスの元まで歩いた。


「おいまだか? お前、俺のブーツは4秒で選んだのに自分のだと慎重だな……」

「いくつかのうち、どれにするか迷っているの。じゃあ、あなたが決めてくれる?」

「おお任せろ。じゃあ今度は俺が履かせてやるよ」

「あたしも選ぶであります!」


 俺とチルフィーが言うと、アリスは迷っている3つを箱に入ったままイスの横に置いた。そして腰を下ろし、履いている靴を脱いで黒タイツの足を俺へと伸ばした。


「1つ目はこれね!」


 ちょっとした靴のファッションショーが始まり、アリスは目を輝かせながら箱を開けた。


「……異世界でこれを履くつもりか?」

「魔法少女サッキュンの絵がプリントされた靴よ! 可愛いでしょ!」


 俺は一応、履かせてから却下しようとアリスの足を手に取った。そして思わず、足の裏をくすぐった。


「キャハハハ! ちょっと、やめてちょうだい! キャハハッ……!」

「おお、なかなかいいリアクションだな」


 思ったよりくすぐったがるので、俺は更に黒タイツの足の裏をくすぐった。やばい凄く楽しい。


 そうして2人で遊んでいると、アリスの頭の上で真顔になっているチルフィーが口を開いた。


「なにイチャイチャしてやがるでありますか……」


 その冷静な言葉に反省し、俺はまだくすぐったそうにしているアリスの足に靴を履かせた。


「ほら! 似合っているでしょ!?」

「……いや、ちょっと待て。アリスよく見ろ! ユキりんの琵琶の色が違う。これはパチモンだ!」

「あらホントだわ! ……あなた詳しいわね?」

「…………テレビCMでやってた」


 俺はそのパチモンの靴を無の彼方に放り投げ、2つ目の候補のお披露目を黙って待った。


「次はこれよ!」


 アリスは俺のと似ている黒いハイカットのブーツを手に持ち、俺とチルフィーに見せた。


「くるぶしが隠れるし良さそうだな。履かせてやる」


 俺は渡されたそのブーツをアリスの足に履かせた。履かせようとした。


「キャハハハ! ちょっと、また!? くすぐったいわ! キャハハッ……!」


 俺はその凄く楽しい遊びが我慢出来ず、またやってしまった。


「イチャイチャしたいだけじゃねーかであります……」

「キャハハハ! ……そうよ! やめてちょうだい!」


 2回目は程よく、しつこくなく。という大御所芸人の言葉を適用し、俺はそのままハイカットブーツを履かせた。


「まあまあね。じゃあ次よ!」

「走ったりジャンプしたりした方がいいぞ? 動きやすいか試さないと」

「思っていたより可愛くないから却下よ!」


 俺は却下された可哀そうなハイカットブーツを箱にしまい、アリスが箱から出した3つ目の候補を受け取った。


「もうくすぐらないでよ? いい? もう絶対くすぐったら駄目よ?」

「分ってるよ、ほら足を上げろ」


 俺は水平に上げられたアリスの足を手に持ち、ダイレクトに足をくすぐりまくった。


「キャハハハ! もう! 絶対駄目って言ったじゃない! キャハハッ……くすぐったいわ!」

「いいかアリス! 絶対○○と言ったら、それはやれと言ってるって事だ! 覚えとけ!」

「覚えたわ! 覚えたからやめてちょうだい! キャハハハハハ!」


 容赦なしに黒タイツの足の裏をくすぐりまくっていると、アリスの頭の上でチルフィーが溜め息をついた。

 俺はその呆れ顔のチルフィーを捕まえ、履いている小さな靴を脱がし、アリス同様くすぐりまくった。


「くすぐったいであります! やめるのであります!」

「いや、やめねえ! お前ら2人ともコチョコチョの刑だ!」


 午後の日差しが照らす靴屋の店内に、俺達3人の笑い声が響いた。





「いいブーツをゲットしたわ! これで更に強くなったわよ!」


 結果的に自分で選ぶ事となったアリスは、そのスネまで伸びていて横にチャックの付いた黒いブーツで動き回りながら言った。

 今まで履いていたピアノの発表会のような黒い靴も大事な物のようで、ゲットしたブーツが元々入っていた箱に入れて和室の押し入れに丁寧にしまい込んでいた。


「よし、じゃあ装備も少し整ったし、月の迷宮に行くか!」

「本当に大丈夫なの?」

「ああ。もうマジで大丈夫だ!」


 俺はバールのような物を左手に持ちながら言った。


「それはなんなの?」

「ゲームコーナーの事務所にあった物だ! 昨日クワールさんの剣を借りたら意外としっくり来たからな。剣を左手で逆手に持って防御に使う……その練習だ!」


 同じ幻獣使いであるレリアと、最強の幻獣使いの騎士である金獅子のカイルがどのように武器を扱うかは知らないが、俺にとってはこれが幻獣を使役しながら戦う最善のスタイルだと確信していた。


「左手に剣を、右手にじゅうをそれが俺流だ!」


 俺はポーズを決めながら言った。


「あら、そう。まあいいんじゃない?」

「まあいいんじゃない? じゃない! じゅうは、じゅうとかかってるんだ! お前それが分かってるのか!」


 俺は言葉遊びを必死にアピールしたが、アリスはそれをスルーしながら月の迷宮への階段を下りて行った。


 チルフィーは族長とやる事があるそうで、持てるだけのプリンを袋にぶら下げてシルフの隠れ家に帰っていた。

 その際に必要な物資があればなんでも持ってってくれと言うと、チルフィーは飛び回って喜びながら、後日他のシルフを大勢連れて選びに来ると言っていた。


 ショッピングモールにある物で、シルフがなにを欲しがるのか楽しみだ。


「ブタ侍ちゃん動いたわよ! あなたも早く来なさいよ!」


 その声を追って階段を下りると、アリスの手のひらで真面目な顔に戻ったブタ侍が準備運動をしていた。

 俺にゲットされたせいで最弱の魔法人形になってしまったブタ侍だったが、それでもともに戦う気満々のようだ。


「来たでござるか。では早速、月の迷宮の扉を開けるとしよう」


 アリスの頭の上に登ってからそう言うと、ブタ侍は手を掲げた。


「開けブタ!」


 お馴染みの呪文をブタ侍が唱えると、月の迷宮の扉が再び開いた。


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