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26 来客

 猫がお兄ちゃんって事はともかく。いや、何がともかくなんだと突っ込みが入りそうだけど、それも置いといて、一応中に入ってもらった。ガタガタ震えてたエレナさんには、お兄様に言わないようくぎを刺しておいたけど…言う気がするなぁ。大丈夫かなぁ。

 中に入って、ユアンにも座ってもらった。長身だから、子供(身長的に子供)の私達は威圧感が。まあ、私は背伸びをすれば短剣が当てれる背ではあるんだけど。まあ、短剣自体大き目だし、銀狐ちゃんも出来ると思う。


「それで、そこの人は誰なの?」


 突っ込み早っ!そこはもーちょっと置いとこうよ~。焦らしプレイが出来ないじゃない。


「こいつは、飼い犬。気にしなくて良い」

「部外者を話の席に入れるのは不躾だとは思わないのか?」


 なにこの猫耳少年…可愛い顔して鋭いな。

 とにかく反論。

 

「護衛だよ?知らない『お兄ちゃん』が来るんだから、少しくらい警戒させてよ」

「それもそうだな。この俺が来るんだ、魔王じゃ戦力不足だろ」

「…」


 イラッ☆

 何コイツ。銀狐ちゃんの方が可愛げがあるんですけど。

 ちらっと銀狐ちゃんを見ると、お兄ちゃんにうっとりしてるらしい。ちっ、うっとりでも鳥取でもしとけ!

 と、恒例の(?)駄洒落(?)を言ってから、猫耳少年に向かい合う。


「さて、あなた達の名前は?」

「俺に名前なんてねぇよ。誰かの鎖に縛られるつもりもねえ。(わり)ぃが、お前らみてえな天の楔に縛られた存在と一緒にしてもらっちゃ困るぜ」

「…子供は子供らしい口調で居た方がかっこいいよ?少年」

「はあ!?」


 呼び方を少年で固定。銀狐ちゃんは…


「狐ちゃん」

「私なの?…元の存在を崩さない、いい呼び名なの」

「うん」


 『少年』は事実。『狐』も事実。

 だから、名前にならない。名前って言うのは、他の人とは違う、個別の名称の事だからね。事実で呼ぶなら名前じゃない。


「んで?お前、種族は何」

「なんで偉そうなのかな?」

「なんだよ、俺が偉いのは普通だろ?」


 こりゃ、猫族時代の名残だな。猫族はプライドが高くて自分が一番と思う節があるらしいし。

 …うーん…やっぱり、正した方がいいのか…な?

 正直面倒くさいからやりたくないけど、ずっとこの態度もムカつく。よし、この場で一番の実力者は私だってことを教えてあげなきゃね。


「違う」

「は?」

「この場で偉いのは、私だよ?呼び出したんだから立場が下。確かにそれは認める。だけど客人は客人らしくしてもらわなきゃ。人の家でその態度だと…怒る」

「はっ!家主側が何言ってんだか!」

「本気で戦うつもりなら、相手をしてあげる」

「…へえ?」


 少年の唇が、面白そうにめくれる。猫族って戦闘種族なんだよね。魔族は実力主義だから、戦闘に持ち込めばどうにかなるかな。

 あれ、固有魔法(ユニークマジック)は、えっと。


「『変化』」

「お?俺の固有魔法(ユニークマジック)か?そうだ。良く知ってるな、滅びた種族の固有魔法(ユニークマジック)まで憶えてるなんて、魔王サマも相当な暇人だなあ!」

「何か、言った?」


 魔力開放。

 うー、ごめん、少年。『変化』、欲しいや。多少の変身が可能って事でしょ?髪色とかも変えれる。戦闘に紛れて、血、飲みたいし。


「私の種族、言って無かったね」

「言う気になったか」


 しっかり、少年の目を見据える。さっきまでのへらへらとした笑顔は消え、少年だけを視界に入れる。

 『五感強化』オン。『身体強化』オン。『視界良好』オン。…そして。


「私の種族は鬼族・吸血種・ミルヴィア」


 …開始。


「よろしくね?少年」

「こいつ…ッ!くそ!」


 少年が掛かってくる。

 あれ?案外しっかりした攻めだな。悪いけど、ユアンには退いててもらおう。

 トン、とユアンの肩を押す。ユアンは察した様子で下がった。


 『身体強化』によって強化されている私の体は、少年を躱した。でも、食らってたら正直苦しかったかも。なんったって、少年の放った一撃は椅子をあっさりと砕いていたから。


「やめてほしいなぁ。お兄様に怒られるでしょ」

「ッてめぇ…!」


 トトン、と机の上でステップを踏んでみれば、少年の怒りはMAXに達したらしい。キレやすいのも問題だよ?少年。


 少年がジャンプ。さすが猫、俊敏だ。それを躱して、狐ちゃんの様子を確認。ちゃっかり壁際で丸くなってた。気付かなかったけど、銀色のふさふさな尻尾があった。モフモフしたい。


「っと、危な」

「余所見すんなよ。怪我するぜ?」


 うーむ。

 この顔でその台詞も結構カッコイイな。というより、この世界には美形しかいないのか?

 ちなみに言うと、少年は茶髪で茶色い目。肉弾戦に向いてる体格じゃないけど、俊敏さが攻撃に活かされてる。自分の特性をしっかり把握してるのか…。

 振りかぶられた腕を掴んで、良く分からないけどその要領のまま一本背負い――とは行かず、少年は途中でくるりと体を方向転換させると私の腕を踏み台にしてざっと遠くに離れた。

 だけど、それは失敗だったね。


「形を成せ、力を表せ、燃え盛れ、炎。炎録」


 ゴオ…


 音を立てながら、炎が少年に向かっていく。少年は避けるけど、対象を確認した少年を追う。もちろんこれが本命の攻撃じゃない。その間に術の構築。

 私は魔法系。それは髪色を見れば明らか。なのに距離を取ってしまったのは少年、君の責任だよ?


「吹き抜ける風よ、水を乗せ、まわれ。彼を水の刃で――」

 

 私、竜巻系が得意みたい。

 風に乗って水が舞う。それを延々繰り返すサイクルが出来上がり、私の命令を待っていた。そして私は、叫ぶ。


「打ち砕け!」


 大量の水が、一気に少年に向かう。瞬間、炎は解除(キャンセル)。水だけが、少年に向かっていく。少年だろうと何だろうと、所詮は猫。水には弱い。少年は水を見た瞬間、一瞬、怯んだ。その隙を、水刃が襲う。

 大量の水がかかり、少年の動きが止まる。そこへ駆ける。…しかし、それを被ったのは、瞬間的に移動していた狐ちゃんだった。狐ちゃんは、不敵に笑う。

 庇ったの!?

 私がそっちに気を取られた時、少年が何かを取り出した。

 

 ドクンッ


 少年の取り出した短剣は、出した拍子に少年の指先に切り傷を入れた。ポタッと血が滴る。

 や、ば…


 ヒュオンッ!

 

 振られる短剣。だけど、私はそれを操る指先に目が行ってしまう。

 あ、これ、防御出来ない。

 せめて、前を見据えて、動きを――


 と思ったら、何故か短剣の動きが止まっていた。よく見てみると、細い剣が止めている。ユアン、だった。ユアンはいつもの笑顔を浮かべながら、剣を操って短剣を弾く。弾いた短剣をいともたやすくキャッチした。


「すみません、これ以上の荒事は、屋敷の外でお願いします。血は…」


 ちら、と、ユアンが少年の指先を見る。


「主が好むのは確かですが…主の血は、流せませんので」


 少年の目が、ユアンの指に行く。多分、指の動きだ。

 

「…お前…剣の一族か!」

「ええ」


 少年の目が殺意に燃える。奪われた短剣を一瞬で取り戻し、ユアンの左胸に向かって振る。机の上に乗っていたから、背は届いた。それも、簡単にユアンによって遮られる。少年はバランスを崩して、机から降りた。


「あなた達を狩ったのはあくまで両親であり、私ではありません」


 あくまでも、冷淡なユアンの声。それが、今の場においてどれだけ非情で薄情な物か、この人は、知ってる。知ってる上で、やってる。

 すごいね、ユアン。

 私には、出来そうもないや。

 

「…親がやった事だ、子供の責任だろ!」

「違うよ」

 

 私は、まだ暴れる心臓を抑え付けて、少年の腕に触れた。震えてる。殺意と、どうしようもない気持ちが入り混じって。


「子供がやった事は親が責任を持つ。それでも、子供に親がやったことの責任は、ない。間違ってるよ、少年」

「その呼び方、ムカつくんだよ!」


 ヒュン!


 私に向かって振られた短剣を、避けずに受ける。頬にじんわりと痛みがある。そっと触れてみると、血が出ていた。

 …これは、食べてもいいやつかな?

 

 ぺろり、とそれを舐める。うん、美味し。ご馳走様。


「私なら、死なないから」

「…!」

「いくらでも傷付けてもらって構わない。でも…お願いだから、私の…」


 何て言おう。護衛?騎士?ううん。違うかな?


大切な人(・・・・)を、傷付けないで」

「~ッ!」


 行き場のない怒り。やりようのない気持ち。大切な人を傷付けられた、少年の怒り。それは、私がユアンを『大切な人』と呼ぶ事でユアンへの怒りが何とか制御できたらしい。

 なんとなく、理解できた。私だって、前世の銀行強盗に対して思う事が無いわけじゃない。でも、どうにも出来ないから。

 どうしたって…戻れない。


「ユアンが戦闘に入って来た事に対して憤りがあるのなら、謝ります。すみませんでした」


 頭を下げる。今、少年は…きっと、怖がってる。

 知らない人と会うと、猫は怯える。

 怯えて、虚勢を張る。

 大丈夫だよと――言ってあげないと。


「それはいいの。私も、入ったの。お兄ちゃんを、庇ったの」

「うん」


 頭を上げる。頭を上げて、微笑みかけた。


「大丈夫。私は魔王なんだ。なんだって受け入れるよ。狐族・猫族討伐について意見があるなら、遠慮なく言って。私は、聴かないといけないんだ」

「…お前」

「上に立つ者が偉いのはね」


 そっと、少年が持つ短剣の柄に手を添える。


「下の者を守る義務があるからなんだよ」

「…でも!先代の魔王は、大した理由もなく、父さんを!」

「うん。そうだね。私の立場から、それを酷いとは言い切れないけど」


 酷いけどね。断言出来る。あれは、酷い。


「何でも言って。さあまずは、壊れた椅子を直して、ちゃんと座ってお話ししようよ。…結構、楽しいかもよ?」

「…ああ」


 こうして、何とか私は、ちゃんとしたお茶会に漕ぎつけた。

閲覧ありがとうございます。

補足です。『〇〇族・〇〇種』に続くのは、その種族の始祖の名前です。もう吸血鬼はミルヴィアしかいないので、『鬼族・吸血種・ミルヴィア』となります。

次回は久々に勇者編です。

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