水妖と子供
翌日から、昼間、水妖が渡しをやっている間、子供は村で物乞いや簡単な手伝いをして、夜になると揃って眠るようになった。二日目のその日、子供は水妖に会うために、わざわざ上流まで出ていって、中州に流れ着くのを願って荒れる湍水に飛び込んだそうだ。流れつかねばそれまでと、何でもないような口ぶりでいうから、水妖は日が暮れるたびに村の近くの沢まで子供を迎えに行くようになった。子供がひもじくしていれば水妖は魚を取り、水妖の綱の傷を治そうと子供は薬草を探した。
その間も湍水の荒は続いた。湍水を渡る人々の話題は暗くなるばかりだ。まだ王も神獣も次代が見つからぬ。国中が災禍に呑まれ、村がいくつも潰れている、と。奇妙な天気が続き、雹が降り、晴天に雷が轟くようになった。雨は日照りの後狙ったように降り、水妖の寝床の岩が潜るほど、水があがるようになった。近場の村など、いつ沈んでもおかしくない。水妖は、子供が死なぬようにと安全な場所を教えてやった。もし雨がひどく降ったら、そこに逃げるように何度も言い聞かせた。
それは、鈍色の空が、手の届きそうなほどに低く立ちこめた朝だった。いつものように水妖は子供を村に送りだしてやった。渡しの責も前ほど重く思わない。それどころか引き綱のせいで剥がれていた鱗も、子供が持ってくる薬のおかげが揃い始めていた。
渡しは北と南の渡し場へと、日に何度も往復する。だが、昼ごろから大粒の雨が降り始めると、渡し客はぱったりといなくなってしまった。こちらに話はなかったが、渡で金を取っていた男が、危ないから船を止めた、というのを聞き、水妖は寝床へと戻ることにした。
午後になり雨はますます強くなった。流れて来る水は砂色に濁り、中に岩や大きな木の根が混ざりはじめた。これ以上雨が続けば、もはや水ではなく土砂が水の体で流れてくるようになる。今度ばかりは村も無くなろう。水妖は昼寝の床から起き上がって、すぐそこまで迫った水に飛び込んだ。水はひどく泥臭い。生き物の腐った臭いも交じっている。上体を水上に出し、水妖はいつもより早く子供と待ち合わせる沢に向かった。




