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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第2章】正義者(ジャスティスマン)
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★第7話★ 無茶な依頼

★第7話★ 「無茶な依頼」






「・・・ってな感じでポットヲタクの

 月影つきかげ しゅんが乱入してきて

 今日のところはあのイケメン陽キャから逃げられた。」




・・・時刻は16時ちょい過ぎ。


俺は鈴木すずき 結乃ゆのこと”ゆのぽん”の

活動拠点であるマンションの一室で彼女に今日の出来事を報告していた。




月影つきかげ しゅん・・・。

 あの、モバイルポットをぶつけ合う遊びの公式プレイヤー、だったっけ?」


結乃ゆのは目の前のノートパソコンを高速でタイピングし、

彼の情報をものの5秒程度で画面に表示させる。




「・・・ネットで出回ってる

 ”城北大学・経済学部経済学科”っていう情報は

 さすがに嘘だと思っていたけど、

 たぶん本当にうちの大学の生徒なんだね。

 私も知らなかった。」




・・・イケメン陽キャこと、西願せいがん ひろ

彼のことは知らなかったけど、

これはモバイルポットをぶつけ合う”ポットバトル”が

まだあまり世間に浸透していないことが原因だろう。


しかも、モバイルポットを生産・販売しているメーカー4社共に、

ポットバトルによる損傷は『保証対象外』と公言している。




4年前、スマートフォンがまだ主流だった頃には

スマホをぶつけ合って遊ぶヤツなんて当然いなかった。


それが、自律稼働型AI、つまりは”ロボット”の形になっただけなんだけど、

戦わせたくなるのが人間、特に若い男子のさがなのかもしれない。






「しかも、彼は”第二世代モバイルポット”を所有していて、

 ポットにはどうやら冷泉れいぜい 奏多かなたが関与していそう、

 ということね。」


結乃ゆのは机の上のマグカップを手に取り、

ブラックコーヒーを一口飲んだ。




「・・・私も新しい情報を掴んだんだけど。」


彼女はそう言いながら24インチモニターから伸びるケーブルを

自身のノートPCに差し込んだ。




「個々人の”社会貢献度”の計測はほぼ100%、

 個人の”モバイルポット”を使って実行されている。

 そういう仮説は先週から立てていたんだけど、

 今日それを裏付けるような情報が出てきたの。」


結乃ゆのがキーを打つと、

24インチのサブモニターには上空からの地図が表示された。




・・・パっと見はどこの地図か分からない。




摘人てきじん政策せいさくが開始された直後から、

 地図のこの地点にあるサーバーに対して、

 過剰にアクセスが集中していることが分かったの。

 おそらくだけど、ここには社会貢献度しゃかいこうけんど計測のために

 収集したデータが蓄積されるDBサーバーが設置してあると考えられる。」


彼女は画面上の地図を指差す。




「情報ソースは?」


「以前SEO対策でお金払って、

 よそのブログからデータ収集してもらったハッカー。

 他の依頼でも活躍してる人で十分信用できるから、

 そこは心配しなくても良いよ。」




・・・このコミュ障女子には、ネットのお友達は沢山いることを忘れていた。




「じゃあ、そのハッカーにDBサーバーの中身見てもらえば、

 カラム名とかで社会貢献度しゃかいこうけんどの詳細が判明して

 ”ゆのぽん”のマニュアル作成が完了しそうだな!」


ついこの間、大学の授業でデータベースの基礎を習った俺は、

なんか用語を使ってみたくなって口走った。




「・・・それが、サーバーのセキュリティが尋常じゃなく強固で、

 外部からのアクセスは厳しいらしいの。」




・・・まぁ、そりゃあそう簡単にはいかないか。




「じゃあサーバーから情報を得るのは厳しいな。」


「あ、でも、1つ”不可能ではない”方法があるんだけど・・・。」




そう言い、結乃ゆのはなぜか気まずそうに俺の顔を見る。




「え?・・・どうした?」


「直接、この施設に乗り込んでサーバーPCを奪ってくる方法。」


「はああっ!?」




俺は思わず大声で叫んでいた。


確かに、発想の転換みたいな方法だけど、

さすがに色々マズいだろ!!




「いやいやいや、その視線の飛ばし方からして

 俺に「やれ」って言ってるんだろうけど、

 さすがに不法侵入で捕まるし、

 それこそ自分の社会貢献度がどうなるか分からないだろ!」


「この施設、愛知県内にあるからアクセスしやすいし・・・。」


「いやいやいや、フザけんな!!

 確かにお前に貰ったお金で”社会貢献度”上げたりとか恩はあるけど、

 さすがにちょっと釣り合わないって!」


俺がそこまで言うと、結乃ゆのは右手を自身の顎に当てて、

何やら考え事を始めた。




「・・・成功報酬200万円と・・・そうね。

 御子柴みこしば君は私に5回の”クローズドクエスチョン”ができる権利を与える。

 つまり、「YES」か「NO」で答えられる質問なら、

 私が知る範囲で”なんでも5つ”正直に回答する。

 その質問に対して、私は絶対に嘘を付かないことを保証する。

 それでどうかしら・・・?」




・・・何だって?


この女、俺が彼女の”真の目的”を探るために行動しているということに

勘付いているのか?


それとも、俺がただそういう情報収集に興味があるということを

普段の言動から察して交渉に用いているのか?




「・・・追加条件で、その”5つの質問”のうち、

 1つは今すぐにこの場で答えても良いわよ。」




・・・おっとコレはデカい!


西願せいがん ひろと彼女の関係とかも気になるけど、

彼女から彼女自身の”真の目的”を聞き出せるチャンスだ。




あり得ないかもしれないけど、最悪の場合、

彼女の目的が”御子柴みこしば りゅうを殺すこと”だったら

俺はこの場にいることが最も危険であり、

すぐに逃走すべき、という判断ができる。


代償もデカいが・・・今後を考えても得られるリターンもデカい!




それに、結乃ゆのには悪いけど、

サーバーPCの奪取は、現実的に考えて失敗する可能性がかなり高い。


もし仮に失敗したとしても、俺は結乃ゆのに対して

1つ質問ができることは確定している。






「・・・あぁ、じゃあその依頼、引き受ける!!

 早速1つの質問に答えてもらうぞ!」


「えぇ。」


結乃ゆのは僅かに微笑んでいるが、

多少の緊張も垣間見える表情をしている。




鈴木すずき 結乃ゆの御子柴みこしば りゅう

 将来的に殺そうと思っている。」




俺がそう言うと、部屋は謎の沈黙に包まれた。


結乃ゆのはまっすぐに俺を見ているし、

俺も彼女から視線をそらさずに見据える。




・・・俺がこれまでに感じたことのない奇妙な間が開いている・・・。




今、何秒経過したんだろう?




何もったいぶってるんだよ・・・?



早く、答えろよ!










「・・・答えは・・・”NO”」


10秒ほど経過しただろうか?


結乃ゆのは遂に口を開いた。




「ふぅ・・・良かった~。

 ったく、何の間だよ!!」


俺は彼女を叩く真似をして腕を振ったが、

彼女は俺から目を逸らしてPC画面を凝視している。


・・・わざと俺を見ないようにしている。

直感的にそう感じた。






・・・これは俺の”勘”だけど、

結乃ゆのが俺に対して”何かを仕掛けようとしている”のは

何となく分かった。


それが、彼女の言葉を信じるなら

”殺害”という目的ではないことが判明しただけマシだと考えよう。




「作戦実行は明後日の金曜日。

 私も遠隔でサポートさせてもらうわ。」



























―――――その日の夜、都内某所―――――





「なんで・・・なんで私が・・・!」


一人の若い女性が息を切らしながらアスファルトに転がる。


小綺麗な白いワンピースが彼女の色白な肌によく似合っており、

相乗効果で夜の薄暗い路地裏でもよく目立つ。




そんな彼女を目印とするが如く、

真っ黒なパーカーをフードまで深く被った

謎の人影が1機のモバイルポットと共に彼女へと迫っている。





「私は社会貢献度が74もあるの!!

 ここであなたが私を殺せば、あなたの社会貢献度が低下する!!

 それなのに・・・なんで・・・」


女性は涙をボロボロとこぼしながら、

ゆっくりと迫り来る人影に対して必死に訴えかける。




「・・・君は相当性格に問題があるらしいね?」


人影は、男の声でそう呟く。




「わ、私がどう生きようが、私の勝手なのよ!!」


女性がよろよろと立ち上がろうとした、その時だった。




モバイルポットが勢いよくその女性に追突し、

女性は再度アスファルトに倒れ込む。




「きゃあっ!!」




人影は女性が立ち上がる体力が残っていないのを確認すると、

女性との距離を20mほど空けて立ち止まった。






謎の人影の隣に、先ほど女性を撥ねたモバイルポットが停止する。


・・・縦半分ずつ、水色と黄色に分かれた2色構成のポットだ。




『”第二世代モバイルポット”の機能を解放します。』


ポットからガイダンス音が発せられると、

機体が中央で半分に割れ、内部機構が高速で変形を始める。


3秒ほどで直径50cmほどの”小型人工衛星”のようなユニットが出現し、

半分に割れたポットの外殻をベースにして、宙へと浮遊した。




「・・・こんな野蛮な人間・・・どうせ社会貢献度が規定値以下で

 腹いせに殺人を犯して遊んでいるだけなんでしょ!!

 あなたみたいなヤツはすぐに裁かれるわよ!!」


『社会貢献度・・・”7946”。』




小型の人工衛星が、謎の男の社会貢献度の測定結果をアナウンスすると、

女性は目を丸くして人影を凝視する。




「・・・7946・・・!?

 そんな数値、見たことない・・・。

 あなた・・・もしかして・・・!?」


「・・・君には”美しい社会”のための犠牲となってもらうだけだよ。

 まったく、大袈裟な反応だね。」




そう言うと、謎の男は来ていたパーカーのジップを下げると、

パーカーを静かに脱ぎ捨てた。




深紫のオーバーサイズのシャツ。


オフホワイトのワイドパンツ。


黒い革靴。


黒髪マッシュパーマ。




この見覚えのある格好を見た女性は、

完全に絶望した表情で、

まるで遺言を残すかの如く、力なく口を開いた。




「せ、”正義の味方”にでも、なったつもりなの・・・?」


「うーん、君は間違っているね。俺は”正義”じゃない。」




彼の頭上に浮遊する人工衛星型ユニットが変形し、

先端が砲門のような形状になったかと思うと、

その砲門が眩い光を放ち始める。




「俺は・・・”冷泉れいぜい 奏多かなた”は、”正解”なんだよ。」




刹那、女性の驚いた顔が眩い光に包まれたかと思うと、

一瞬にしてそれは黒い焼死体の塊へと変貌した。


周囲のアスファルトからも焦げ臭い匂いが立ち込める中、

彼は踵を返して来た道を引き返していく。






・・・彼はつい30秒ほど前の自信満々な様子とは裏腹に、

何やら寂し気な表情を浮かべている。




「・・・また私情に囚われたか、俺は。」


寂し気に独り言つ彼の後ろを、

ポット形態に戻った彼のモバイルポットが追尾していった。











★第7話★ 「無茶な依頼」 完結



今回もお読みいただきありがとうございました。



前半ではインフルエンサーである”鈴木すずき 結乃ゆの”との

ミーティングがありました。


彼女は摘人てきじん政策に使われているDBサーバーを盗んできてほしい、

という無茶な依頼を主人公の御子柴みこしば りゅうにします。


しかし彼は条件付きで結乃ゆのの依頼を受けることを決めます。




後半では、摘人てきじん政策の首謀者でもあり、

株式会社LEVOL(レボル)の代表取締役社長でもある

冷泉れいぜい 奏多かなたが、

自身のモバイルポットを利用して女性を殺害する描写がありました。


彼は自信満々に殺害を完遂しますが、

その直後には何やら不満そうな様子を見せています。

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