★第20話★ 自分で決めた目標
★第20話★ 「自分で決めた目標」
・・・俺は突如現れた高校の同級生、久田 梓と共に近くのベンチに腰を下ろし、
彼女のこれまでについて色々と話を聞いていた。
彼女は現役時代に第一志望だった地元の大学に受かったものの、
その後、浪人して今年の春に愛知県の大学に入り直し、今は1年生だそうだ。
そして、愛知に引っ越してきて1週間ほどの時に、
道端で原始会議の人間にスカウトされ、アヴァラス第5号となったそうだ。
「あと・・・隠したくないなら言うけど、さっきの話、満希君の件は私にも責任があって・・・。」
彼女は気まずそうに視線を落とした。
「私・・・満希君から告白されて、断っちゃったんだよね・・・。
そうしたら、その翌日、満希君があんなことになっちゃって・・・。」
「マジかよ・・・。」
俺はてっきり、引きこもり不登校生だった満希には
女性にアタックする勇気なんてないと思っていた。
まさか、本当に告白していたなんて驚きでしかない。
「だから彼の件はどう考えても私にも責任がある。
御子柴君は何も気にかけなくて良いと思うし、
結乃ちゃんに謝らないといけないと思って、
行動に移せないまま、この時まで来ちゃったんだ・・・。」
俺は全身の鳥肌がゾワッと一斉に立つ感覚に襲われた。
「”ユノ”って・・・鈴木 結乃のことか・・・?」
俺が訊くと、梓は不思議そうな表情で俺の顔を見た。
「えっ・・・そうだけど・・・?」
・・・なんで梓が結乃のことを知ってるんだ・・・?
「知ってると思うけど、結乃ちゃんは満希君のお姉ちゃんだからね。」
「えぇぇぇっ!?マジで!?」
確かに・・・満希の苗字は鈴木だったけど、
普通によくいる苗字だから結乃と一緒であることがすっぽり抜けていた。
「まぁ、結乃ちゃんは私達とは別の高校だったから、
私も直接の面識はないんだけどね。
でも、御子柴君は結乃ちゃんと普段一緒にいるから知ってると思ってた。」
「ん?梓さんはなんで俺が結乃と一緒にいるって知ってるんだ?」
・・・よくよく考えたらおかしい。
彼女らが面識ないなら、
俺が結乃の依頼を受けて動いていたことなんて分からないと思うけど。
「それは・・・その・・・ほら!アヴァラスの能力でね!!」
梓はやけに焦った様子で気まずそうな笑みをこぼす。
「そんなことより、私の呼び方、”梓”で良いよ!」
彼女が向けてきた眩しい笑顔に対して、俺は黙って頷いた。
「俺さ・・・結乃にちゃんと謝りたいな。
満希の件はたぶん20%くらいは俺のせいだから・・・。」
「えっ・・・?さすがにもうちょいあるんじゃない?それだと私80じゃん・・・。」
ちょうどその時、彼女の青色のモバイルポット”オース”から
メッセージの着信音が鳴った。
「・・・原始会議から・・・緊急集会・・・?
なんだか嫌な予感がするなぁ・・・。
それじゃあ、ごめんけど、今日はこの辺で失礼するね!」
彼女はそう言いながらベンチから立ち上がった。
「・・・あのさ、明日の午前中って空いてる?
結乃に早いところ謝りにいきたいと思って・・・。」
「うん、大丈夫!
じゃあ城北大学の正門前に午前10時で良いかな?」
俺が頷くと、彼女はふと思い出したように俺の方を向き直した。
「・・・お互いのバタバタが全部終わったらさ、聞いてほしいことがあるんだ。」
梓は先ほどの様子からは一変して、
やけに慎重な様子でそう言った。
「お、おう!!了解した!」
俺は謎の気まずい空気に堪えられず、大声で返答すると、
彼女はまた笑顔に戻り、大きく手を振りながらポットと共に去っていった。
・・・彼女との数分の会話は、
自身が記憶している限りここ数年で一番楽しかった。
いや、下手したら”人生一”かもしれない。
腹の底から純粋な楽しさだけを凝縮した感情が次々と溢れ出してくるような感じ。
いくら彼女の容姿が優れているとはいっても、
こんな感覚は初めてだった。
そして、こんな俺でも、誰かの人生に貢献できていたと思うと、
底知れない達成感というか、自己肯定感を得られた。
・・・欲張りかもしれないけど、これから先も彼女にもっともっと貢献できたら、
俺はどれだけ幸福なんだろう。
俺はその瞬間、自分の中にずっとかかっていたモヤがスッと瞬時に晴れる感覚を覚えた。
もちろん、俺は何も目標がないまま、ただ茫然と今日ここまで生きてきた訳じゃない。
欲しかったゲームを親に買ってもらうために必死にテスト勉強したり、
高校や大学の受験勉強だって死ぬほどやって志望校に入学した。
・・・しかし、それは”誰かが敷いたレール”に沿った目標に過ぎない。
親とか、学校の先生とか、泰然とか、結乃とか、はたまた社会が、
俺の前に人参をぶら下げるかの如く、
「これがお前の”目標”だ」と言わんばかりに用意した、
自分の意思が介在しないただの”ノルマ”だ。
・・・だから、明確に自分で決めた”目標”と呼べるようなものは持ったことがなかった。
俺はつい今日まで、周りに与えられた”ノルマ”をただこなすだけの機械だった。
そんな無機質な旅路を歩いていた俺に、ふと明確な”目標”が現れた。
・・・俺は俺の”全て”を使って久田 梓を幸せにしたい。
少しでも、彼女に貢献したい。
浮かれているだけかもしれない。
俺が良いように捉えているだけで、
彼女は俺に恋愛感情はないのかもしれない。
それでも、俺は俺の”目標”として彼女に貢献したい。
・・・俺は”自分が生きる意味”をようやく見つけられた気がして、
思わずベンチから勢いよく立ち上がり、夜21時を過ぎた川沿いで一人叫んだ。
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・・・それから30分後、原始会議のオンラインMTGが開催されていた。
仮想空間上に展開された薄暗い会議室内では、
半径5m以上にもなる巨大な円卓を囲むように怪人が並び立ち、
室内正面には150インチサイズのスクリーンが設置されている。
そのスクリーンの手前には、
顔面を覆い尽くす黒いガスマスクとインカムを装着した人間の姿がある。
体型を隠すように全身を覆うローブを身に纏ったその人物こそが、
原始会議の主宰”アイガンノーツ”である。
「緊急集会とか言うからビビったわ〜。一体何の用だか?」
現アヴァラス第4号”モノクローム・スロウス”が小声で独り言つ。
「あれ?1、2・・・まだ5体しか揃ってなくない?」
現アヴァラス第2号”ペンデュラム・プライド”が特に誰かを指定することなく尋ねる。
「結論から言おう。」
アイガンノーツが突如口を開く。
ボイスチェンジャーで声質が変わっており、若干聞き取りにくい。
「・・・第6号、ラースが殺された。」
主宰の言葉と同時に、その場に集合した怪人5体に一斉に緊張が走った。
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・・・同時刻、都内の株式会社LEVOLオフィス内。
室内にはスキンヘッドの大柄の男が一人。
「ミスター冷泉、ついに死んじゃったかぁ・・・。」
LEVOL役員である合地 アレクセイが一人、
ノートPCの画面越しに独り言をこぼす。
「ついに・・・ついについについに死んじゃったああああああ!!!フォーーー!!!」
彼は突然大声を張り上げると、自席から立ち上がり、
スキップをしながら窓際まで移動し、夜景を見下ろす。
「・・・ついに”プロジェクトTP”を始動する時が来た。」
彼は一瞬にして大人しくなったかと思うと、真顔に戻り、静かにそう呟いた。
★第20話★ 「自分で決めた目標」 完結
今回もお読みいただきありがとうございました。
第4章ラストとなる今話は非常に情報量が多い回になりました。
主人公である御子柴は、久田 梓のために生きるという目標を設定し、
これまでふわふわしていた「自分が生きる意味」を見つけることに成功します。
彼は彼女との会話を通して、結乃が、
御子柴が高校時代に関わりのあった不登校生
鈴木 満希の姉であることが判明します。
更に、一度も株の継承が行われていなかった無敗のアヴァラス第6号が
何者かに殺害されたことが判明します。
そして、LEVOLの役員である合地 アレクセイは
冷泉 奏多の死を喜ぶような描写がありました。




