表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/43

シーン18 彼女の罪は誰の罪

 シーン18 彼女の罪は誰の罪


「三年前、皆と別れてから、私は故郷近くの星に戻ってみたの。ライは、私が外宇宙の出身だってのは、知ってたよね」


 リンは話し始めた。


「私の生まれた星系は、殆どがレルミー人と、レルミー系のテアード。エレス同盟圏内だと、身分証の作成とかが大変で、仕事を見つけるのも一苦労でしょ。向こうは、そういう意味では未整備だから、私にとっては都合がよかったの」


 なるほど、勉強になります。

 アタシは、感心して話を聞いた。

 そうか、アタシは無意識に同盟圏内にこだわっていたからな―。

 経歴抹消しても、外宇宙に行けばよかったのか。

 よし。次、就職するなら、外宇宙だ!


 でも、外宇宙だと、好きなドラマとか見れなくなるな。


「私は鉱山衛星に仕事を見つけてね。まあ、鉱山っていっても、採掘労働じゃなくて、管理施設の仕事。華やかではないけど、それなりに楽しかったし、充実してたわ」

 彼女は、アタシに少し意味深な瞳を向けた。


「良い人にも出会えたしね。ちょっとだけ、馬鹿みたいに将来を夢みたりもして・・・」


 な、なんですとぉー。

 リンが。

 あのリンが。良い人だって~!

 男なんか、足元に生えてる雑草よりも気にしないようなリンが~!


 アタシの動揺を見透かしたように、彼女は微笑んだ。

 だが、その瞳に浮かぶ悲しみの色に、アタシは気付いた。


「何があったの。そこで」


「ライは。人狩りって、聞いた事ある?」

「・・・!?」

「その顔は、知っているのね」


 彼女は、憎しみと悲しみの交じり合った表情で、一度、唇をかみしめた。

 アタシは、理解した。


 シェードが言っていた。

 レルミー人の皮を求めた「人狩り」。

 それは、リンがいた星でも起きていたのか。


「私たちの鉱山が狙われたのは、衛星だったから。最近は、さすがに本星の警備も厳しくなっていて、手出しは難しくなってる。だから、警備の手薄な所が狙われたの」

「じゃ、あなたの大事な人も」

「突然、攻撃を受けて、気付いたら、殆どの純血レルミーはいなくなっていた。残されたのは、私みたいな混血のテアードや、他の人類種だけ。まだ、生き延びただけマシで、半数以上は殺されたわ。彼は…純血だったから」

「さらわれたのね」


 彼女は頷いた。


「私は生き残った人の中から、一緒に戦える人を選んで集めた。奪われた人たちを救うため・・・。もしまだ命があるのなら、だけど。それが、新しいスカーレットベルよ」


「じゃあ、あの人たちは・・・」


 アタシは、リンの要塞で見た光景を思い出した。

 幾つもの死体。そして、リンの居場所をアタシに伝えて、力尽きてしまったあの人。

 彼らの死は、アタシがもたらしてしまったものだ。


「そう。でも、全員ではないわ。半分くらいは、色んなところでかき集めた連中よ。私も、人数が欲しかったから」

 リンは、話を続けた。


「人狩りの正体を探すうちに、私はエレス同盟内に母体を持つ、ある会社に辿り着いた」

「セントラルトラスト社?」

「ううん。アストラルカンパニーって会社。その道じゃ有名だから、ライも、聞いた事はあるんじゃない?」

「アストラル? 確か、兵器開発の企業よね。でも、倒産したんじゃなかった? テラスへの投資が回収できなくなって」

「そう。流石に兵器マニアね」


 それって、褒められてんのかなー。

 リンが言うと、全部皮肉に聞こえるのはなんでだ。

 ときどき、妙にトゲを感じるんだよねー。


「アストラルは倒産したけど、それは表向きの事。研究施設は今も生きている。そして、そこで開発された兵器を秘密裏に輸出しているのが」

「それがセントラルトラストか」

「そういう事」


 そうか。

 これで納得がいった。


 リンがやっていたのは、「蒼翼のライ」の時と、全く同じやり方だった。

 まずは、手足を潰して、資金源を断つところから始める。

 一つ一つ潰していけば、だんだん相手は枯渇してきて、弱ってくる。そうすると、どこかしらで、必ず無謀な事をやり始める。

 それを続けていくうちに、敵の本拠地が浮き彫りになってくる。

 そこを発見し、叩く。


 リンは、最終的にはアストラルの兵器工場をターゲットにしていた。その資金源を断つために、まずはセントラルトラストの密輸船を襲っていたという事だ。


 事実、セントラルトラストは甚大な被害を受けた。そこで、子会社のセントラルスペーストラベル社のクルーザーを使った密輸を始めた。


 アタシがのったクルージングは、まさにそれだったんだ。


「でも、今回は、相手が一枚上手だった。みんなを殺したのは、私だ」

 悔しげに、リンが呟いた。


 それは、違う。

 リンのせいじゃ無い。

 悪いのは、・・・愚かだったのはアタシだ。

 皆を死なせてしまったのは、全部アタシの罪なんだ。


「リン。アタシのせいなんだ。アタシがあなたの事、調べたりしたから。そして、それをアイツらに知られちゃったから」

「ライ・・・」


 彼女はアタシを見つめた。

 責められるのを覚悟したけど、彼女はそうしなかった。

 むしろ、いつもより、なんだか優しい顔をした。


「あなたのせいじゃない。あなたが調べなくても、いずれは突き止められていた。それに、私は仲間を制御できなかった。奪った兵器は全部処分するようにって指示していたのに、こっそりと持ち帰った奴がいた。そこに、化学兵器の罠が仕込まれているって、考えもしないでね」


 罠にはまったと、彼女は言った。

 敵は、スカーレットベルを狙ってきた。わざと奪わせた武器に、仕掛けをしていたのだ。

 それにしても。

 どんな兵器だったんだ。


「化学兵器って言ったけど、毒だったの? それとも、細菌兵器の方?」

「それが、私にも解らない。気がつけば、みんな一斉にやられてた。そして、最高のタイミングで、奴らが攻めてきた。戦おうとしたけど、無理だった。ここから先は、あなたの方が詳しいわよね」


 アタシは彼女を見つめた。

 なんて言葉をかけて良いか分からなかった。


 アタシと違って。

 ちゃんと普通の生活になじめたはずなのに。

 バカみたいなマネを、続けていた訳じゃ無かったのに。


 なんで、リンがこんな目にあわなければならないんだ。


「さ―て、今度はあなたの番よ。これまでのいきさつ、ちゃんと話してもらえるかしら」

 リンが、わざと声を明るくして、アタシに言った。


 アタシは。

 正直に話した。


 三年間で、お金を使い果たしたことも。

 就職も出来なくて、カース星では不法入星で捕まった事も。

 キャプテンや、バロン、そしてシャーリィに助けられた事も。

 そして。

 やっと見つけたと思った職場に裏切られたことも、全部。


 リンは。

 アタシの告白を聞いて。

 ・・・。

 思い切り笑いやがった。


 なんだよー。

 笑うなよー。

 アタシだって、精一杯生きてきたんだよー。


「なるほどねー。で、今はラライって名乗ってるワケ? またひねりの無い名前にしたものねー」

「うるさいな。いいでしょ、別に」

「だって、前はライザ、でしょ。その前が何だっけ、ライアだっけ。で、今度はラライねー。そろそろ、ライって響きから離れたら」

「アタシのステータスなの。少しくらい残してたいの」

「はいはい」


 ハイは一回でいい。

 アタシがむくれた顔をすると、彼女は珍しく「ごめん」って言った。


「それで、辿り着いたのがこの船か。キャプテンに、バロンだっけ」

「それとシャーリィ」

「その人は女性でしょ」

「何が言いたいの?」

「あなたが気になっているのは、どっちかなって、思ってね」

「ば、バッカねー。そんなんじゃないって言ってるでしょ」


 アタシは全力で否定したが。

 くそ。こーゆー話されると、すぐ顔が熱いや。

 リンはニタニタと、嫌な笑いを浮かべた。


 突然、部屋の通信回路がオンになった。


 『あー。あたしだ。あたし』


 その声はシャーリィか。

 新手の詐欺みたいな呼びかけだな。


 『そっちの様子はどうだー。バロンが眠くてフニャフニャなんだ。そろそろパイロット交換してくれー』


「あ。わかりました。いま行きます―」

 アタシが答えると、リンが不思議そうな顔をした。

「どうかした?」

「・・・あなたが敬語になるなんて、珍しいわね」

「なに言ってんの。アタシにだってそのくらいの常識はあるわよ」


 『ん。その声は。もしかして、蛇女起きたのか―。おーい。生きてたか―』


 なっ、しゃ、シャーリィっ。

 いきなりなんて発言しちゃってるんですかー。


「へ、へびおんなって・・・」

 リンが絶句した。


 そりゃそうだ。


 こっちの動揺も気にせず、シャーリィはいつもの調子で話した。


 『生きてたなら良―し。動けるようになったら、ちゃんと恩は返せよー。あたし達は命の恩人だからな―』


 ぶつっ、と通信が切れた。


 ・・・。


 もう、シャーリィ。リンを怒らせたら、後が怖いんだから。

 あんな発言して、どうなるか知らないよ。


 アタシはおそるおそるリンを見た。

 リンは、あっけにとられた顔をしていたが、アタシと顔をあわせると、ぷっと笑った。


「なるほどね。あなたが敬語になるのも分かるわ。面白い人みたいね」

「面白いっていうより、規格外って感じかな」

「興味深いわ。ねえ、紹介してくれるんでしょ」

「もちろん」


 アタシは通信機をこちらからオンにした。


「シャーリィさん。聞こえてますか―。いまから、リンが挨拶に行くそうです―」

 『りょーかい。どうでもいいから早く来てくれー』

 シャーリィから気の抜けた返事があった。


 アタシはリンの手を引いた。


 あとは、キャプテンにも挨拶をさせないと。

 だけど、問題はキャプテンが部屋から出てきてくれるかどうかだ。


 なにせ、前回アタシがはじめて乗ってきた時には、コミュ症が全開して、みんなが居ないと勘違いするほど部屋から出なくなった人だから。


 ほんと。個性的っていうか、規格外な人たちだわ。

 アタシは、自分の事はさておき、あらためてそう思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ