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シーン17 アタシとリンとのアレやコレ

 シーン17 アタシとリンとのアレやコレ


 リンの体を柔らかいタオルで包んで、アタシとシャーリィは彼女をストラクチャーに乗せて部屋に運んだ。

 彼女の腕や体はとても柔らかくて、どこに、あの格闘戦になった時の強靭さが隠れているのか、不思議に思うほどだった。


「あたしは、少し外すよ」

 気を使って、シャーリィは部屋を出た。

 普段はムカつくことも多いけど、やっぱり彼女は『姐さん』だなー。

 アタシでは敵わないくらい、気配りも出来る。


 彼女の接し方に感謝を覚えつつ、アタシはリンの手を握った。

 ほっとするくらい、彼女の手は暖かかった。


 どれくらい、そうしていただろう。

 少しだけ、うとうとして、アタシは目を閉じていた。


「ライ?」

 彼女の声が、はっきりとアタシの耳を打った。


 リンは目を覚ましていた。

 困惑した表情を、その朱色の瞳に浮かべて、少しだけ怯えたようにアタシを見た。


「リン。良かった」

 アタシは、泣きそうになるのを抑えこんで、彼女に微笑んだ。


 リンは、無言のまま、室内を見回した。そして、身を起こそうとしたところで、自分の姿に気付いた。

 彼女は裸のままだった。

 咄嗟にシーツを掴んで胸元を隠した。

 アタシを、今度は睨むように見た


「あら、そんなに恥ずかしがるなんて、リンらしくないんじゃない」


 よし。言い返してやった。

 アタシは内心にんまりと笑った。


「ライ。あなた。どうして?」

 リンは言いながらも、その思考は既にフル回転を始めたらしかった。


「ここは、あなたの船なの? 私は、私の仲間はどうなった?」

 アタシは首を横に振った。

 それだけで、彼女は全てを察したようだった。

 途方に暮れたように、腕を額の上に交差させて、顔を覆った。


「ここは、宇宙海賊デュラハンの船内よ」

 アタシは言った。


「宇宙海賊? じゃあ、私は囚われたの?」

「敵じゃないわ。デュラハンは味方よ。フリーの海賊なの。昔のアタシ達みたいに」


 アタシはデュラハンの事を、そして、彼女を助けた時の事を、手短かに説明した。

 彼女は、状況を理解するのが早かった。

 仲間が全員死んで、要塞が爆発したことを知っても、彼女は顔色を変えなかった。


「とりあえず、礼を言うべきかしらね。それとも、余計なことをして、って憎まれ口でも叩こうかしら」

「リン、そんな言い方ってないでしょ」


 責めるように言うと、彼女は、アタシから視線を逸らした。

 ややあって。


「なんであなたはここに居るの?」

 リンは顔をそむけたまま、唐突に聞いてきた。


「もう一度私の前に現れたら、今度は殺すって言ったはずよ。あれだけの目にあって、それでも私が怖くないの?」


 アタシは、素直に頷いた。


「怖かったよ。だけどアタシはリンを信じてる。あんなふうに殴られたのだって、なにか、理由があったんだろうって、そう考えた。だから、・・・もう一度、リンと話がしたくって」


 正直な気持ちだ。

 リンの、本当の考えが知りたくて、アタシはここに居る。


「リン。あなたはアタシを助けようとしてくれたんでしょ。アタシが、リンと話したことで、疑われるかもしれないって思ったから。アタシが入った会社、セントラルスペースが良くない事をしてるって、知ってたから。それでわざと」


 そうであって欲しい。アタシは心からそう思った。


「それじゃ、あなたも気づいたのね。あの会社が、やっている事に」

 リンは、応えてくれた。

 少しだけ、ほっとした。


「良くはわかってない。だけど、アタシも会社に殺されかけて、こうしてデュラハンに助けられたの。だから、あの会社に関しては、何か悪いことをしてるだろうって事しか、まだ知らない」

「そうか・・・」


 彼女は、ようやくアタシの方を向いた。

 まだ厳しいけど、ほんの少し、前よりは瞳が柔らかく見えた。


「あなたを殴った理由。本当に知りたい?」

「リンが、話してくれるなら」


 彼女は仕方なさそうに、大きなため息をついた。

「あなたがムカついたから、って、言ったらどうする?」

「え?」


 リンが、意地悪そうに目を吊り上げた。

 この意地悪な目つきは。

 これも、昔のままだ。


「私ね。三年前、あなたが普通の生活に戻りたい、って言った時、そんな事、絶対に無理だと思ったわ」

 リンは体を起こした。

 シーツを体に巻き付け、髪をさっとかく仕草が、やけに色っぽい。


「あなたみたいなポンコツ娘、どうせ、すぐにお金も使い果たすだろうし、まともな就職なんて出来っこない。一年もすれば路頭に迷って、私に泣きついて来るだろうって、たかをくくってた」


 がーん。


 アタシは結構ショックを受けた。

 リンが、そ・・・そんな風にアタシを見ていたなんて。

 これは、結構きつい。超キツイ。正直、立ち直れない程きついぞ。


 それに。

 悔しいけど、全部当たってる。


「なのにさ、あなたときたら、ちゃんと就職もして、男まで出来たって顔してさ。この私が、結局こんな道に戻ったっていうのに、そう思ったら腹が立っちゃって」


「リンってば。・・・そんな風に、ずっと、そんな事思ってたの。アタシの事、ポンコツだなんて・・・」

「あら、気付かなかった?」

 リンは悪気の無い顔をした。


 アタシは。

 ショックのあまり固まって。

 思わず。ぽろりと、こばした。


 突然。

 リンがそんなアタシを見て噴き出した。

 腹を抱えて、本気で笑ってる。


 なんだよ。

 何がそんなにおかしいんだよ。

 ムカつく―。


「ばっかねー。ライ。そんなわけないでしょ」


 ・・・・え。


「あなたって、すぐ本気にするんだから。昔と全然変わんない。知ってた?あなた、アタシに泣かされるの、これで15回目よ」


 ・・・え。


 ええー?


「あなたって、本当に馬鹿。まったく、そんなんだから、ほっとけないのよ」

 リンは笑って、そして、ちょっとだけ自分も、瞳の端に涙を浮かべていた。


「私があなたを殴ったのは、そうね。あなたを護るため。そう受け取ってくれていいわ」

 リンの赤い髪が指の間から流れた。


「あの会社に疑われないように、っていうのも確かだけど。折角、普通の生活を始めているのに、私が海賊を続けていることを知ったら、きっとあなたの性格だと、私に干渉をしたくなるだろうって思った。だから、殴ったの」


「・・・リン」

 彼女は、諦めたように、表情をやわらげた。


「私に本気で痛めつけられて、二度と私の前に姿を見せなければ、それはそれで良かった。あなたは普通の人に戻ったって事だから」


 少しだけ声のトーンが下がった。


「でも、それは私の本心じゃない」

 自嘲めいた呟きが、彼女の唇を突いた。


「もし、あんな目にあってでも、それでも、あなたが私の前に立つようなら、その時は」


 すごく。寂しそうに見えた。

 寂しくて、辛くて、悲しくて。そんな思いが、アタシに伝わってくる。


「もしかしたら、もう一回、私と組んでくれるんじゃないかって、勝手にそう思ったのよ」

 最後の言葉は、どこか贖罪を求めるようにも聞こえた。


 リンの身に、この数年の間で何があったのだろう。

 きっと、とても辛い思いをしてきた。

 それが、アタシには痛い程分かった。


「で、きっと、あなたはそうするだろうって思った。あなたも知っての通り、私は計算高くて、嫌な女だから。・・・きっと、普通にあなたを誘っても、断られるのはわかってた。だけど、あのくらいの目にあわされて、ライならそのまま黙っているはずがない。少しくらい萎れても、必ず私に立ち向かってくるだろうって」


 アタシは、リンの手を掴んだ。

 両手で、ぎゅっと。


「リンのバカ。そうならそうって、もっと早く言ってよ。アタシがどう反応するかなんて、そんなのわからないじゃない。アタシだって、この三年、順風満帆ってわけじゃ、無かったんだから」

「・・・・」


 リンは、アタシの手を振りほどいた。


 と、思うと。

 突然、アタシの頭を抱き寄せた。

 シーツがはだけて、アタシはリンの胸に顔を埋める形になった。

 あったかくて、やわらかー。

 けど、これは、ちょっと、恥ずかしい。


「ごめん。今度から、そうする」

 彼女は呟くように言った。


 アタシは、ちょっとだけ赤面した。


「ともかく。そーゆ―ことだから。アタシも今、宇宙海賊のお世話になってるしー。まだ、普通の生活には戻れてないの」

「みたいね」


 くすっと、彼女が笑った。

 アタシも笑った。

 二人で大笑いして。

 何だかわからないけど、途中から二人で謝りあいをした。

 なんで謝っているのかもわからないけど、なんだかそうなった。


「でもさー」

 リンが昔の調子に戻って言った。


「あなたを泣かせるのって、楽しいのよね。普段強がってる分、ぴーぴー言わせるのが面白くってさ」

「って、リン!」

「そんな怒らないでよ。まあ、あなたが怒っても怖くないけど」


 リンはそう言いながら、冷たい笑みでアタシを見た。


 うわ。この笑みを見るのは久しぶりだ。

 カエルを睨む蛇みたい。

 なんだか。

 背筋が寒くなってきたぞ。


 ってーか。

 思い出した。


 こいつ、根っからのドSなんだっけ。


 こんな澄ました顔して。

 ぱっと見は可愛いような雰囲気もあってさ。

 敵とみなした奴は、とことんいじめ抜かないと気が済まない。いや、味方でも容赦なく苛め抜く。すっごい性格の悪い奴だった。

 敵にしたくないナンバーワン。

 あれ、アタシ、とんでもない奴を、助けちゃったかも。


 リンは立ち上がった。

 何をするのかと見ていると、アタシの衣装棚を勝手に開けはじめた。


「いつまでも、裸ってわけにもいかないし。あなたの服借りるわよ。・・・って、あんまり良いのないわねー」


「悪かったわね。・・・って、あー、そこは駄目!」

「何でさ」


 アタシが慌てて隠そうとしたものを、リンは、目ざとく見つけた。


「へえ~。やっぱりあなたも変わったわね。こんなの、着るんだ~」


 彼女は、アタシがシャーリィに買わされた、スケスケでキワキワの黒い下着を手にして、アタシを楽しそうにじとーっと見た。


「普段着じゃないわよね。勝負下着っていうの?」

「間違って買っただけですー」

「うそ。顔に出てる。好きな人に見せるんでしょ」

「そ、そんなんじゃないから。全然、そんな人なんて、いないでございますからー」


 アタシは下着を奪い取って、くしゃくしゃに丸めてその辺に隠した。


「そう? まあ、私にはどうでも良いけど」


 リンは、しれっと言いながら、何事も無かったようにアタシの下着と服を身につけた。


 くっそおー。

 こいつ、昔と一緒だ。

 なんか思い出の中で美化してたけど、あらためて接すると、何て嫌な奴なんだ。


「昔は、体形も殆ど一緒だったにのね、ライ。あなたちょっと太った?」

「うるさい」

「それに趣味も悪いし」

「う、る、さ、い」


 悪気なく、言いやがって。この蛇女。

 いや。・・・悪気はあるかも。


 身支度を整えると、彼女はベッドの端に腰を下ろした。


「さて、と。そろそろ真面目に話しましょうか」

「そうね。色々と、聞きたいことがあるわ」

「あたしもよ、ライ」


 アタシ達は視線を交錯させた。


「まずはリンの方からよ。何があったの。どうして、また海賊に戻ったの。話してくれる?」

 アタシの問いかけに、彼女は小さく頷いた。



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