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3度目の急ブレーキ
日下部は、相楽の説明を聞いて、さすがにもはやこれまでかと思った。
しかし、日下部の予感は外れ、列車は三たび発車した。
慌てた相楽が振り返り、運転室のドアを叩く。
しかし、運転手がドアを開かれることはなかった。
相楽が何度も繰り返しドアを強く叩いても、状況は変わらなかった。
自らの復讐が失敗した相楽は、うなだれるようにして床に倒れた。
近くにいた乗客が、相楽の身体に接触しないように、座りながら身を引く。
何とも愉快である。
結局、一市民が、政府に、我々に楯突くことなどできないのだ。
我々は特別な存在なのである。
この列車を止めることは誰にもできないのだ。
日下部は高笑いをこらえるのに必死だった。
-しかし、突然、3度目の急ブレーキが踏まれた。
列車は突然スピードを失い、日下部の身体が大きく揺らされる。
-否、これは急ブレーキではない。
けたたましい音と、強い衝撃とともに、日下部の身体は宙に浮き、天地が逆転する。
そして、それが日下部の見た最期の光景となった。
次回が最終話です。