77話
アタシの新しい日常が始まってから2ヶ月くらいだろうか?
早朝のまだ日も出ていない時間からの鎧を装着しての走り込みから始まる。
筋力強化の為とはいえ、重い鎧を付けての走り込みはガシャガシャと金属の当たり、走りにくいし何度も転ぶ。
鍛錬が終るころには朝日が昇り、グラウから近接戦闘の指導が始まる。
「そんなんじゃあ、小物一匹倒せねぇぞ!」
「わかってるってぇ!」
「わかってんならやれ」 グラウの拳をさばききれずに顔面を殴打し、鼻から液体が流れ出すのを袖で拭き、左を軸足にして右拳を打ち込むがあっさりと受け止められ、「腰が入ってねぇ」 と掴まれた右手を引かれ腹部に膝蹴りを打ち込まれる。
踏みつぶされたカエルのような声と痛みに倒れそうな身体を何とか踏ん張る。
(今だ!) 裏拳を当て、怯んだ所を掴まれた手を中心に相手の腕を捻り落とす。
「アタシの勝ちd――」
「フンッ!」 力任せに右手を引き寄せ、固めた腕を外されるとそのまま、わき腹に拳が深く沈み込み腹部全体に痛みが走る。
痛みが治まるのを待つ暇もなく、引き上げられ、「甘すぎるんだよ。 まぁいい次は魔法を教えてやるから待ってろ」 とお叱りを受けた。
「泣けるぜ」
「また、派手にやってるねぇ~。 はい、お水でも飲む?」 渡された水を口に含みうがいをして吐き出すと血生臭い感じが少しはましになり、待っている間に軽食を食べる。
パンに挟まれた卵が美味しく、鶏肉の肉汁がアタシの疲れた体に活力を生み出してくれる。
「美味しかったかな? ブロンディ」
「あぁ、美味しかった」 とタバコに火をつけ一服する。
「よかった。 毎回、大変なんだよね」 とアルエットが言い、こうして食事を用意してくれることに感謝していると「あたしが産んだのって、とっても貴重なんだよ」 タバコの煙が変なところに入り大きくせき込み、得も言えない感情が渦巻き、恐る恐る彼女を見るとアタシの事はお構いなくケラケラ笑っていた。
「そんな目で見られるとはずかしいなぁ~」
「ほ、本当なのかそれ……」
「冗談だよ、冗談、あたしの十八番ジョークだよ。 ただの鶏の卵だから安心していいよ。 まぁ自分用にはあるかなぁ~」 安心していいよと言われてもこんなジョークをハーピイから聞かされ、ブラックにも程があり、その目はどこか信用できない感じだった。
「ブロンディ始めるぞ! おい、どうした? 褐色の肌だが青い顔してるぞ」 グラウは知ってか知らずか…… アタシはつまらないジョークは無視する事にした。
「美味しいよ。 今度、食べてみる?」
「勘弁してくれ……」
鍛錬の次は店でグラウから魔法の基礎から教わる。
教わって改めて分かったことは、あらゆる魔法は一つの属性を基礎とし、他の属性の性質を混ぜるという事だ。
弾丸を作る際は土を基本とし変質の水が関係し、材質と形を変形させる。
魔力の消費量としては石から弾丸を作りだすよりかは材質を用意して生成した方がはるかに燃費がいい事。
そしてもう1つ解ったことはアタシの身体を流れる魔力の量が通常の人よりも少ないという事だ。
グラウによるとまず、男女の魔力内蔵量の違い。
基本的に内蔵されている魔力量は個体差はあるがそれでも女性の方が多く、これは生命を生み出す事が出来るからと考えられている。
故に弊害もあると聞くが……
人間、亜人に係わらず生まれた時から魔力を使用している人と違い、つい最近まで魔法を使った事がなかった事をグラウに説明する。
「まぁ一つ、方法はあるがな……」
「なんだよ方法って?」
ある程度、日常的に魔法石を使って魔法を使う事でその容量が上がり、冒険者などはさらに訓練する事でその精度を高める。
今まで魔法を使ってこなかったアタシが一般の冒険者に追い付く方法をグラウから提示され、まさに荒行とはこの事で、魔力が途切れる限界まで石から弾丸を生成し使い続け、内蔵できる魔力の量を上げるというものだ。
「でもって生成した弾丸は訓練で使う。 まさに一石二鳥だな」 と言われ、いよいよアタシの命の心配をしなければならないような気がしてきた。




