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76話

「魔法を使わなくて正解だって? どいつもこいつもアタシの事を女だからって、バカにして手加減したって事かよ。 ならいっそ殺され――」



 言い切る前に顔面を鷲掴みされ、抵抗するが放す事が出来ず、自分の無力さに涙が溢れ、泣き叫ぶしかなかった。


「放せクソっ!」


「ピーピーうるせぇ! 他の奴はどうかはしらねぇ だがな、てめぇが素手で来たから俺も素手で殴り合っただけだ。 丁度良かったがな。 だってそうだろ? 魔法を使えば血で俺の店が汚れるし、いい事なんてありゃしねぇよ。 素手なら叩き出してそれで終わる」



 顔を掴まれ、表情は見えないがその声に真実味があり、何も言い返せなかった。

 顔面を掴んだ手が動き、そのまま椅子に座らされ、放される。

 掴まれていた頭がズキリと痛むが摩りながら話を聞く。



「女だから手加減した? あぁしたさ、でもなさっきも言ったが、それは死なれちゃ困るからだ。 店から叩き出して野垂れ死ぬのは勝手だがな。 それに、この図体のデカい俺に魔法を使わずに素手で掛かって来たんだ。 それ相応の対応をするのが筋ってもんだろ?」



 ある意味でこれほど気持ちのいい回答を聞けたのは、初めてで、その事がなんだかおかしくて笑ってしまう。

 それは自分自身が一番女だからと意識していたからだと気づいた瞬間だった。



「何がおかしい、お前、頭でもうったか?」


「いや、何でもない。 世の中には2種類の人間がいる。 責任を取る奴と他人に擦り付ける奴」


「ほぉ、で、てめぇはどっちなんだ?」



 アタシの答えはもう自分の中で決まっていた。

 タバコに火を点け、煙を吐き出す。

「暴れた責任は取る。 でも身体を売るつもりはない。 でもここで働く事は出来る」 と言うと相手は笑い「フンッ 交渉成立だ。俺の名はグラウだ小娘…… いや、ブロンディ」 互いに握手し、交渉が成立した。



「あとこれは相談なんだがな」


「まだ何かあるのかよ」



「俺の下で魔法を学ぶ気はないか?」 呆気に取られているアタシはグラウの指にはめられた鈍く輝く透明な宝石を見せられた。


 あの宝石を見せられた時、一瞬何を言っているのか分からず「教えるってどうやってだよ」 と不貞腐れると「お前って本当に何も知らん奴だな」 と呆れられてしまう。



「その指輪がどうしたんだよ。 確かに綺麗だけ――」 後から説明された時には自分が喧嘩をした相手がどう言う奴か理解する事となった。

 そう奴はダイヤモンドクラスの冒険者で名は「グラオ・シュヴァイン」 と名乗り、今は冒険者としては引退してこの酒場の店主。


「なんで、引退したんだ? それにダイヤモンドクラスって相当有名なんじゃ――」


「俺はその末端だ。 こんな資格、大したもんじゃねぇよ」


「辞める時って資格を返却するんだろ?」


「あぁ? 何で俺が勝ち取ったもんをギルドに返却しなきゃならねぇんだよ。 こいつは記念に指輪にしてもらったんだ。 いいだろ?」



 何処か誇らしげに見える表情に、グラオだけが知っている寂しさの様な物を感じた気がした。

 それがどういった理由なのかアタシには分からないが恐らく聞くことも話す事も出来ない事を何となく察する。



「それで、どうするんだ。 俺に教えを乞うか?」


 アタシが頷くと「条件がある。 店の仕事と訓練を両立しろ、今日から俺がお前のボスだ。 あとは覚悟を俺に見せろ」 と言われ、少し悩み、アタシはポケットから資格の石を取り出す。



「ほぉ、そいつは資格の石じゃねぇか、どうするんだ?」



 アタシはボトルの口に石を置き、少し離れ、スキル魔法を発動する。

 弾を装填し狙いを付け、撃鉄を下し引き金を引く、乾いた音と共に弾丸は真っ直ぐ、ボトルの上の石に直撃すると粉々に砕け散った。



「良いのか? また最初からランクを上げる事になるんだぞ」



 これはアタシなりのケジメ、こんな、誰かのお情けで与えられた物なんていらない。

 そんな物を大事にしていたアタシは大バカだった。

 何を願ってあの悪魔と契約したのか、アタシは何を決意したのか…… 


「アタシは強くなりたい。 自分の人生を切り開くためにも、強くなる力が必要だから!」 グラウを見つめ、あの時の言葉をもう一度、アタシは言う。

 これがアタシの証明できる覚悟だ。



「バカでけぇ声出さなくても聞こえてるよ。 まぁ精々頑張れ」 



 窓からやさしい風が舞い込み、空には雲が流れ、澄み渡る青い空が眩しかった。


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