72話
ギルドを出ると日も暮れ暗くなった夜の街は飲み屋が軒を連ね賑わっていた。
以前にグエルに助けてもらったような事にはならないように帽子を深く被って賑わう街を当てもなく彷徨う。
客引きをあしらいながら歩くとそこには【ズイフー】と書かれた酒場の看板に目が留まり、外から香るお酒の匂いに誘われ、中に入ると外にいた時よりも強いお酒の香りが店員よりも先にアタシを出迎える。
初めて入った酒場にドキドキしながら周りを見渡す。
古びた年季の入ったカウンターと後ろに雑に並べられたお酒に座椅子は樽や不格好の椅子。
見るからに人気がないのか、お客がアタシ一人。
(何かある) そう考えると嫌な予感がしたので、ゆっくりと後ろに下がると「キャッ」 と声と共に誰かにぶつかった事に気が付き、後ろを向いて謝るとそこには特徴的な腕から生える羽の娘【ハーピィ】がそこにいた。
「ご、ごめん。 気が付かなかった」
「別にいいよ。 それよりも落とした物、拾うの手伝って」
「あ、あぁわかった」 アタシは落とした品を拾いカウンターの上に置き、「これで全部か?」 と聞くとエプロン姿の彼女が奥から出てくる。
「ごめんな、お客さんにこんな事させてしまって」
「気にすんな。 後ろを見てなかったアタシが悪かったんだ」
「せっかく来たんだから、何か食べてく?」
せっかく来たんだし、美味しい物でも食べて気を紛らわそうと「とりあえずなんか美味しい肉料理」 と注文すると「あいよぉ」 と景気のいい声に期待が膨らむ。
タバコを吸いながら待っていると出来上がった料理が運ばれてきた。
鳥の手羽先部分の塩焼きで芳ばしい香りに早速、かぶりつくと肉汁が幸福感が口に広がる。
「ここって酒場なんだよな」
「そうだよ」
「なんかお酒ある? 強いのが欲しいんだけど」
「失恋でもしたのか?」
「うるせぇ そんなんじゃない」
マリカやセシールさんに言われた事が引っかかる。
何もかも仕組まれ、陰でアタシの事を笑っていたと思うと許せなかったが実力ではどうする事も出来ず、アタシはお酒に逃げようと考えていた。
出されたお酒は小さなグラスに入った透明な液体ではあるがここからでも強い匂いがする。
店員のハーピィよると植物の樹液から作られた癖の強い酒らしいがそんな酒を店員は一気に飲み干すのを見てアタシも手を伸ばし、グラスを口につけようとした時、グレーの色をした手がアタシの腕を掴む。
「アルエット、てめぇ、ガキなんかにこんな酒出してんじゃねぇよ」
「うるせぇなアタシの勝手だろ!」 振り向くとそこには、アタシの腕を掴んだ大男が立っていた。
その大男はグレーの肌、少し捲れた鼻に口元には2本の牙が生え、指に輝く宝石、服は紫のドレス、そして……
お世辞にも似合っているとは言い難い化粧をしたオーク種のハイゴブリンがそこにいた。
「なんだ? 俺の顔に何かついてるのかガキ」
「べ、別に何でもねぇよ。 それに、アタシが何を飲もうと関係ないだろ!」
「関係ない? ここは俺の管理する店だ。 そんな酒を飲んで俺の店に反吐されちゃあ敵わねぇんだ。 てめぇの様な小娘はミルクが丁度いいんだよ」
(二度だ。 アタシの事を二度も小娘とバカにした) ギルドの事もあって苛立っていた。
(どいつもこいつもアタシの事をバカにする。 せめて酔って忘れたかったのに……)
「アタシだって冒険者だ! 小娘なんかじゃない」
「ガァァァ、ハッハッハッハッ てめぇの様な小娘が冒険者だぁ? 殻の付いたひよこの様な奴がなぁ 笑える冗談だ」
アタシはハイオークの手を振り払い、小さなグラスに注がれた酒を一気に飲み干す。
焼ける様な痛みと高純度のアルコールの不快感が胃から喉元に一気に押し寄せる。
吐き出すまいと呼吸を止め我慢する。
「てめぇ、俺の忠告を無視しやがったな!」
「知るかよ。 世の中には2種類の奴がいる。 可憐な奴とそうじゃない奴」
「ほぉ、で? 俺はどっちなんだよ」
「聞くまでもねぇだろ、ばk」 瞬間、大きな拳が見え、顔面に強烈な痛みと共に店の景色が消え、大きな音と身体全体を打ちつけた。




