73話
朦朧とする意識の中で大きな身体が近づき、アタシの胸倉をつかみ何かを言っているがふらつく頭で何も聞こえない。
床に落とされ、「てめぇ、女だからって容赦はしねぇぞ」 相手の怒鳴り声と痛みがアタシに覚醒を促す。
「バカに…… しや ……がってぇぇぇぇぇ!」 震える足を抑え、何とか立ち上がり、足元に落ちていた瓶をおもむろに拾い上げる。
「小娘、そんなんで俺を倒せると思ってんのか?」 アタシはこれを武器にはせず、ビンのコルクを開け、そのまま口を付けて流し込む。
焼ける喉、胃から逆流するような刺激なんて、アタシの痛みに比べたらどうでもよかった。
タバコに火を点け、煙を吐き出しす。
濃いアルコールの匂いが鼻腔を突き抜け、それが気持ちよく感じられる。
「もう、バカにざれるのは沢山だ」 ポンチョを脱ぎ捨て、サイドバックも外し、アタシは左前中段に構える。
小娘、喧嘩を売るなら相手をよく見るこった。 世の中には相手によっては吹き飛ばされることもあるって事を理解しておくんだったな」
掴みかかろうと襲い掛かって来る相手にアタシの打撃も空しく、そのまま壁に激突し、肺から空気が絞り出され、苦し紛れに頭部に肘を打ち込むが硬く、そのまま投げ飛ばされ、丸いテーブルにぶつかり、身体を強打する。
アタシを踏み貫こうとする足を避け、腹部を蹴り入れるが分厚い脂肪や筋肉の壁にはあまり効果は無く、そのまま足を掴まれ投げ飛ばされる。
ふらつく頭の中で思い出すのは相手ではなくアタシの事を馬鹿にした奴らの事、でも最も腹が立つのは自分が弱い事。
あんなお膳立てで喜んで手の平の上で踊らされていた自分自身。
ここで立ち上がらないと一生、あたしはアタシでいられなくなる気がした。
(……だから、立ち上がらなきゃ)深く息を吐き、痛みを堪え立ち上がり、椅子を掴み、相手に叩き付ける。
椅子が砕けるがダメージは見られず、「泣けるぜ」 呟く間に拳が顔面に襲い掛かる。
痛みを堪え、鼻血を拭い、再び構え掛かって行くが、何度殴ろうと返り討ちに会い、相手からのダメージの方が何倍も大きく、何度も気絶しそうになった。
(でも……)
「てめぇ、小娘の癖にやるじゃねぇか」
「アタシは…… 小娘なんかじゃ…… ない…… アタシの名は」 ふらつく足を地面に叩きつけて何とか立ち上がり構えると相手の拳が見え、鈍い音とわずかな痛み。
「ブロン…… ディだ。 ババァ」
「フンッ 誰がババアだ」と腹部にめり込んだ強烈な痛みに目の前が暗く――




