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「本日は、本当にありがとうございました」
零の横に立ち披露宴の出席者に一人一人挨拶をしてお見送りをした。
スタッフの方に新婦側のご友人の方がお1人中々出て来ないと報告を受け、何をしてるのかと会場に戻り扉から覗いた。
そこにはテーブルを飾り付けられていた花を一生懸命手を伸ばして取ろうとしている椿の姿が。
「椿?」
「あ、茉愛沙。これが…取れなくて…」
と、大きなお腹を横にして目の前の花に手を伸ばそうとしていた。
「止めて!私が取るから」
と、カサブランカの大輪を有るだけ取って渡した。
披露宴の後、テーブルフラワーを持ち帰る風習があるのは知っていた。
それは一般的な披露宴であって、今日は…この桐生家の披露宴では…テーブルフラワーを例え手渡されても持ち帰る人なんていない。
だけど椿は違う。
どんな時だってお花はお花。
可愛くて大事なものなのだ。
「ありがとう。ごめんね。花嫁にこんなことさせてしまって」
「ううん。私こそありがとう。体が大変な時に…」
「何言ってるの。茉愛沙の晴れ舞台に来ないわけ無いじゃん。それも全く知らない内にこんなことになってるし。それより一華〈いちか〉ちゃんが今日は全然話せそうにないから、又後日連絡するって言ってたよ。又3人でお茶しようって。」
そう言ってニッコリと笑ってくれた。
「…椿」
思わず涙が溢れそうになり、
「さ、もう出ましょ」
と、椿の荷物を持つ。
かなりお腹が大きいのに、長い時間の披露宴で疲れていないだろうか。
「椿、今日はこのままタクシーで帰って?」
「いいよ。この時間なら電車走ってるし」
「時間はね。まだ5時頃だから。でも…体が駄目。無理しないで」
そう言って自分がドレス姿なのも気にせず、椿の荷物を持って、まだ参列者が居残っているホールを軽く会釈をしながら横切り、ホテルを出て目の前のタクシー乗り場に向かった。
つかまえたタクシーの後部座席にサッサと荷物を置いてその横に椿を無理矢理座らせる。
「今日は本当にありがとう。又連絡するから」
そうは言ったものの今はお金を持っていない。
少し迷ったが運転手に
「支払いは…三条に請求を。彼女からは絶対に受け取らないで下さい」
とドライバーに言っていると、横から万札が数枚差し出された。
「!」
驚いてその手の主を見ると…
零がお金を差し出していた。
「え?あの…」
驚いたのは私で思わず数歩後ずさった。
そして…後ろの裾が長くなっているドレスの裾を踏んでしまい…
「きゃあ!」
と、バランスを崩した。
ガシッ!
「っつ!あぶねぇ…」
片腕で支えられ、後ろに倒れ込みそうになるのをグイッと戻される。
「…す、すみません」
そう言って直ぐに零から離れ、おずおずと
「お願いします」
と、ドライバーに頭を下げた。
後部座席の椿に
「また、連絡するね。体を大事にして」
目で念押をしてタクシーから離れ手を上げた。
零がタクシーの運転手にお金を渡したことで、漸く走り出したタクシーを見えなくなるまで見送った。
青葉の事は一言も話さなかった。
椿はどう思っただろう。
自分の兄と付き合っていたはずの私が…ある日突然他の人と結婚することになったと送りつけた招待状を見たとき…
でも…
今はそれどころではない。
そして零に深々と頭を下げる。
「ありがとうございました。お金は後で…」
「金はいい。入るぞ」
そう言って
『これで1つ事が済んだ』
と言わんばかりにさっさと行ってしまう。
「…はい」




