第九十話「裏切り」
「凛様が【一条家の宝玉】を盗み、逃走しました」
結月は、状況が呑み込めていなかった。
しかし、朔はすぐさま察し、立ち上がる。
「瀬那たちを金翠の間へ呼べ」
「かしこまりました」
「朔様っ?」
「お前も来い」
「──っ! はい」
朔は部屋を出ると、金翠の間へと向かう。
結月も遅れないように後を追った──
──金翠の間。
「……」
金翠の間には重苦しい空気が流れていた。
「まさか、凛さんが【宝玉】を盗むなんて……」
「先程、現場を見てきたが見張りの者が全て気を失っていた。おそらく薬品か何かで眠らせたのだろう」
蓮人の言葉に対し、現場の確認をおこなってきた実桜が言う。
「実桜、犠牲者は?」
「一人もいません」
瀬那の問いに、答える。
「あの、【宝玉】とは……?」
結月は瀬那たちに問いかける。
「宮廷の最奥の間にある一条家に伝わる家宝の一つだよ」
「それをなぜ凛さんが……」
「わからねえ、わかんねえよ! なんでだよ、凛さん!」
瀬那が大きく取り乱す。
「もしその【宝玉】が運悪く敵の手に渡ったとしたら……?」
蓮人が考え得る最悪の場合を言う。
「……朱羅の大きな力になってしまうな」
実桜が冷静に言う。
「どんな理由であれ、【宝玉】を盗んだことは一条家に対する謀反」
朔の厳しく怒りを乗せた言葉に、その場にいた皆が恐れた。
「瀬那、蓮人、実桜、結月。凛を捕縛しろ」
「「「「──っ!」」」」
「これより愁明家当主、愁明凛を一条家の敵とみなす」
結月たちは戸惑いを隠せなかった。
(凛さん……なんで……)
一方、その頃凛は暗い森の中にいた。
「約束のものは持ってきましたよ」
その言葉に木々の中からゆっくりと姿を現す。
「さすが一条家の懐刀」
姿を現したのは、魁だった──
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