第八十八話「闘いの行方」
「結月は俺のものだ」
朔の低い声が凛の耳に響く。
「──っ!」
その凄みに圧倒されそうになる凛だったが、すぐに正気に戻ると刀を振り上げる。
それを低い姿勢で打ち払うように一気に凛の刀を飛ばす朔。
天高く飛んだ凛の刀は一本の竹に突き刺さる。
凛の喉元に朔の刃が突き当てられる。
そこで終わりに思えたが、しかし凛はあきらめなかった。
足で朔の刀を蹴り飛ばすと、腕に仕込んだ隠し武器で朔の顔を狙う。
その刃は朔の髪を切り、はらりと切られた髪が落ちる。
朔は凛から距離を保つと、胸元に仕込んだ小刀を取り出した。
「やっぱり懐刀は持ってたか」
「俺をなめるな」
二人は再び刃を交える。
先ほどまでの刀の距離とは違い、より身体が密着している。
それぞれの殺気が反発し合い、空気の流れを一気に変えた。
朔は小刀を素早く振り、凛の腕を切りつける。
「──っ!」
しかし、それとほぼ同時に凛の隠し武器も朔の腕を切りつけた。
「──っ!」
そして、ついに決着がついた。
凛が朔の傷ついた腕を狙ったところを見逃さず、朔は自分の腕を犠牲にして凛のみぞおちを小刀の頭で打った。
「ぐっ!」
凛はうめき声と共にその場に倒れた。
朔はそのまま倒れた凛を見下ろす。
凛は仰向けになったまま、顔に腕を持っていき、顔を覆う。
「やっぱ叶わないのかよ……」
「今日は危なかった」
「慰めはいい」
「慰めではない」
朔は凛の隣に座り、言葉を紡ぐ。
静かになった竹藪だが、二人の激闘の末、荒れ果てている。
「昔だったら、時哉様に怒られてたな」
「ああ」
「あとの処理は頼んだよ、一条家ご当主」
「都合のいい時だけ使うな」
凛は起き上がって座ると、朔に頭を下げた。
「俺の負けだ」
「当たり前だ、俺が負けるわけない」
「それもそうか」
凛は悟ったように笑って月を見上げる。
「結月は君と侍女が口づけしたところを見たと言っている」
「──っ!」
朔は珍しく目を見開いて凛を見つめる。
「朔のことだから、何か事情なり誤解があるんだろう?」
「……」
「結月はそれで朔には想い人がいるって思いこんだ」
凛は朔を見つめると、意地悪そうな顔をした。
「俺が言えるのはここまで。あとは二人でなんとかして」
凛は立ち上がって、朔に背を向けた。
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