第八十七話「ある約束の場所」
「来ないかと思ったよ」
「……」
朔と凛はある竹藪にいた。
「懐かしいよね……ここで何度も朔と稽古した」
「ああ」
「俺がいつも君に負けてた」
凛が朔を真剣な表情で見つめる。
「けど、今日は絶対に負けない。俺のためにも、結月のためにも」
「やってみせろ」
静かに二人は刀を抜き、構えを取る。
風が音を立てて、竹藪の中をすり抜けていく。
「──っ!」
先制したのは凛だった。
一気に刀を振りかぶって見せたが、それは見せかけで、実際は『突き』で相手の脇腹あたりを狙う。
「──っ!」
それを寸でのところで避けた朔。
二人は再び構えの姿勢になる。
「さすがだね、あの『突き』を避けるなんて」
「お前にしては珍しい策だな」
「朔を倒す、それだけのために今日は動いているからね」
「……」
次は朔が一歩踏み込み、凛に切りかかる。
その太刀筋に無駄はなく、凛の右肩を掠める。
その攻撃にひるむことなく、凛は刀を朔の刀にぶつけ、自分の手首をひねりながら刀の勢いを殺す。
刀の勢いが削がれたと同時に、すぐさま刀と自分の身体を引き、朔の左側に回って切りかかる。
「──っ」
朔の顔がゆがむ。
そして、刀と刀はぶつかり拮抗して静止し、お互いの顔が近づく。
「その顔が見たかった、朔。もっと本気になりなよ」
「十分本気だ」
「気に入らない! いつも澄ました顔をして全てを手に入れていく!」
凛のイグの発動により、朔の刀は弾かれる。
その反動で朔も後ろに引き下がる。
「昔からそうだ! 朔は全てを見通せて、全てを思い通りにしていく!!」
凛が朔に再び切りかかる。
「──っ!」
暗黙の了解でイグの使用は行わずにおこなっていた闘いは今、全ての力を使った闘いへと変化した。
凛は青碧色の刀身を掲げ、朔に向かっていく。
それに対し、朔も金色の刀身、そして大太刀へと変化させ、凛に相対する。
凄まじい風が回りの竹藪をなぎ倒していく。
刃が触れ合う度、刀身は悲鳴をあげる。
「結月は渡さない!」
「ふ、お前の激情ぶりは久々だな」
「朔っ!」
「凛っ!」
二人の男が刃を交え、想い人への感情をぶつける。
朔が手を大きく振り、三日月型の衝撃波を放つ。
凛はそれをするりと避けると、朔の懐に入り込む。
「──っ!」
朔の頬から血が流れだす。
朔は自分の頬を切り裂いた刃を握り締めると、凛を引き寄せる。
そのまま囁くように発した。
「結月は俺のものだ」
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